軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百六十三話 野生のベヒモス

今日はみんな朝から元気いっぱいだ。

なにせ待ちに待った狩りに向かうことになっているからね。

みんないつもよりもたっぷりと朝食を摂って準備万端。

俺はいつもと同じくあっさりした朝食を摂らせてもらったけどね。

さてこれから狩りに出発というところで、ゴン爺からの提案が。

『考えたのだがな、狩場にするならなかなかに面白い場所を知っているのじゃが、そこに行かないか?』

「面白い場所?」

『うむ。深い森なのだが、その中に一部地面が天高く飛び出た場所があるのじゃ。その飛び出た部分の頂上にはさらに森が広がっていてな。その森には、なかなか面白い魔物が多いんじゃ』

一部が天高く飛び出た場所?

「え、それって普通に山じゃないの?」

『違う。山ではないのじゃ。うーむ、説明が難しい…………。おお、そうそう、主殿が飯を並べる台があるじゃろう』

飯を並べる台?

「……もしかして、テーブルのこと?」

『そう呼ぶのかわからんが、おそらくそうなのじゃろう。その“テーブル”とやらに似た形に地面が飛び出して、あんな風に上の部分は平らになっておるんじゃ。その平らな部分が森になっているというわけじゃ』

テーブル状に隆起した岩……。

いつかネイチャー系のテレビ番組で見たテーブルマウンテンが頭に浮かぶ。

ゴン爺の言うその森って、そのネイチャー系のテレビ番組で特集してたギアナ高地みたいなところなのかな?

てか、ギアナ高地みたいなところなら却下だよ。

秘境って言われてるような所なんだぞ。

この異世界のギアナ高地に似た場所なんてことになったら、きっと人がほぼ足を踏み入れない場所に違いない。

俺もいろいろとフェルたちに連れ回されたから分かる。

そういうことだから……。

「却下」

『な、何故じゃ?! そこでしか獲れない魔物などもいて面白いんじゃぞ!』

「いやいや、そこさ、どこにあるか知らないけど、天高く飛び出た場所っていうからにはゴン爺に乗って行くってことになるんだろ?」

『うむ。それが一番手っ取り早いからのう』

「それがダメ。この前、ブリクストの街からゴン爺に乗って帰ってくる時だって騒ぎになったじゃん」

ゴン爺が超巨大な姿になって飛ぶんだから、そういう時は前もって根回しが必要ってことなんだよ。

たかが狩りに行く程度で、冒険者ギルドに根回しをお願いするのも大変だろうが。

「そういうことだから、その話は却下。近場でいいじゃん近場で」

カレーリナの街の外だって森だらけだよ。

基本的にこの世界は都市部以外は手つかずの自然だらけなんだし。

なにせ重機なんてないから人力が基本だからね、そんなに開発されてないし。

『ゴン爺、ちょっといいか? お主が言っておる場所は、もしかして、真ん中辺りに湖がないか?』

今まで静かだったフェルがゴン爺に声をかけた。

『おお、あるある。真ん中に澄んだ水の湖があるのじゃ』

『やはりか! 我も大分前だが行ったことがあるぞ! 確かにゴン爺の言うとおり、面白い場所だ。あそこには確かべ……』

不自然に言葉を止めるフェル。

「べの後はなんだよ?」

『な、なんでもないぞ』

……怪しい。

『ゴン爺、ちょっとこっちに』

『何じゃ?』

『いいからちょっとこっちに来い』

『何を偉そうにしておる』

『いいからちょっと!』

『まったく用があるならお主が来ればいいじゃろうが』

文句を言いながらもフェルの方へ向かうゴン爺。

そして、顔を突き合わせてコソコソと話し始める。

『……こには……もす………な』

『そう………れに………………ふだん………かかれない…………しゅ……………』

『……の我ら……あそ…………みない…』

『うむ………………が……みず……の……なも……………………』

『………のさか………………やつに……させ……………うま………のでは………?』

何を話しているんだ?

ってか、何顔を見合わせて頷いているんだ?

『よし、ゴン爺の言う場所に狩りに向かうぞ』

振り向いたフェルがそう言った。

「は? 俺とゴン爺との会話きいてなかったの? 却下だって言ったじゃないか」

『大丈夫だ。ゴン爺に乗って行けばそれほど時間はかからん』

「いやいや、だからそれがダメなんだってば。ゴン爺の超巨大な姿は大騒ぎになるんだってば」

『それならば、元の大きさにならずにほどほどの大きさにとどめておけばよいだけだろう』

「は?」

ほどほどの大きさって?

『ゴン爺、当然できるのだろう?』

『当たり前じゃ。ほどほどの大きさというと普通のドラゴンくらいの大きさでいいか?』

『うむ。それだけあれば我ら皆乗れるだろう』

いやいやいや、普通のドラゴンくらいの大きさって何言ってるのかな?

君たち言っていることがおかしいから。

普通のドラゴンが出ても近隣の街が大騒ぎになるからね。

『よし、そうと決まれば……っと、ここでは出来ないのだったな。街の外でないと。そうと決まればさっさと行くぞ』

「いやいや、行かないからね。却下だって言ってるでしょ。狩りは近場で。いいな!」

『四の五のうるさいぞ。とにかくさっさと乗れ』

フェルが急かしてくるから、渋々フェルの背中によじ登る。

『おいスイ。ゴン爺の言う場所に行くらしいぞ。フェルも面白いって言ってるし、こりゃあ楽しみだな!』

『うんっ! スイも楽しみ~』

「ドラちゃんもスイもなんだかゴン爺の言う場所に行く気になっているけど、行かないからねっ」

『おい、飛ばすから口を閉じろ』

フェルから警告されて仕方なく口を閉じた。

それから俺たち一行は、カレーリナの街の門をくぐり外へとやって来た。

『よし、街からも離れたし、ここでいいだろう。ゴン爺、よろしく頼むぞ』

『うむ』

「ちょっとちょっと、だからダメだって!」

止めるのも聞かずにゴン爺が大きくなった。

『いいぞ。乗るのじゃ』

『よっしゃ』

『はーい』

ドラちゃんとスイはウキウキでゴン爺の背中に乗っている。

「ドラちゃんもスイも素直に乗らないの! だからダメだって言ってるでしょ! 行かないよ! だいたいゴン爺に乗って行かなきゃいけない場所なんて、今日中には帰ってこれないってことだろ?」

『まぁ、儂に乗って行けば遠いことはないが、日帰りは無理じゃろうな。そうなると狩りをする時間が無くなるしのう』

「ほらぁ。家のみんなには狩りに行くって言ってあるだけで、泊りがけになるなんて言ってないんだからね。心配するだろ」

『彼奴らなら問題なかろう』

「問題なかろうってね、そうやって簡単に言うなよフェル。問題大アリだからね!」

『ええい、うるさいぞ! さっさと乗れ!』

業を煮やしたフェルが俺の襟首を噛んでポイッとゴン爺の背中に放り投げた。

「ちょっ、何する! うわぁっ」

素早くフェルがゴン爺の背中に乗ると『出発だ』と声を上げた。

『了解じゃ』

フェルの言葉に応じてゴン爺が舞い上がる。

こういう時ばっかりスムーズに連携するのはズルいぞ!

「了解じゃなくって、ダメだってば! 降りてよゴン爺!」

『おい、しゃべっていていいのか? 儂本来の大きさじゃない分安定性も落ちているから落ちやすくなっておるんじゃが』

「……は?」

『しっかりつかまっておれということじゃ』

思わずゴン爺の首にしがみついた。

『よし、準備はいいな。それでは出発じゃ』

「だからダメって何回も言ってるのにぃぃぃぃっ」

俺、フェル、ドラちゃん、スイを乗せたゴン爺は大空へと舞い上がり、悠々と空を進んで行ったのだった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

『おい、着いたぞ』

ゴン爺の首にしがみ付いて目を瞑っていた俺の頭をフェルが小突く。

「小突くなよ~」

俺は不貞腐れながらゴン爺から降りた。

朝早くにカレーリナを出てきたはずが、太陽は既に真上に昇っている。

「ったく、あれほどダメって言ったってのに聞きやしないんだから……」

文句を言いながら周りを見回して、あまりの光景にあんぐり口を開ける。

「樹齢何年の木だよ……」

遠目から見ても大木と分かる木々が鬱蒼と茂っていた。

『うわぁ~、大きい木がいっぱいだよ、あるじー』

『雰囲気のある森じゃねぇか。こりゃあ獲物も期待できそうだな!』

スイとドラちゃんは無邪気にはしゃいでいるけども。

「ここがゴン爺が言ってた場所か?」

『うむ。頂上の森の真ん中辺りじゃな。ここは昔、儂が獲物を追って暴れた名残じゃな』

どうりで森の真ん中だっていうのに、広い空き地なわけだよ。

というか、想像以上に秘境なんだけど……。

森なんて生易しい言い方じゃなく、ここってジャングルだよね。

まるで再現CGとかである恐竜ひしめくジュラ紀のジャングルみたいなんだけど。

ギィギィとかグアァァァッとか絶え間なく聞こえてくる何かの鳴き声も相まって、余計にそう思えて仕方がない。

……今更だけど、絶対にヤバイ場所だよね。

そんなことを考えながら顔を引き攣らせていると、そんなことはお構いなしの一行が騒ぎ始める。

『おい、そんなことはいい。さっさと狩りに行くぞ』

『お主はせっかちじゃなぁ。まあ、いい。行くとするか』

『おう! 行こうぜ! 腕が鳴るぜ~』

『スイ、いっぱい倒して一番になるんだー』

『おーい、聞き捨てならねぇぞスイ。俺が一番に決まってんだろ』

『スイが一番だも~ん』

『おっし、それじゃ競争だ!』

フェル、ゴン爺、ドラちゃん、スイはすっかり狩りモードで今にも飛び出していきそうだ。

「ちょっとちょっと! 俺はどうすんのさ?」

『ん? いつものようにここで我らの夕飯の用意でもしていればよかろう』

「いやいやいや、こんなところに一人で置いていかれるとか怖すぎでしょ!」

『結界も張っていくから大丈夫だろう』

「また簡単にフェルはそういうこと言う~。こんなとこに一人でいるなんて嫌だぞ」

こんなとこじゃ落ちついて夕飯作りなんてできないっての。

『おいフェル、お主の結界でベヒモスからの攻撃は大丈夫なのか?』

………………今、何か物騒な固有名詞が聞こえてきたんだけど。

空耳かな?

「ゴン爺、何の攻撃だって?」

『ん? ベヒモスじゃ』

『ゴン爺、そのことは内緒だと言ったではないか』

フスンと鼻息を吐きながら呆れたようにフェルがそう言った。

『ああ、そうじゃった! でもまぁ、もう狩場に着いているしいいじゃろうて』

………………。

「ベヒモスって、ドランのダンジョンの最下層にいたやつ?」

『そうだ』

「あれがここにいるってこと?」

『うむ。前に我がここに来たときはいたぞ』

『儂が来たときにもいたのう』

「野生ってこと?」

『そういうことになるな』

………………。

『なぁなぁ、聞いたかスイ。野生のベヒモスだってよ! ク~、あいつとまた遣り合えるとは! めっちゃ楽しみだぜ!』

『べひもす~?』

『そうだ。ほらドランって街のダンジョンの一番下の階にいたボスだよ』

『あー、思い出したー! ビュッビュッてしてもなかなか効かなかった固いやつだー』

『そうそう、それがいるらしいぞ』

『うわぁ~楽しみだね~』

………………。

ドラちゃんとスイの会話は聞いているだけならほのぼのだけど、内容は物騒極まりないからね。

というか……。

「野生のベヒモスがいるなんて聞いてないんだけどぉぉぉぉぉ!」