軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百六十二話 バカマスター捕獲回収完了

「ムコーダさん、本当に申し訳ありません」

目の下にクマを作ったウゴールさんが、申し訳なさそうに頭を下げた。

「止めてくださいよ、ウゴールさん。悪いのはエルランドさんであって、ウゴールさんではないんですから。それどころか、こうして迎えにも来てもらって……。ドランでの仕事も忙しいのに、こちらこそ申し訳ないです」

「いや、それこそムコーダさんにまったく非はないのですから謝らないでください。諸悪の根源はあの馬鹿マスターなのですからねぇ」

そう言うウゴールさんの背後にゴゴゴゴゴーッと燃え上がる怒りの炎が幻視できたよ。

「それで、うちのバカマスターはどこに?」

「ええと、それが……」

かくかくしかじかと今まであった出来事をウゴールさんに話して聞かせると、ウゴールさんの額にピキピキと青筋が立っていく。

「あのド腐れ変態めが~」

ウゴールさん、目が据わってるよ。

「そんなわけで、ここに泊めるわけにもいかず、しょうがないのでうちの元冒険者の 奴隷(従業員) たちの家に寝泊りしてもらっています」

「うちのバカマスターが迷惑ばかりかけて申し訳ありません。早速回収していきますので、その家まで案内を頼めますでしょうか」

「あ、それならここで待っていただければ大丈夫かと思います。実を言うと、元冒険者たちの家に寝泊りしてもらっているのも、こう言っては何ですが監視の意味もありまして。ですが、エルランドさんもああ見えて元Sランク冒険者ですからね。監視の目をかいくぐって、こちらにやってくるんですよ。多分今日も、もうそろそろ……」

ウゴールさんとそんな風に話していると、ゴン爺とドラちゃんから念話が。

『おい、またアイツが来てるぜ。いつもの窓からコソコソ覗いてやがる。あいつの顔を見るのはうんざりだぜ』

本当に嫌そうな声色の念話が聞こえてくる。

『あのエルフ、しつこいにも程があるな。辟易するわい』

ゴン爺もドラちゃん同様に本当に嫌そうな声だ。

「ウゴールさん、エルランドさん来たみたいです。リビングの窓からコソコソ中を覗いているらしくて」

俺は、リビングのある右手方向を見ながらそう言った。

「あの恥さらしめがっ。とっ捕まえてきます」

怒り心頭のウゴールさんはそう言うけど……。

「あ、あのっ、大丈夫ですか? エルランドさんは元Sランク冒険者ですけど」

ウゴールさんは確か元Bランクの冒険者だ。

純粋な戦闘力で言ったら元Sランクのエルランドさんの方に分があると思うんだ。

「フッフッフッ、その点でしたら大丈夫です。あのバカマスターも腐っても元はSランクですからね。その辺を考慮に入れて強力な助っ人を連れてきていますので」

そう言ってウゴールさんがリビングの方を指した。

ハンドサイン?

「は?! アナタたち何でここにいるんですか?!」

エルランドさんの声が聞こえてきた。

「え、ちょっ、イタッ、何するんですか! やめなさいっ! 私を誰だと思っているのですか!」

そして、争うような物音が。

「依頼なんでな。悪く思うなよ」

低い男性の声。

依頼って、え、ちょっと、何が起こっているの?

呆気にとられていると、30代半ばから後半に見える見るからにベテラン冒険者だと思わせる男性4人が姿を現した。

そのうちのガタイの良い獣人と人族の二人の手によって、鎖でグルグル巻きにされたエルランドさんが運ばれていた。

「任務完了だ」

先頭を歩いていた双剣を腰にぶら下げた頬から顎にかけて傷のある渋いイケオジがそう言うと……。

ドサッ―――。

地面に放り投げられるエルランドさん。

「ンンーーーッ!」

よく見ると、しゃべれないように口の中に布を突っ込まれている。

「おっと、すまんな。ギルドマスター」

「副ギルマス、うるさいから口に布突っ込んじまったわ」

エルランドさんを運んでいたガタイの良い二人が、悪びれもせずにそう言った。

「気にする必要はないですよ。バカマスターがやらかしたことを考えれば、少々手荒に扱われたって文句を言える立場ではないのですから。ねぇ、それはアナタも分かっていますよねぇ」

そう言いながら、鎖で雁字搦めにされて地面に横たわるエルランドさんの腹の上に足を載せるウゴールさん。

完全に目が据わっている。

怖いです、はい。

「ンーーー!!!」

ウゴールさんの足元にいるエルランドさんが唸る。

「黙らっしゃい!」

そうピシャリと言ってエルランドさんを足でグリグリ踏みつける。

おお……、何気に鬼畜なウゴールさんだ。

でも、そうしたくなる気持ちも分かるよ。

「そうだ、ムコーダさんにご紹介を。こちらは、今回のバカマスター捕獲回収計画にご協力していただきましたSランク冒険者パーティーの“深淵の観測者”の皆さんです」

「ええと、どうも……」

俺が頭を下げると、ヨッという感じで4人が手をあげた。

「皆さんちょうど地上に戻っているときで本当に助かりましたよ。バカマスターは馬鹿は馬鹿でも実力だけはありますからね。それに対応しうる実力者に協力してもらうことが必要不可欠でした。皆さんのご協力ですんなりと捕獲できて良かったですよ」

「本来、私たちはダンジョン専門なのですけどね。ですが、普段からお世話になってる副ギルマスからの頼みでは断れませんからね」

神官服を着てメイスを腰に下げた丁寧な言葉遣いの物腰の柔らかい回復魔法使いだろう僧侶がそう言うと、他のメンバーもウンウンと頷いている。

聞くところによると、このSランク冒険者パーティーの“深淵の観測者”はダンジョンを専門とする冒険者パーティーで、ここ2年近くはドランのダンジョンをメインに活動しているのだそうだ。

「ま、あんたに先を越されちまったけど、俺たちもいいとこまで行ってるんだぜ」

ガタイの良い獣人のメンバーがおどけてそう言う。

「それはその……」

うちには伝説の魔獣と言われるフェンリルのフェルがいましてね。

その他にもピクシードラゴンのドラちゃんとスライムのスイという強い味方がいるので。

「そこは実力の差だ。しょうがねぇよ」

ガタイの良い人族のメンバーが獣人のメンバーの肩をポンと叩きながらそう言った。

「そういえば、フェル様たちはどちらに? 皆さんにもご迷惑をかけてしまいましたし、ムコーダさんの新しい従魔である 古竜(エンシェントドラゴン) 様には特に迷惑をかけてしまったようなので謝っておきたいのですが」

ウゴールさんがそう言った。

ドランにいたときは、フェルたちを交えてウゴールさんともやり取りしてたし、それなりに交流があったからね。

フェルが人語を理解してしゃべることも、もちろん知っているもんね。

“深淵の観測者”の4人もフェルたちに、そして新しい仲間である 古竜(エンシェントドラゴン) のゴン爺に興味津々な様子。

「みんなリビングにいますけど……」

俺がそう言うと、地面に横たわるエルランドさんが「ンンーッ」とまた騒ぎ出した。

「フン、うるさいですよバカマスター」

そう言いながらエルランドさんの腹の上に置かれたウゴールさんの足に再び力が入る。

「バカマスターのことなら大丈夫です。絶対にこの鎖を解くことはできませんので」

自信たっぷりなウゴールさんの話によると、この鎖はとあるお貴族様からの依頼を受けるために作った特製のもので(もちろん製作費はお貴族様持ちとのこと)、頑丈さにおいては天下一品の鎖なのだそうだ。

その依頼は無事達成されたものの結局この鎖は使われずじまいで、お貴族様もそんなものはいらんという話になってギルドでもらい受けたそう。

この頑丈な鎖で拘束されている以上、いかに実力者であるエルランドさんであってもそれを破って自由になることは叶わないだろうということだった。

「聞いていた通りアナタに巻かれたその鎖、ギルドの倉庫に放置されていたあの特製の鎖ですよ。実にいいところで役に立ってくれました。いくらアナタでもこれを破ることはできませんから、大人しくしていなさい」

その話を聞いてようやく観念したのか、エルランドさんが静かになった。

なるほど、そういうことならみんなを呼んでも大丈夫そうかな。

そう思い、俺はみんなを呼びに行った。

『ハッハー、ざまぁねぇな!』

『その拘束も自業自得じゃな』

鎖で拘束されて地面に横たわるエルランドさんの姿を見て、ドラちゃんとゴン爺が辛らつな言葉を発する。

そういう発言になるのもよく分かるから咎められないよ。

『これでようやく狩りに行けるな』

『ヤッター! お外で遊べる~』

フェルとスイも一安心というところか。

「フェル様、お久しぶりです。他の皆様も、このバカが大変ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。責任をもって連れ帰りますのでご安心ください」

ウゴールさんがフェルたちを見て謝った。

『連れ帰るのはいいが、また此奴にここに来られては非常に迷惑じゃ。その辺は大丈夫なのかのう?』

ウゴールさんの言葉に胡乱げな目でそう言い放つゴン爺。

「ウゴールさん、新しく従魔になった 古竜(エンシェントドラゴン) のゴン爺です」

「ご懸念はもっともなこと。しかし、大丈夫です。この話はバカマスターにもしっかりと聞いておいてもらいましょう」

ウゴールさんがエルランドさんを踏みつけている足に力を込めたのか、エルランドさんが「ンンッ」と呻いた。

「今回の件については王都のお偉方も相当ご立腹でしてね。立場に見合った、いやそれ以上の給料を出しているにもかかわらず職場放棄とは何事か!? 給料泥棒と言わずしてなんと言う! など他にも言葉にできない発言が飛び出すほどに怒っていらっしゃるそうですよ。もちろん今回の件もこのままにはしないそうです。1年の減俸と、お偉方が良しと言うまでアナタには監視が付くことになります」

お、おぅ、監視付きか。

エルランドさんもオイタし過ぎたってことだな。

「そうそう、それから、アナタの監視役は同じエルフのモイラ様です。少し前に引退なされましたが、今回の話を聞いて快く引き受けてくださったそうですよ」

「ンンンンンーーーッ!!!」

唸りながら激しく嫌がる様子のエルランドさんを見て、ウゴールさんに聞いてみたところ、このモイラ様という方とエルランドさんは同じエルフという種族ながら、正反対の性格でまったくと言っていいほど反りが合わないらしい。

モイラ様は、元は王都の冒険者ギルドのお偉方の女性で、その地位まで昇り詰めたことからも実力は折り紙付き。

そして、エルランドさんとは正反対に仕事は一つ一つ確実にこなしていく堅実タイプで、納得できなければはっきりと口に出す人でもあるそうなのだ。

そのモイラ様だが、エルランドさんみたいにいい加減に仕事をする人には、当然容赦なく注意の嵐となるわけで。

そういう人に年がら年中監視されることになるのか……。

ご愁傷様です。

でも、自業自得だよね。

「そういうことなら安心ですね」

「ええ。それに、もし、もしですよ、モイラ様の監視の目をかいくぐり逃げ出した場合は全国に指名手配される手はずになっております。そうなれば、当然ムコーダさんたちに会うわけにもいかないですし、このバカマスターでも、全国の冒険者を相手にして逃げおおせるわけにはいかないですからね。それだけ今回の件については、お偉方も怒ってらっしゃるということですよ」

全国指名手配かよ。そうなってから、またうちに来られても迷惑だぞ。

その前に、そうなったら最初にうちはマークされるだろうし。

「エルランドさん、こうなったからには、観念して面倒起こさないのが一番だと思いますよ」

そう声を掛けると、エルランドさんが滝のように涙を流していた。

「ま、まぁ、二度と会えないわけじゃないですし」

そう言うと、エルランドさんが期待をこめた目で俺を見上げた。

「も、もちろん、すぐにというわけではないですけど、そのうちドランにお邪魔することもあると思います。多分……」

まぁ、しばらくはドランは避けるけどね~。

そんなやり取りをウゴールさんとしている傍ら、“深淵の観測者”の面々は口を半開きにして唖然としていた。

十中八九うちの二大巨頭であるフェルとゴン爺の圧倒的存在感に驚いているんだろうけどね。

「いやぁ~、こんな従魔がいるなら先を越されるのも当然だぜ」

ガタイの良い獣人のメンバーがそうつぶやくと、他のメンバーもウンウンとしきりに頷いていた。

だけど、ドランのダンジョンを攻略したときはフェルとドラちゃんとスイという面子で、最近仲間になったゴン爺はいなかったんだけどね。

“深淵の観測者”の面々にそれを言ったら、何故か苦笑いされたけど。

「それでは、一番の目的のバカマスターの捕獲回収も済みましたので、そろそろお暇させていただきます」

「そうですか。ウゴールさん、カレーリナをいつ頃発つのですか?」

ウゴールさんには無理を言ってこちらに来てもらっているし、飯くらいはご馳走させてもらいたいな。

「このあとすぐに」

「え? すぐですか?」

「はい。このバカマスターをすぐにでも仕事に復帰させないといけないので」

正しくとんぼ返りだね。

「それならちょっとだけ待っていてください」

そう言って急いでキッチンへと向かった。

そして、昨日の夕飯を作るときに余分に作っておいたダンジョン牛の牛カツを使って、パパッと牛カツサンドを用意した。

ウゴールさんと“深淵の観測者”の面々の分だ。

それからネットスーパーでとあるものを購入。

ウゴールさんの奥さんのティルザさんと息子のミハイル君、そして娘のミラナちゃんへのお土産だ。

俺が助けを求めたことで、お父さんでもあるウゴールさんに長期間家を空けさせることになっちゃったからね。

これくらいはしないと。

「お待たせしました。たいしたものじゃないですけど、道中皆さんで食べてください」

「ありがとうございます。ムコーダさんの料理は美味しいですからね、ありがたくいただきますよ。もちろん、バカマスターには食べさせませんけどね」

フフフ、俺もエルランドさんの分は用意してませんから。

「あとこれを。奥様とお子さんたちに。ウゴールさんを長期間お借りすることになって、ご家族に寂しい思いをさせてしまったでしょうから」

ネットスーパーで購入した缶入りドロップを、中身のドロップだけビン容器に移し替えたものを渡した。

「飴という菓子で、口の中で溶かしながら味わってください。甘いものが好きとおっしゃっていた奥様もお子様たちも気に入っていただけると思います」

「お気遣いありがとうございます。妻も子どもたちも喜びます」

ウゴールさんが、俺から受け取ったドロップを大事そうに鞄にしまう。

「それでは、もうそろそろお暇します」

「遠くまでご足労いただきありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそバカマスターが大変ご迷惑をおかけしました」

ウゴールさんと“深淵の観測者”の面々が遠ざかっていく。

鎖でグルグル巻きにされたエルランドさんは、“深淵の観測者”のメンバーに抱えられ運ばれていった。

「ハァ、これで一件落着だな」

『うむ。早速明日は狩りに行くぞ!』

『お、いいな! あいつのせいで家にこもりっきりだったから体が鈍ってしょうがないぜ。明日はどっさり獲物をしとめてやるぜ!』

『狩り~! スイ、いっぱいビュッビュッてするんだー!』

『ほ~、狩りとは面白そうじゃ。儂も参加してみるかのう』

エルランドさんのせいで家にこもりきりだったフェルたち一同は既に狩りに向かう気満々だ。

「狩りって聞くとあんまり気は乗らないけど、今回はみんなも我慢してたろうし、しょうがないか」

そういうわけで、明日はみんなで久々の狩りに行くことが決定したのだった。