軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百十九話 人間の血を好む魔物

階段を下りた39階層。

そこには青々と生い茂る木々が立ち並ぶ森が広がっていた。

「森、だな……」

『うむ。いつかのダンジョンと同じだ』

『ドランだったよな。あの変態エルフがいる街のダンジョン』

ドラちゃん、変態エルフって辛辣だな。

まぁ、否定はしないけど。

某あの人、ドラちゃんには変態的な態度とっていたしね。

『あるじー、あっちからなんか変なの飛んで来るよー』

スイがそう念話で言いながら、俺のズボンの裾を引っ張った。

「変なの?」

スイが触手で指す方向を見ると、ブーンと羽音を立てて飛んでくる虫っぽい何かが。

「……あれは、蚊か? にしてはデカくないか?」

明らかに尺度がおかしい蚊がこちらに向かって飛んできている。

『チッ、あれがいるのか。おい、フェル』

『うむ。大量にいるな。というか、此奴がいるのだ。嫌でも集まってくるだろうよ』

『だよなぁ。鬱陶しいぜ』

デカい蚊について知っている素振りのフェルとドラちゃん。

「フェルとドラちゃんは知ってるのか?」

『ありゃあな、血が大好きな魔物だ』

『うむ。1匹1匹は弱いくらいの魔物なのだが、何せ数が多くてな。血を吸えそうな獲物が近くに来ると、とにかく大量に集まってくるのだ』

『しかもあいつらの1番の好物は人間の血だからなぁ』

そう言いながらドラちゃんが俺を見ると、フェルも頷きながら俺を見る。

「え、人間って、俺?」

『そうだぜ。ほら、来た』

「ヒェッ」

体長1メートルくらいはありそうなデカい蚊がストロー状の尖った口を俺に突き立てようとしていた。

『そう心配するな。我の結界があると言っているだろう。此奴らの攻撃でどうこうなることはないから安心しろ』

フェルの言葉通り、デカい蚊のストロー状の口は結界の見えない壁に阻まれてカツカツと音を立てていた。

「それは分かってるんだけど、やっぱりな……。しかし、デカいなぁ」

日本にいた小さな蚊とは比べものにならないほどの大きさの蚊をしげしげと見る。

フェルの結界に阻まれたのを見て安心したこともあって、デカい蚊を鑑定してみる余裕も生まれた。

【 ヴァンパイアモスキート 】

Dランクの魔物。血を吸う魔物で、特に人間の血を好む。同時に複数から血を吸われると死亡する場合もあるので注意。

ヴァンパイアモスキートっていうんだ、このデカい蚊。

血を吸う魔物で特に人間の血を好むっていうんだから、大きさが違うだけで正に蚊だよな。

デカい蚊に血を吸われているところを想像してしまって顔を顰める。

ま、まぁ、フェルの結界があるしそんなことにはならないだろうけどね。

だけど……。

デカい蚊ことヴァンパイアモスキートは、しついくらいに何度も何度もカツカツと音を立てながら俺にストロー状の口を突き刺そうと試みていた。

「えーっと、これはそのうち諦めてどっか行ってくれるのかな?」

『バーカ、そんなわけないだろ。さっきも説明したけど、そいつは人間の血が大好物なんだぜ。大好物を目の前にしてどっか行くわけないだろう』

「グッ……。ドラちゃん、バカは言い過ぎだぞ」

『おい、ドラの言うとおりだ。そして、説明した通りそこの1匹だけではない。次々と集まって来るぞ。見てみろ』

フェルがそう言うので回りを見ると、大量のヴァンパイアモスキートが俺を目指して次々と飛んできていた。

「うわっ、何だあの数……」

ブーンブーンと不快な羽音を立てて大量のヴァンパイアモスキートが飛来する。

そして、先に来ていた1匹と同じように、俺にストロー状の尖った口を突き立てようとしていた。

カツカツカツカツカツカツカツ―――。

……これ、どうすればいいのかな?

『これって、このままなの?』

フェルたちが見えないほどに集まったヴァンパイアモスキートに顔を顰めながら念話で聞いてみた。

『そのような雑魚は倒してもつまらん。結界があるのだから大丈夫だろう』

『こいつ等のお目当てはお前だしなぁ。俺とフェルとスイには何の害もないし』

ドラちゃんがそう言うので見ると、ヴァンパイアモスキートが集っているのは俺だけ。

近くにいるというのに、ヴァンパイアモスキートはフェルたちには見向きもしなかった。

どんだけ人間の血が飲みたいってんだよ。

『邪魔なら自分で倒すのが良かろう。レベルアップにも繋がるぞ』

『うんうん、そうしろよ。ダンジョンに入ってからお前碌に戦闘してないだろ? せっかくダンジョンに来たんだから少しは戦っておけよ』

フェルとドラちゃんが戦うことを勧めてくる。

まぁ確かに戦闘っていう戦闘はほぼしてないからなぁ。

別にしなくてもいいんだけど、テナントのこともあるし、レベルアップするのは悪くない話だ。

それにフェルの結界のおかげで安全に戦えるっていうのも安心だ。

『それじゃあやってみるか。フェルの結界で安全だし。ただ、数が多いのが難点だけどね……』

俺に群がってストロー状の口を突き刺そうとしているヴァンパイアモスキートに辟易とする。

『あるじー、大丈夫? スイがやっつけようかー?』

『スイ、ありがとな。でも、これは弱い魔物みたいだから自分で倒してみるよ。ちょっと大変だったら手伝ってくれな』

『分かったー』

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「ヤァッ」

グサッ―――。

ヴァンパイアモスキートにスイ特製のミスリルの槍を突き刺した。

「フゥ、刺しても刺しても減らないな……」

ヴァンパイアモスキート狩りに勤しむ俺の脇では、フェルとドラちゃんとスイはお昼寝だ。

「ったく、集まりすぎだっつうの。どっから匂いを嗅ぎつけてくるのかねぇ」

チクチクと刺しながらそれなりの数を倒してはいるものの一向に減らないのは、次から次へと飛来するヴァンパイアモスキートが原因だ。

「なんかこう一遍に大量にサクッと倒す方法とかないかな?」

こういう場合は魔法を使うのが1番手っ取り早いんだろうけど、俺が使えるのは火魔法と土魔法だからね。

森の中で火魔法を使うわけにもいかないし、土魔法はそもそもダンジョンでは発動しないしなぁ。

うーん、どうしたもんか。

このデカい蚊を倒すにはやっぱり1匹1匹チクチク刺していくしかないのかね。

デカい蚊、蚊…………、あっ!

俺はネットスーパーを急いで開いた。

そして、あるものを購入した。

「これこれ、蚊に効く殺虫剤! エイヴリングのダンジョンにいた黒光りしたあいつにもネットスーパーのゴキ専用殺虫剤が効いたんだから、ここにいる蚊にも効くはずだ」

俺は購入したスプレー式の殺虫剤をヴァンパイアモスキートに向けて噴霧した。

シューッ―――。

「どうだ?」

俺にストロー状の口を突き刺そうとして勢いよくカツカツと音を立てていたヴァンパイアモスキートが、ヨロヨロと後退してポトリと地面に落ちた。

「おおっ、やっぱり効いた!」

調子付いた俺は、さらに殺虫剤を購入して二丁拳銃のように両手に殺虫剤を持ってヴァンパイアモスキートに噴き付けていった。

「おりゃっ」

ブシューッ、シューッ、シューッ、シューッ―――。

「こっちもだ」

ブシューッ、シューッ、シューッ、シューッ―――。

俺は、ヴァンパイアモスキートに殺虫剤を噴霧しまくって順調にその数を減らしていった。

「ふぅ、疲れた」

俺の足元には空になった殺虫剤のスプレー缶がいくつも転がっていた。

『ふむ、大分倒したようだな』

俺の回りに散乱した大量のドロップ品を見て、クァーッと欠伸をしながら起きてきたフェルがそう声をかけてきた。

「まぁ、なんとかね。でも、こんだけ大量に減らしたのにまだ生きてるヤツが残ってるっていうのが怖いけど」

『それは数だけはいるからな。それよりも腹が減ったぞ』

「もうそろそろそう言い出すんじゃないかと思ってたよ。俺もいい加減疲れてきたし、飯にするか」

この階に来たのも昼飯を食ってからしばらく経ってからだったし、時間的にももうそろそろ夕飯時なんじゃないかなって気はしていた。

『ふぁ~、飯って言ったかぁ?』

飯という言葉が耳に入ったのか、大あくびをして起き出してきたのはドラちゃんだ。

『ごはんー?』

ドラちゃんが起きたのに釣られてスイも起きてくる。

「ああ、ご飯だよ。でも、ドロップ品を拾ってからな」

『おおっ、お前にしちゃけっこう倒したじゃねぇか』

俺の回りに大量に落ちたドロップ品を見て、ドラちゃんが驚きの声をあげた。

「まあね。俺だってやる時はやるんだぞ」

『あるじすごーい!』

「フフフ、ありがとなスイ」

『でも、全部倒さなくっていいのー? まだ飛んでるよー』

「あれはいいよ。そのうち倒すことになるからね」

スイの言うとおり、まだ俺の回りにはヴァンパイアモスキートが少しだけ残っていた。

これで全部倒したかと思ってもどこからともなくやってくるヴァンパイアモスキートに、途中からとにかく数を減らす方向に作戦を変更。

そのおかげか今いるヴァンパイアモスキートは5匹にまで減っていた。

殺虫剤での攻撃が相当効いたのか、今いるヴァンパイアモスキートは俺に対して迂闊にストロー状の口を突き刺そうとはしない。

それでも、人間の血を諦めきれないのか付かず離れず一定の距離を保ちながら俺の回りをウロウロと飛んでいた。

鬱陶しくはあるけど、あれを倒してもそのうちまた新しいのが飛んでくるだろうし。

それに、俺に考えがあるから大丈夫。

寝てるうちに一網打尽にしてくれるわ。

それよりも……。

「スイ、ドロップ品拾うの手伝ってくれるか」

『うん、いいよー』

「数が多いから大まかでいいからね」

『分かったー』

とにかくドロップ品の量が多いし、ヴァンパイアモスキートはDランクの魔物だからドロップ品もそれほど高価なものではないだろうからね。

スイと一緒にせっせとドロップ品を拾い集めて、ある程度拾い集めたところでフェルから声がかかった。

『おい、夕飯はまだなのか?』

「もうそろそろ用意しはじめるから。っとその前にフェルにお願いしたいことがあるんだった。いつも俺が土魔法で作ってる箱型の家があるだろ、それくらいの大きさの結界を張ってくれるか?」

『む、いいぞ。……出来たぞ』

「早いな。よし、そうしたら……」

ネットスーパーでとあるものを購入した。

早速段ボールを開けて、買ったものの封を開ける。

『何なのだそれは? ひどい匂いがするぞ』

独特な香りはフェルのお気に召さなかったのか、嗅ぎつけた匂いに顔を顰めている。

逆にドラちゃんとスイは『嗅いだことのない匂いだな』と興味津々だ。

「これはね、蚊取り線香っていうんだ。俺のいた世界のもんだけど、これに火をつけて焚くだけで蚊を駆除できるんだぞ。今までも蟲系の魔物に俺の世界の殺虫剤が効いてたことを考えると、この蚊取り線香もヴァンパイアモスキートに効果覿面だと思ってな」

『へ~、焚くだけで駆除できるってんなら数が多いその魔物にはもってこいだな』

「そういうこと。ただねぇ、焚くともっと匂いが強くなるんだよねぇ~」

そう言いながら蚊取り線香の独特な香りがお気に召さなかったフェルに目をやる。

『匂いを通さない結界にするから大丈夫だ。それよりも外に出すなら早くしろ』

「はいはい」

しかし、匂いを通さない結界なんてことができるなんてさすがフェルだね。

無駄に長生きしてないわ。

そんなことを考えながら蚊取り線香に火をつけてセット。

それを4つ用意して箱型結界の四つ角にそれぞれ設置した。

『ふむ、効いているな』

『おー、すっげえ効いてるじゃん』

『すごーい! なんにもしてないのにボトッて落ちたー』

「フフン、やっぱり効いたな。これで夕飯中も寝てるときも安心だ」

みんなと話しているうちに5匹から数を増やしていたヴァンパイアモスキートが力なく次々と地に落ちていく。

これでひとまず安心だな。

ということで、夕飯を作っていきますか。