軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

キナコ

タンサの町の東地区にある炎龍の団の屋敷の一室で、キナコとメルトが話をしていた。

「俺を呼び出したってことは、ゼルディアの情報が手に入ったのか?」

キナコは猫人族専用のイスに座って足を組んだ。

「ああ。ゼルディアはドールズ教の信者が作った村によく顔を出しているらしい」

メルトが木製のテーブルの上に地図を置き、印をつけた場所を指さす。

「村の場所はエクニス高原の森の中だ。多分、司教のルーガルもそこにいる」

「エクニス高原か」

キナコは鋭い視線を地図に向ける。

「あの辺りには危険なモンスターも多い。隠れ村を作るにはいいかもしれんな」

「多分、そこに神殿もあるのだろう」

「ならば、炎龍の団も動くのか?」

「……いや」

メルトは首を左右に振った。

「この前の戦いで多くの団員が死んだ。今は炎龍の団は動けない。悔しいがな」

「そうか」

キナコは数秒間無言になった。

「……感謝するぞ、メルト。やっと、ゼルディアを殺す好機を得ることができた」

「おいっ、まさか、お前たちのパーティーだけで六魔星のゼルディアを倒しに行こうなどと考えているんじゃないだろうな?」

「いや。これはパーティーの仕事ではない。俺だけで行く!」

キナコはきっぱりと言った。

「バカなことを言うな!」

メルトがテーブルを平手で叩いた。

「六魔星と一人で戦うなど、自殺行為だぞ!」

「死ぬつもりはない。少なくともゼルディアを殺すまではな」

「……何故だ? 何故、ヤクモたちといっしょに戦わない? ヤクモの実力はお前も認めていたじゃないか?」

「ああ。たしかにヤクモは強い。だが、六魔星は別格だ。災害クラスのモンスターよりも危険度は高い」

キナコの毛が一瞬だけ逆立った。

「俺の私怨のために仲間を危険にさらすわけにはいかん」

「キナコ……」

「ゼルディアを倒すために、あいつらとパーティーを組んだのだがな。どうやら、俺は思いのほか、ヤクモたちを気に入ってしまったようだ」

キナコはふっと笑みを浮かべて、イスから立ち上がった。

「じゃあな、メルト。ついでにルーガルも殺しておいてやる」

そう言って、キナコは部屋から出ていった。

その日の夜、キナコは馴染みの酒場のカウンターで店主の男から、ひょうたんを受け取った。

「キナコさん。ご要望通り、ナバイ産のチュル酒を入れておきました」

「何年物だ?」

「当たり年の二百八年物です」

店主が答える。

「この年は天候に恵まれて、チュル果の出来が最高でした。フルーティーで柔らかな酸味があり、香りも極上です。そんなチュル果で作られたナバイ産のチュル酒は、天界に住む神々の飲み物と評価されるようになりました。しかも、これはソルフィが自ら作った一品です」

「チュル酒の母と呼ばれるマザーソルフィーか?」

「はい。一口飲めば、無償の愛を注いでくれる母親に抱かれているような感覚になると、多くの者が絶賛しています」

「……母親か」

キナコはまぶたを閉じて、顔を上げる。

数十秒の沈黙の後、キナコは大金貨一枚をカウンターに置く。

「釣りはとっておいてくれ」

「ありがとうございます」

店主は丁寧に頭を下げる。

「危険な戦いに行かれるのですか?」

「どうしてそう思う?」

「キナコさんがヴィンテージ物のチュル酒を注文される時は、いつもそうですから」

「……そうだったな」

キナコは自虐的な笑みを浮かべる。

「今回は特別な戦いだから、酒も最高の物を用意したかったんだ」

「特別……ですか」

「ああ。ずっと望んでいた戦いだ」

キナコの口角が吊り上がった。

「……マスター。世話になったな」

「いえ。またお越しください」

「ふっ。生きていたら、また寄らせてもらう」

キナコはしっぽを揺らしながら、酒場から出ていった。

夜の町は巨大な月に照らされていた。

冷えた風がキナコの茶トラの毛を揺らす。

キナコは薄暗い路地を進み、巨大な西門を出る。

キナコの視界に草原が広がっていた。

「さて……行くか」

キナコは西にある森に向かって歩き出す。

その時――。

「キナコ……」

草原から、声が聞こえてきた。

振り返ると、そこにはヤクモが立っていた。