軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

危険な依頼

昇級試験から、十日後。

僕はアルミーネの家の庭でキナコと戦っていた。

短剣に見立てた木の棒を振り下ろすと、キナコは右足を一歩引いて、その攻撃をかわす。

「まだまだっ!」

僕は大きく左足を踏み出し、木の棒を突いた。

キナコは右手の肉球で木の棒を弾き、前に出る。

くっ! やっぱり速いな。

僕はキナコのパンチを左に跳んで避ける。その動きをキナコは読んでいた。同時に左に移動して、僕の足を払う。

「うわっ!」

僕はバランスを崩して横倒しになる。

起き上がろうとした瞬間、キナコの肉球が僕の頭を軽く叩いた。

「まだ、動きが甘いな」

キナコは腕を組んで僕を見下ろす。

「俺のパンチを避けるまではいい。だが、視線が避ける方向を向いていたぞ。相手が弱い奴なら、視線に気づかないが強者は違う。覚えておくんだな」

僕は上半身を起こして、上着についた土を払う。

「そんなところも戦闘でチェックしてるんだね。勉強になるなぁ」

「ふん。それにしてもお前も熱心だな。昇級試験から戻って、毎日、模擬戦を挑んでくるとは」

「もっと強くなりたいと思って」

「もっと強く……か」

キナコは金色の目を細くする。

「お前の紙を操る能力は応用力が高く、遠距離でも戦える。それなのに白兵戦を鍛えるのか?」

「そのほうが生き残りやすいと思って。紙の能力で防げない攻撃もあるだろうし、魔力の節約にもなるから」

「なるほどな。たしかに白兵戦に強くなれば、魔法戦士と同じ戦い方もできるか。いや、紙の能力のほうが敵の意表も突けるな」

「うん。珍しい能力だから予想できないし」

僕は立ち上がって、手足を軽く動かす。

「キナコには迷惑かけると思うけど、時間がある時は、これからも模擬戦の相手をしてもらえると助かるよ」

「問題ない。パーティーの仲間が強くなれば、両親の願いが叶えられる可能性も上がるからな」

「どんな願いなの?」

「故郷の村を滅ぼした六魔星ゼルディアを倒すことだ」

キナコは遠い目をして、青い空に浮かんだ雲を眺めた。

「といっても、その頃の俺は生まれたばかりの子猫だったからな。村に思い入れはない。だが、仲間を殺され、命からがら逃げ出した両親にとっては大切な故郷だ。だから死ぬ前に俺に遺言を残した。『村を滅ぼした魔族を倒してくれ』とな」

「それが六魔星のゼルディアだったんだ?」

「ああ。お前も知ってるだろ? 六魔星は魔王ゼズズの幹部で圧倒的な力を持つ六人の魔族の称号だ。奴らは多くの人族を殺し、いくつもの小国を滅ぼした。そんな危険な相手と戦おうとする団やパーティーはなかった。だから、俺はソロでいたんだ」

「……そっか。そんな事情があったんだ」

僕は首輪につけた銀の鈴に触れているキナコを見つめる。

「そう暗い顔をするな」

キナコが僕の太股を肉球で叩いた。

「お前だって、孤児院育ちだと聞いてるぞ」

「うん。でも、僕の親は生きてるかもしれないから」

「……生きていたら、親に会ってみたいか?」

「そう……だね」

僕はうなずいた。

「僕が捨てられた時、服の中に革袋が入っていたんだって。そこに僕の名前が書かれた紙と大金貨が一枚入れてあったんだ」

「ほぅ、大金貨か?」

「うん。だから、僕を捨てた理由はお金の問題じゃないって、フローラ院長が言ってたんだ。それに」

「それに何だ?」

「僕の親は異界人の血が流れているのかもって」

そう言って、僕は紫がかった黒髪に触れる。

「ほら、異界人って、特別な能力を持っていることが多いから。その血が流れてるから、ユニークスキルを二つ持ってるのかもしれない」

「なるほど。異界人の血か」

「あくまでも想像だけどね。本当かどうかは親に聞いてみないと」

「……そうだな」

キナコは僕の顔を見つめる。

「お前が両親に会えることを祈って、今夜は酒を飲むことにしよう」

「あなたはいつも飲んでるじゃない!」

いつの間にか門の前にアルミーネが立っていた。

「少しは節酒しなさい。そうしないと、ゼルディアを倒す前に体を壊して死ぬことになるから」

「ふっ、それもいいかもしれんな。霊界にいる両親に顔を引っかかれることになるだろうが」

キナコは自虐的な笑みを浮かべる。

「で、アルミーネ。新しい仕事は決まったのか?」

「ええ。冒険者ギルドからの依頼だけどね」

アルミーネは丸めた依頼書を僕たちに見せる。

「とりあえず、家の中で話すから。紅茶でも飲みながらね」

「俺は酒のほうがいいんだが」

ぼそりとキナコがつぶやいた。