作品タイトル不明
エピローグ(2巻部分)
その日、僕はアルミーネといっしょに冒険者ギルドに向かった。どうやら、支部長が僕と話をしたいらしい。
分厚い木製の扉を開くと、冒険者たちの視線が僕に集まる。
掲示板の前にいた若い冒険者が僕を指さした。
「おいっ、あいつ、紙使いのヤクモじゃないか」
「あ、六魔星のゼルディアを倒した奴か?」
「そうだ。奴が止めを刺したらしいぞ」
「Eランクがゼルディアを倒したのか?」
「ああ。掲示板に情報も出てたから間違いない」
「……へーっ、全然強そうに見えないんだがなぁ」
こんなに注目されるなんて。
僕の顔が熱くなった。
「ヤクモさん。アルミーネさん」
職員の女性が僕に歩み寄った。
「朝早くから来ていただいて感謝します。早速、部屋にご案内しますので」
僕たちは女性といっしょに階段を上がり、二階の一番奥の部屋に入った。
部屋の中には木製のテーブルとソファーがあり、その奥に黒いスーツを着たエルフの男が立っている。
男の見た目は二十代後半ぐらいで、金色の髪を後ろに束ねている。肌は色白で左右の耳はぴんと尖っていた。
「あなたがヤクモさんですね」
男は目を細めて僕に手を伸ばした。
僕はその手を握る。
一瞬、男の両目が大きく開く。
「……どうかしたんですか?」
「あ、いえ……」
男は僕に向かって丁寧に頭を下げた。
「私は支部長のラクリスです。ヤクモさん、六魔星ゼルディアの討伐、おめでとうございます」
「ありがとうございます。みんながサポートしてくれたおかげです」
「……サポートですか」
ラクリスは僕の顔をじっと見つめる。
「……とりあえず、ソファーにどうぞ」
僕とアルミーネは革製のソファーに座り、対面のソファーにラクリスが腰を下ろす。
「さて、早速ですが、ヤクモさんがいるパーティーに十件以上の依頼が来てます」
「十件以上……ですか?」
「はい。危険なモンスター退治の依頼が多いです。まあ、団に依頼するより、パーティーに依頼したほうが基本的に依頼料が安くなりますから」
ラクリスはテーブルの上に十枚の紙を置いた。
「どの依頼を受けて、どの依頼を断るかは、ヤクモさんが決めて構いません」
「それはリーダーのアルミーネが決めるので」
「なるほど。では、アルミーネさん。よろしくお願いします」
「わかりました。しっかり内容を確認して、数日以内に返事をします」
アルミーネが紙を受け取る。
「それで、この前話した件ですけど……」
「混沌の大迷宮への探索の許可ですね」
「はい。そうです!」
アルミーネはソファーから身を乗り出した。
「パーティーのメンバーのヤクモくんが六魔星を倒したんだから、実績は問題ないと思うんです。魔族殺しのキナコもメンバーだし、私は上級の錬金術師の資格も持ってます」
「そうですね。私もそう思っていたんですが……」
ラクリスの表情が曇った。
「実はレステ国より、不許可の連絡が届いたんです」
「え? ダメだったんですか?」
「はい。あなたたちのパーティーの実績には不審な点があると判断されました」
「不審な点?」
アルミーネのピンク色の眉がぴくりと動く。
「何が不審なんですか?」
「……ヤクモさんの実績です」
ラクリスは視線を僕に向ける。
「ヤクモさんは六魔星のゼルディアに止めを刺しました。私はその事実だけで、ヤクモさんを認めています。でも、混沌の大迷宮の管理委員会のメンバーはそう思わなかったようです。状況がよくないですからね」
「状況って何ですか?」
僕はラクリスに質問した。
「ゼルディアがあなたに倒される前に、十二英雄の二人と戦っていたことですよ。その情報も管理委員会に伝わってます。となると、十二英雄の二人がゼルディアに致命傷を与えていたと考える人物がいてもおかしくはないでしょう」
「待ってください!」
アルミーネが口を開いた。
「私は近くでゼルディアが倒されるところを見ていました。ゼルディアに致命傷を与えたのはヤクモくんで間違いないです!」
「はい。神樹の団と月光の団の報告書でも、ヤクモさんがゼルディアに致命傷を与えて倒したと書かれています」
「それなら、何故?」
「ヤクモさんがEランクの新人だからですよ」
ラクリスが言った。
「Eランクの冒険者が六魔星を倒す。そんな奇跡は架空の物語の中でしか起きるわけがない。管理委員会の重鎮の言葉です。それに……」
「それに何ですか?」
「聖剣の団の報告書には、『十二英雄のシルフィールがゼルディアに致命傷を与えた』と書いてあるんです」
「……そっちの報告書を信じるってことですか?」
「全員が信じたわけではありません。団の格でいえば、十二英雄がリーダーの神樹の団や月光の団のほうが上ですからね。ただ、重鎮の言葉を無視するわけにもいかないってことですよ」
ラクリスはふっとため息をついた。
「アルミーネさんはご存じでしょうが、混沌の大迷宮はゲム大陸で一番危険なダンジョンと言われています。新種のモンスターが徘徊し、災害級のモンスターも多数確認されているんです。そんなモンスターに殺された冒険者は三千人を超えているでしょう」
「もちろん知ってます! でも、私たちのパーティーなら、許可が下りているパーティーとの実力の差はないはずです!」
「そう言って、全滅したパーティーや団の数も十本の指じゃ足りないんですよ」
ラクリスは両手の指を広げた。
「だから、この話はここで終わり、と考えていました」
「いました?」
「そう。過去形です。どうやら、ヤクモさんの強さはホンモノのようですから」
ラクリスは僕と視線を合わせた。
「ヤクモさん。あなたの基礎魔力、とんでもないですね」
「わかるんですか?」
「はい。相手の体に触れればわかるんですよ。私は【特殊鑑定】のスキルを持っていますから」
そう言って、ラクリスは右手を上げる。
「730万マナの基礎魔力があれば、あなたが実力でゼルディアを倒したことは不思議ではありません。私はそう思っています」
「それなら、混沌の大迷宮への探索の許可は下りるんですね?」
「いえ。許可できる権限を私は持っていませんから」
ラクリスは首を左右に振る。
「ただ、上手くいけば、その許可が下りるかもしれません。ヤクモさん次第ですが」
「僕次第ですか?」
「はい。ヤクモさんがSランクレベルの実力があると証明すれば、ゼルディア討伐の功績もありますし、管理委員会も納得するでしょう」
「そんな証明できるんですか?」
「一つだけ方法があります!」
ラクリスは人差し指を立てた。
「三日後、Sランクの昇級試験があります。その試験をヤクモさんに受けてもらいたいんです」
「えっ? Sランクっ?」
僕は驚きの声をあげた。
「でも、Sランクの昇級試験はAランクの冒険者でないと受けられないんじゃ?」
「そこは特例とします。六魔星に止めを刺したのはあなたですから、その実績によって試験を受けさせることぐらいは問題ありません」
「Sランク……」
僕の顔が強張った。
Sランクの昇級試験を僕が受ける? それは無茶な気がする。僕も少しは強くなったと思ってるけど……。
「ラクリスさん」
アルミーネがイスから立ち上がった。
「ヤクモくんがSランクになれたら、混沌の大迷宮への探索の許可が下りるんですね?」
「断言はできませんが、ほぼ大丈夫でしょう。ヤクモさんがSランクの昇級試験に受かったら、その実力は証明されますから」
「ヤクモくん!」
アルミーネが僕に顔を近づける。
「やったよ。これで混沌の大迷宮に入れるよ」
「いやいや。それは僕がSランクになれたら、だよ」
「うん。ヤクモくんなら、絶対になれるよ」
「絶対って……」
僕は額に手を当てる。
「Sランクの昇級試験って、そんなに甘いものじゃないよ。才能の塊みたいなAランクの冒険者が百人試験を受けても、一人も受からないことがあるんだから」
「でも、私はヤクモくんなら、Sランクになれると信じてるんだ」
「信じてくれるのは嬉しいけど、さすがにSランクはなぁ」
僕は喜んでいるアルミーネを見つめる。
アルミーネの一番の目的は、混沌の大迷宮で行方不明になった父親を捜すことだ。だから、少しでも早く探索の許可が欲しいんだろう。
「どうします? ヤクモさん」
ラクリスが僕に視線を向ける。
僕は数十秒、考え込む。
アルミーネは追放された僕をパーティーに誘ってくれた。そして、高い素材で魔法の服を作ってくれて魔喰いの短剣をくれた。その恩に報いたい。
それに――。
アルミーネの喜ぶ顔を見たいのもあるか。
「……わかりました。自信はないけど、挑戦させてください!」
「では、すぐに手配しましょう」
ラクリスは扉の前にいた職員を手招きして、指示を伝えた。
「ヤクモくん、ありがとう」
アルミーネが僕の手を握った。
「ヤクモくんがパーティーに入ってくれて、本当によかったよ」
「いや、お礼を言うのは早いって」
僕は苦笑する。
「でも、Sランクになれるように昇級試験、頑張ってみるよ」
「うんっ!」
アルミーネのダークブルーの瞳が瞬く星のようにきらきらと輝いた。