軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

勇者と魔王

結局、一度も身の危険を感じることもなく、すごく寝心地の良い布団で疲れを癒して、翌日の朝。

「――それで、勇者。色々聞いておきたいことがあるんだが、とりあえずお前は、誰に何て言われてここまで来たんだ?」

見たこともないがとても美味しい朝食までもをご馳走してもらい、自分、本当に何しに来たのだろうかと些か恐縮してしまっていると、昨日の少女による説教が長引いたのか、何だか非常に眠たそうな表情の魔王が、そう問い掛けてきた。

「ええっと……教会の人に、その、ひ、人をいっぱい殺している悪い魔族がいるから、それを倒して来いって……」

「……それだけ?」

「そ、それだけです……」

ちょっと縮こまりながら、そう答えるネル。

我ながら、本当に何も考えていないお馬鹿さんだったなと、今更ながらに思う。

「……お前、純真なのはいいが、もうちょっと人を疑うことを覚えた方がいいぞ」

「はい……すみません……」

ぐうの音も出ず、素直に頷くネル。

ちなみに、今ここにいるのは魔王とネルだけだ。

先程羊角のメイドさんが朝食をこの旅館風の建物まで持って来てくれたが、それ以外の昨日出会った面々は見ていない。

恐らくは、城の方にいるのだろう。

「……まあいい。それで、教会って言ったが、軍じゃないのか?」

「ううん、違うよ。僕は教会所属だから、そこの聖騎士って人達のまとめ役をしている隊長さんに言われたんだ。でも、何だかその人もあんまり乗り気って感じじゃなかったな」

「……なるほどな」

記憶に残っているのは、いつもは凛々しい顔をしている隊長が浮かべていた、渋い表情だ。

どうやら、さらに上からの通達があったらしく、嫌々ながらの様子でネルに指示を出していたのを覚えている。

と、ひとしきり喋ってしまってから、「あれ?これ……もしかしてあんまり言っちゃダメなんじゃ……?」とハッと気が付き、ネルは恐る恐る魔王に問い掛ける。

「……あ、あの、今、色々言っちゃったけど、その人達のこと、やっつけに行ったりしない……?」

「それは相手の態度次第だな。あんまり鬱陶しいもんなら、俺の安寧のために全力で潰しに行くから、お前、そこんところちゃんと伝えておけよ」

「う、わ、わかったよ」

鋭い視線を向けられ、若干気圧されながらも、ネルはこくりと首を縦に振った。

「……まあ、別に俺だって虐殺が趣味って訳じゃない。どちらかと言うとグロいのは苦手だ。けど、武器持って襲って来るなら、こっちだって武器持って対峙しなきゃダメだろ?」

「……うん」

魔王の言うことは、よく理解出来る。

昨日、心地の良い寝具の中に入っていた時に、ネルはその頭を目一杯に働かせて、色々と考えていた。

自分のこれまでのことや、これからのこと。

そして、この場所のことや――魔王のこと。

まだ一日しか経っていないが、この場所で彼女が出会った少女達の様子を見て、ネルは気付いたことが一つあった。

――それは、どうやら彼女達皆が、魔王のことを信頼しているらしいということだ。

暴虐の限りを尽くすような悪い魔王であれば、そんな信頼などといった感情はこれっぽっちも生まれないだろうし、彼女達もああして楽しそうにすることなどないだろう。

つまり彼は、彼女達にとって信頼に足る行動を取っている――それこそ、物語に出て来る 勇者(・・) のように。

物語の勇者は、誰かのために力を振るって、人々からの信頼を勝ち取り、皆から愛される勇者となった。

あくまで想像でしかないが、彼もそうして、彼女達の信頼を勝ち取ったのではないかと、そう思ったのだ。

その生き様は、人に言われて流されるだけの自分とは違い、よっぽど勇者らしい。

――何が魔王で、何が勇者か。

―― 何をして魔王で(・・・・・・・) 、 何をして勇者か(・・・・・・・) 。

それは恐らく、大きく違うことなのだろう。

「――どうした?ボーっとして」

「あ、え、えっと、何でもないよ。そ、それより、僕、ずっと聞きたいことがあったんだけど……」

「何だ?」

例の羊角のメイドさんが持って来たお茶を飲みながら、聞き返す魔王。

「……魔王ってあれなの?小さな子が好きっていう、特殊性癖の人なの?」

「グフッ――」

魔王はお茶を噴き出した。

「うわっ、もう……汚いなぁ」

「ゴホッ、ゴホッ……お、お前がヘンなこと言うからだろうが。どうして誰も彼も俺をロリコン扱いしたがるんだ……」

「ろりこん?」

「お前の言った小さい子好きって意味だ。言っておくがそれは断じて違うからな。ここにロリが多いのは確かだが、それは俺が意図した結果ではなく、自然の成り行きに任せた結果、ロリロリしてしまっただけであって、俺がそういう趣味という訳ではない」

「ふーん……まあでも魔王、人の趣味にとやかく言うつもりはないけれど、イルーナちゃんみたいなあんなにちっちゃな子に手を出しちゃだめだよ?昨日の、銀髪の女の子ならまだいいだろうけど……」

「なあオイ、勇者さんよ。今の俺の話聞いてたか?違うっていったよな?それに、レフィは……置いとくとして、イルーナは俺にとって目に入れても痛くない妹だぞ。手を出す訳が無かろう」

「じゃあ、そのレフィ?って子には手を出すんだ」

「ばっ、違っ、そういう意味じゃねえ!?ただアイツは、俺にとって対等な存在だから、そういう庇護する対象とかじゃないってことだ!!」

焦りながら弁解する魔王の様子を見て、ネルはクスクスと笑い声をあげた。

――本当にこの人は、人間味に溢れている。

「……何笑ってんだ」

「いや……何だか昨日、魔王をやっつけに!って意気込んでたはずなのに、こうして普通に君と話しているのがおかしくて」

「……まあ確かに、奇妙ではあるな」

「魔王が昨日言っていたけれど……本当に物事っていうのは、自分で見てみないことにはわからないもんだね。だから僕も、これからはちゃんと自分で考えて、それから動くことにするよ」

「あぁ、是非そうしてくれ。魔王ってだけで敵がどんどん増えていっちゃ敵わないからな」

そう言って肩を竦めた魔王に、再びネルは笑みを溢した。