軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

侵攻

――夜。

イルーナは既に眠り、メイドさん二人は部屋に引き上げ、暇だからとレフィとボードゲームをしていたその時――突如、メニューのマップが勝手に開いた。

「…………んあ?」

「む?どうした、ユキ?」

「……侵入者だ」

そう言いながら俺は、開いたマップに眼を滑らせる。

このマップが勝手に開く場合は、二種類ある。

敵が、ダンジョンの心臓と言えるダンジョンコアより一定範囲内に入った場合と、一定以上のDP収入のある敵がダンジョン領域に侵入した場合の二つ。

強さに比例してその生物から得られるDP収入は上がっていくため、その値を敵の強さの指標の一つとしている訳だ。

この一定以上のDP収入というのは何も個体に限った話ではなく、例えば集団が合わせて何DP以上、みたいなことになっている場合もカウントされるように設定してある。

そして今回は……どうやら、そのタイプの敵らしい。

最近新たな機能が追加され、マップの上から侵入者の詳細情報を見ることが出来るようになったのだが、それで確認したところ、敵は人間。数は四百から五百程。

装備を見るに、どこかの軍隊だろう。所属は……考えるまでもないな。十中八九この前俺達がお邪魔した街の報復といったところか。

「……つまり、この前の脅しでは懲りなかったという訳じゃな?」

「どうやらそうらしいな」

そう頷くと、レフィの顔に浮かぶ、酷薄な笑み。

彼女にとってみれば、覇龍という存在を舐められていることも同然。到底、看過出来ることではないのだろう。

「……潰してこようか?」

その問い掛けに、しかし俺は首を横に振った。

「いや……どうしようもなくなったらお願いするかもしれんが、多分大丈夫だ。少し、試してみたいことがあるんだ」

「ほう?」

――この事態はぶっちゃけ、予期していた。

例の街の領主には俺達に関わるなと釘を刺しておいたが、しかし国としてみれば、一方的に領土を侵されたようなものだ。

国とは、体面を気にするもの。前世で言えば、日本の一領土に外国が攻めて来て、一時的に占領されていたようなものに近い。

そんな事態になれば、前世だろうが異世界だろうが報復措置に出るのは十分に考えられる。

いくらあの領主が魔境の森への侵入を禁止したからといって、さらに上から圧力を掛けられてしまえば、そんな話は関係ない訳だからな。

レフィ――覇龍がいると言っても、時間が経てばその脅威を忘れ、再び同じことをするのが人間だ。そういう歴史を、散々前世でも繰り返していた。

そのことを知っていれば、今回のようなことがあるかもしれないと予期しておくのも難しいことではない。

――そして、予期していたということは、それなりに準備もしてあるということだ。

拡張に拡張を重ねたおかげで、付近の森はもうほぼ全てがダンジョン領域として組み込まれている。ダンジョン領域となっていれば、俺が全く使わないダンジョンの機能、罠や地形変更も使える。

こういう場合を想定して、予め有用そうな罠などには当たりを付けている。コイツらには今回、その罠の性能テストに協力してもらうとしよう。

そんなことを考えながら俺は、チラリと正面のレフィ、そして眠ったままのイルーナへと視線を滑らせる。

……俺は、こっちの世界に来てから、かなり好きに生きている。

率直に言って、今の生活はメチャクチャ楽しい。毎日が毎日ギャアギャア騒いで、遊んで、ふざけて。

特に人間に戻りたいとか、人間社会に帰りたいと思ったこともない。はっきり言って、前世に戻りたいと思ったことすらないのだ。

まあ、レフィやイルーナと会わなければ、そう思うようになっていた可能性も無きにしも非ずだがな。

だから俺は――今の俺の日常を脅かす者に対して、容赦はしない。

敵対するなら、潰す。

必ず。

「……でもまあ、一度くらいは、警告しといてやるか」

元人間の 好(よしみ) だ。それで帰るようであれば、放っといてやろう。帰らないようであれば――。

「……レフィ、ちょっと行ってくる」

そう言って立ち上がり、背中に翼を出現させる。

「うむ。 いつものお主を(・・・・・・・) 待っておるから、早く帰って来い。次、ユキの番じゃからな。早く帰って来ないとお主のコマを勝手に動かすやもしれん」

まるで、何事もないかのように。

努めて平然な様子で、彼女はそう言った。

本当に……デキた女だ。

「そりゃ困るな。超特急で帰って来るとしよう」

そんな彼女に苦笑を溢し、内心で感謝しながら俺は、玉座の間を出て行った。