軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アーリシア王国

アーリシア王国。

そこは、大陸の北西部に位置し、世界でも有数の栄えた王国である。人口規模は周囲の各国と比べても頭一つ抜けており、比例して産業も発達している。特に魔導具の生産に力を入れており、最新の物を買おうとすれば、この国の物を得ることになる場合が多い。

当然、それだけ魔導具が発達していれば軍事技術においても他国を一歩リードしており、対亜人族との戦線においては、主導部隊となることが多い。

そのアーリシア王国の現国王は、名をレイド=グローリオ=アーリシアと言い、凡庸な王だが善政を敷いているとして評価は高く、民草からの支持も厚い。

「今こそ、打って出るべき時でしょう!!」

――そして今、その国王に向かって檄を飛ばす、一人の青年。

国王の前に立つは、彼の息子、リュート=グローリオ=アーリシア。

国を思う心は厚く、真面目な青年だが……しかし、今ばかりはその情念は空回りしていた。

「ならぬ。あそこに手を出すのは許さん」

「では、攻め入られたにもかかわらず、このまま放置しておくと言うのですか!?」

激高する青年に、王はあくまで静かに答えを返す。

彼らの元に、つい数日前にもたらされた急報。

それは、辺境の街『アルフィーロ』が、魔物の軍勢によって一時占拠されたというものだった。

「攻め入られたといっても、大した被害は出ていないだろう。せいぜいどこかの犯罪組織が潰れたぐらいだと聞いているが?」

そんな深刻な事態にもかかわらず、王が冷静でいる理由が、それだ。

すでに事態は解決しており、大した被害も出ていない。何か馬鹿をやらかした犯罪組織が潰れただけ。

それに……報復を考えたとしても、相手が悪過ぎる。

だが、リュートはそれでは不満らしく、さらに父親へと食って掛かる。

「被害の問題ではないでしょう!!我が国に攻め入れられたという事実こそが重要なのです!!」

リュートが唱えているのは、積極的防衛策――要するに 侵攻(・・) である。手遅れになる前にこちらから攻撃してしまえという、些か暴力的な主張だ。

彼にとって、自身の愛する国に属する街が、理性の欠片もない魔物如きに攻め入られたことが、何をおいても腹立たしかったのだ。

加えて、もう一つ。彼には思惑があった。

今回、その魔物共が攻めて来たという地――『魔境の森』。

彼の地には手付かずの自然が広大な範囲に広がり、そしてその危険な土地柄故、近隣諸国の誰も所有権を主張していない。

――つまり、宝の山がある訳だ。

あそこを切り広げることが出来たら、この国が更なる発展を遂げることは間違いないというのに……父親であるこの王は、いるかいないかもわからない覇龍などという存在に怯え、手を出すことを極端に忌避している。

その地域の魔物が強いことは重々承知しているが、しかしこの国にはそのハンデを埋める優れた魔導具がある。十分に勝算はあるはずだ。

だというのに、父親の臆病のせいで、国の発展を前に手をこまねているのは、愚かとしか言いようがない。

あくまで覇龍を伝説としか思っていない王子にとっては、国王の姿はそのように見えたのだ。

「お前はまだあそこがどういう場所かわかっていない」

「秘境の一つで、魔物が精強な危険な地でしょう!?それぐらい、私だってわかっています!!」

そう言い張る息子に、レイドはハァ、と嘆息する。

その眼に浮かぶは、頭の固い、わからず屋の息子に対する、失望の色。

リュートは、父親のその表情が大嫌いだった。

「とにかくダメだ。勝手なマネは絶対にするな。これは王命である」

「ぐっ……わかりました。今日のところは退出させていただきます」

そう言って、王子はズカズカと部屋を出て行った。

苛立たしげな様子を隠そうともせず、絢爛な装飾のある廊下を歩くリュートの傍に、スススと一人の男が近寄る。

「――リュート様、如何されますか。王命とされてしまっては、少々厳しいところもあると思いますれば」

「……王は、何も知らなかった。そしてこれからも知ることはない」

「つまり、計画は続行ということで?」

「そうだ。兵を集めておけ」

「畏まりました。御心のままに……」

そう短く言葉を交わして男は、リュートの傍を離れていった。

一人残された王子の瞳には、一つの危険な意志が宿っていた。

* * *

ザッ、ザッ、と土を踏み締める足音。同時に響く、ガシャリ、ガシャリと金属の擦れる音。

長い道のりを、彼ら――鎧を身に纏った武装集団が整然と並び、先へと進んで行く。

彼らは、王子の名の下に招集され、今回の遠征に駆り出された兵士達だ。

その陣容は、小規模な集団ごとは統一されているものの、全体として見ると纏まりはなく、何となくちぐはぐな印象を受ける。

それは、ここにいる兵士一同のほぼ全てが、新たな開拓地となるであろう場所の利権に目が眩んだ貴族達によって秘密裏に王子へと貸し与えられた兵士であるためだ。

故に、己が権益を少しでも多く確保するため、自身のところから出した兵士がすぐにわかるようにと、わざと特徴を出している訳だ。

「ったく、何でこんな山奥にまで進まなきゃなんねえんだ」

そう、隣の男に愚痴る、一人の兵士。

「まあ、そう言うなって。今回は金払いが良いからな。それだけ場所は危険だが、正規兵の連中も多い。そうそう簡単に見捨てられることもねぇだろう。最新の魔導具も持って来ているらしいしな」

「へぇ、そりゃご苦労なこった」

彼らは、これまた利権に目が眩んだ貴族の一人によって雇われた傭兵達だ。普段は盗賊紛いのことをして生計を立てており、正式に雇われている領軍の中には露骨に彼らを嫌悪する者もいるが、しかしそんな稼業を生業にしているため、腕っぷしは強い。

「それに、何でも街で亜人どもの娘を攫って、山奥に連れ帰った亜人種だか魔族だかがいるらしいからな。ソイツをぶっ殺して、上手くいけば俺達にもその女どものお零れをいただける可能性もあるって訳だ」

「へっへっへ、亜人は具合が良いもんなぁ。そうか、なら頑張らないといけねぇな」

「おいおい、今からおっ勃ててたら後が持たねぇぜ?」

「バカ言え、俺のアソコはそんな柔じゃねえよ」

下世話な会話をしながら、男達は先を進んで行く。

――彼らはまだ知らない。

自分達の進む先が地獄でしかないと。