軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

声真似ごっこ

「あるじ、あるジ!」

「おう、どうしたー、シィ」

こちらに近寄ってきたシィにそう問い掛けると、彼女はいつものニコニコ顔で言った。

「えへへ、あるじとレフィおねエちゃんのまね! 『レフィ……愛してるよ』『う、うむ……儂も、あ、愛しておるぞ』」

「ブフッ」

俺は吹き出した。

「……し、し、シィさん。そ、その声真似はいつ覚えたので?」

「このまえ! レフィおねえちゃんはネ、ちょっとはずかしがらせるノが、ポイントなの! レフィおねえちゃん、はずかしがりやさんなとこロがあるから!」

そうね。本人かと思わんばかりの声真似で、思わず俺、周囲にレフィがいるんじゃないかと見回してしまったからね。

似てるというか、恐らく実際に喉を少し変化させ、俺達の声帯を模しているのだろう。

スライムという種、ならではの声真似か。

いや、だが……自分の声は正直よくわからないが、今のレフィの声のトーンや抑揚などは、まんまアイツのものだった。

普段から、細かく観察していないと出来ない芸当だろう。

本当に、俺達のことをよく見ている。

「あとね、あとネ、ネルおねえちゃんとリューおねえちゃんのバージョンもアるよ! ききたい?」

「いえ、遠慮しておきます」

ば、バカな……幼女達がいる前では、そんなやり取りをしたことは……あんまりなかったはずだぞ!

い、いったい、どこで覚えたんだ……。

「シィさん、あの、その声真似は今後封印していただけますと、非常に、心の底から助かりますので、出来ればやめていただきたいかなーと、私、思います……」

「えー? でも、そっくリだったデしょ?」

「えぇ、そっくりだったからこそ、やめていただきたいと言いますか」

その声真似は、俺の心臓にダイレクトで来るものがある。

やめてくれ、その攻撃は俺に効く。

「そっかァ。レフィおねえちゃんとか、ネルおねえちゃんとか、ときどきやってっていうんだけド。あ、リューおねえちゃんは、あんまりおねガいしてこないけど、いっぱい『愛してる』っていってほしがるよ!」

「……何て?」

「あのネ、ときどき、シィにあるじのまねをしてっテ、おねえちゃんたちが、おねがいしてくるノ。とってもよろこんでクれるから、あるじもよろこんでくれるかなーっテ」

俺の知らないところで、何をやらせているんだ、アイツらは。

……それと、リューは後で、甘やかしてやろうか。

アイツ、レフィやネルに対してちょっと引け目を感じているようだし、もっと自分に自信を持ってもらわんと。

そんなことを考えながら俺は、何とも言えない苦笑いを浮かべ、シィの頭をポンポンと撫でる。

「それにしても、すげー上手い声真似だったぞ、シィ。シィが声優にでもなれば、百戦錬磨で天下を取れること間違いなし、だな」

「せいゆー? って、おしごト?」

「おう、そうだ。声で何かに命を吹き込む仕事だ。すごいんだぞー、声優さんは」

「へえぇ! シィもせいゆーさん、なれルかな?」

「勿論だ。けど、なるにはいっぱい練習しないとな」

「うん! いっぱイする!」

にへら、と笑うシィ。可愛い。

この世界に前世の声優のような仕事はないだろうが……ま、人形劇師とか紙芝居とかなら、声優の仕事とも言えるだろう。

そうだな、レイス娘達に手伝ってもらっての人形劇とかなら、一大スペクタクルなものが出来上がるんじゃないだろうか。

うーん、是非とも見てみたい。

と、ふと俺は、思い付く。

「……なぁ、シィ。その練習の一環として、一つお願いがあるんだが……レフィの声で『ウチなー、あんなー、覇龍のレフィシオスって言うねん!』って言ってくれ」

「『ウチなー、あんなー、覇龍のレフィシオスって言うねん!』」

「グフッ、クク……いいぞ、シィ。最高だ。メチャクチャ似てる。それじゃあ、次は……『うひゃあっ、覇龍のウチでも、敵わないっちゃぁ~』」

「『うひゃあっ、覇龍のウチでも、敵わないっちゃぁ~』」

「クッ、プクッ……うむ、うむ。素晴らしい演技力だぞ、シィ君。君の声真似は、人を真に笑顔にさせるなぁ。そうだ、後これも頼む。『ごめんなさい。こういう時、どんな顔を~』」

「何をしておるんじゃ、ユキ?」

――突如、背後から聞こえたその冷たい声に俺は、ビク、と身体を跳ねさせる。

それから、ギギギ、と、まるで壊れたゼンマイ仕掛けのおもちゃのような動きで、後ろを振り返る。

「随分と、楽しそうじゃの?」

そこにいたのは――絶対零度の視線をこちらに向ける、覇龍の我が嫁さん。

「……いつから、そこに?」

「お主がシィに、阿呆な真似をさせ始めた時からじゃの」

「…………落ち着け、落ち着くんだレフィ。落ち着いて、一度深呼吸をするんだ」

「何を言う。儂は落ち着いておるぞ。今も、とても晴れやかな気分じゃ」

「そうか。けどレフィ、一つ言わせていただくと、気分が晴れやかな人は、そうやって拳を握り締めたりはしないと思うんだ」

「ふむ、見解の相違という奴じゃの。事実儂は今、非常に晴れ晴れとしておる。……あぁ、これは、お主の顔面を変形させた後の愉快な気分を想像してのことじゃった」

「やっぱり殴る気じゃねぇか!?」

瞬時に翼を出現させた俺は、一気に飛び上がる。

「逃がさん!!」

レフィは美麗な翼を同じように出現させると、逃げる俺を追い縋り始めた。

「お前最近、暴力的だぞ!? 何でもかんでも拳で解決しようとするのは良くないと思います!!」

「お主が大分強くなったのでな!! 儂も遠慮せず、お主をど突けるというものよっ!!」

「ヒィッ、家庭内暴力反対!! DV反対!!」

「何を言う!! 旦那が阿呆なことをしたら、ど突く!! これが健全な家庭におけるこみゅにけーしょんじゃろうてっ!!」

「お前の家庭というものに対する考えは歪んでいる!! というか、お前らもシィに声真似させてたって話だし、お互い様だろ!?」

「ぬわああああ!? シ、シィか!? シィに聞いたのか!? クッ、仕方があるまい、お主の記憶が飛ぶまでぶん殴る!!」

「それは流石に理不尽では!?」

「あるジたち、きょうもなかよしさんだネ~」

何だかとても嬉しそうなシィの声が聞こえてきたが、今の俺達には彼女へと返答する余裕は全く無くなっていた。

その後どうなったかは、まあ……お察しである。