軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ダンジョン攻略フィナーレ《4》

「む! 帰って来たか」

俺がこのダンジョンの主となったためか、俺のみならずネルも周辺の魔物から全く襲われなくなり、悠々と来た道を引き返すこと三十分程。

俺達は、先に引き返していた聖騎士達との合流を果たしていた。

「ふむ、二人とも特に怪我は無さそうか……その様子だと、討伐は成功したようだな」

「あぁ。黒焦げにしてバラバラにしといたぞ」

カロッタに言葉にコクリと頷き、そう答える。

「信じらんねぇ……マジで二人だけであの魔王を倒したってのか……」

「おうよ。結構強かったな」

「……そんな、ケロッと言われても信憑性ないぜ、あんちゃん」

呆れたような顔でそう言うグリファに、ただ肩を竦める俺。

「と、そうだ、グリファ、あの魔王があんな狂ってたなんて、聞いてねーぞ」

「へ?」

「アイツ、とんでもなく頭おかしくなってたじゃねーか」

どんな攻撃手段を有しているのか、という情報に関しては、ロクに魔法を見る前にヤツの召喚魔法を前にして何も出来なくなり、撤退したって話だから、まあ知らなくても仕方ないかもしれんが、そっちの情報は教えてほしかったぞ。

「あ、あぁ……すまん。けど、魔王なんて大体あんなもんだろ。バカみてぇに傲慢だったり、憎悪マシマシだったり、大概どこか壊れてやがる」

「失敬な。誰が壊れてるだ」

「い、いや、あんちゃんに言った訳じゃねーんだが……」

ボリボリと髪を掻きながら、怪訝そうな顔を浮かべるグリファ。

隣で、ネルがこちらを見ながら「……まあ、おにーさんがどこか一つおかしいのは、確かだよね」とボソリと言うのを聞かなかったことにして、次にカロッタに言葉をかける。

「あー……それと、カロッタ。ダンジョンコアに関してなんだが、すまん。戦闘の余波で恐らく壊れた。だから、このダンジョンもしばらくしたら崩壊すると思う」

ネルと相談した結果、そういう方向で誤魔化すことにした。

魔王を倒し、ダンジョンコアを破壊してダンジョンを完全に討伐した場合、コアを破壊したタイミングでダンジョンの崩壊プロセスが開始する。

だが、崩壊はそんなすぐに始まる訳ではなく、まず数日掛けてダンジョンの内部に満ちる魔力が減少していき、それに伴って拡張されていた空間が元の姿に戻り、そしてさらに数日かけて中の魔物が死に絶えるのだそうだ。

ちなみに、メニューの『ダンジョン』の機能を使って、実際に崩壊させることも可能だ。

俺が二つ目のダンジョンを支配することで解放される機能であるようで、二つ目以降を崩壊させ全てをDPに変換することが出来るらしい。

しないけどね。崩壊させたら一時的だが、このままにしとけば永続的にDPを確保することが出来る訳だし。

なので、俺達が乗って来た船で離れたタイミングを見計らって、魔境の森の近くまで移動させるつもりだ。

そう、この幽霊船ダンジョン、一応船ではあるため、移動速度はこの巨大さである以上お察しという感じだが、何と移動させることが可能なのだ。

あと、すでにこの幽霊船にも我が家に繋がる扉を設置しておいたので、実は帰ろうと思えば今すぐ帰れたりする。

諸々の仕事を終わらせ、ウチに帰ったら、もう一度このダンジョンに来て何が出来るか確認するとしよう。

それにしても、結局ダンジョンに関することは何も聞けなかったが……まあ、俺とネルだけで攻略に向かったのは正解だっただろう。

ヤツの闇魔法の『腐食』を食らってしまえば、鉄の装備も盾も意味をなさない。

人数が増えれば当然回避のためのスペースも狭くなるし、動きが制限される。

確実に、何人か犠牲は出ただろうな。

「む……まあ、お前達二人がいて無理だったのなら、不可能だったのだろう。惜しくはあるが……諦めるとしよう」

いや、そういう訳でもないんですけどね。

ホント、俺も意図した結果じゃなかったんで。反省してるんで、ネルさん、曖昧な笑みを浮かべてこっちを見るのはやめてください。

「……代わりと言っちゃなんだが、アンタらに使えそうなモンを、二つ程見つけたから持ってきた。これで勘弁してくれ」

「ほう?」

興味を持った様子のカロッタに、俺がアイテムボックスから取り出して見せたのは――華美な装飾が施された、紋章の彫られた一本の短剣と、日記。

俺が取り出した短剣を見て、途端に彼女の目がスッと鋭くなる。

「これは…… 公爵家(・・・) の紋章だな」

「あぁ。ここの魔王は、元々アンタの国のところの貴族様だったようだぞ。友人に嵌められて、そのあまりの恨みの大きさから魔王にまでなっちまったらしい。彼の身に何があったのかは、その日記に詳しく書いてあったぜ」

――この日記と短剣は、ダンジョンコアと同じく、執務室の机の上に無造作に置かれていた。

日記の方を開いてみると、そこに綴られていたのは、彼が魔王へと至るまでのあらまし。

かなりのページに、その恨みと怒り、拳を握り締め過ぎたのか血の滲んだ跡が残っており、何が起こったのかを探すのがちょっと大変だったのだが……どうも彼は、友人と思っていた相手に裏切られ、貴族社会から蹴り落とされたらしい。

罠に嵌められ、公爵位を蹴り落とされ、そのせいで彼の一族は全員処刑。お家断絶である。

彼だけがこんな海のど真ん中で漂流していたのは、まあ、一種の流刑だ。辿り着く島は存在しないがな。

食料が一切無い、舵を壊された船に一人放り込まれ、飢餓と絶望で苦しみ抜いた末に餓死するか。

もしくは、この辺りは海域が荒いらしいので、荒波に揉まれてそのまま海の藻屑となるか、というのが運命のはずだったのだが……何の因果か、彼は死ぬ前に、魔王へと生まれ変わった。

魔王になった瞬間のことは、少しだけ書かれていた。

何やら、突然周囲の空気が一変し、気が付いたらいつの間にか玉座の間が出現し、そしてダンジョンコアが置かれていたのだそうだ。

恐らくは、その時に新たなダンジョンが誕生したのだろう。

ここの辺りは、魔境の森と同じく魔素が濃い場所なようなので、条件としてはあり得るのだろうが……奇跡的な確率であるのは間違いない。

種族がドラウグルとなったのは、俺が最初『アークデーモン』という種族でこの世界に転生したのと同じ理由だと思われる。

ダンジョンが、そちらに生まれ変わらせた方が生き残れると判断したのだ。

ドラウグルとなった後もしばらく自我があったようだが、途中からどんどんとそれが失われていくのが、日記を通して感じられた。

元々恨みのせいか、筆跡が荒々しい感じではあったのだが、少しずつ文章が稚拙になっていき、字も下手になっていき、最終的には意味のなさないグチャグチャの落書きになっていた。

――こうして生まれたのが、人間絶対殺すマン、憎悪と憤怒の化身たる不死王だった、という訳だ。

……あの魔王の怒りの理由は、これでよく理解出来たな。

確かに、俺もウチのヤツらを殺されたりなんかしたら……この世の全てを破壊し尽くすために命の限りを投げ打つ、怒り狂った魔王となることだろう。

……嫌な想像だ。考えたくもない。

「……少し前の話だが、ここに書かれている政変には覚えがある。裏がはっきりせず、有耶無耶のまま闇に葬られたのだが……なるほど、これは確かに、ダンジョンコアよりもよっぽど我々のためになる。しかし……まさか、公爵家の方が魔王に、とは……」

「その嵌めたヤツ、アンタのところで搾れるだけ絞って、追い落としてくれよ。協力することがあれば協力するぞ」

あの魔王に、出来る限りのことはやってやるって言っちまったしな。

俺でも手が届きそうな範囲のことだし、ソイツをぶっ殺す協力ぐらいはするとしよう。

「……いいだろう、そちらは任せろ。これは明らかな不正の証だ。犯罪者をこのままのうのうと生きさせるつもりはない。グリファ殿、それ相応の金額は払おう。この件に関しては――」

「へい、心得てますよ。俺達ぁ、ただ姉御方の道案内をしただけ。何も聞いていないし、何も知らない。お前らも、わかってるな」

「勿論です。私は、何も聞きませんでした」

「せっかく生きて帰ったのに、謎の病死、なんてオチはまっぴらでさぁ。当然俺も、何も聞いてないですぜ」

直接的な物言いをするレイエスに、「いや、そんなことはしないが……」と苦笑を浮かべてからカロッタは、次に俺の方に顔を向ける。

「仮面は……ネルがこちらにいる以上、不利益なことはせんか。問うまでもなかったな」

「おう、よくわかってるじゃねーか」

当然だと頷く俺に、カロッタは「これは失礼した」と両手を肩の高さまであげる。

その俺達のやり取りに、笑い声を溢す聖騎士連中と冒険者連中。

「さて、お前達も無事に戻ってきたことだし、長居は無用だな。――では、撤収する!」

――そして俺達は、ダンジョン攻略を成し終えたのだった。