軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ダンジョン攻略フィナーレ《3》

種族:ドラウグル

クラス: 不死王(ノーライフキング)

レベル:108

魔王の外見情報は、冒険者連中から事前に聞いていたものと一致している。

強い。

筋力や耐久なんかの数値は低いが、魔力の値が非常に高い。恐らく、魔法に優れたタイプなのだろう

まあ、それでも俺のステータスの方が二回りぐらい高いのだが……ネルよりは、強い。

油断は、出来ないだろう。

そして――。

『オオオオオオニニニニンゲンンンンンンコココココロロコロコロススススス!!』

「……狂ってんな」

まだ少し皮が残っているが、ほぼ骨の指で頭をガリガリ掻き毟り、慟哭のような、怨嗟の叫びを絶えず発している不死王。

人間に対する強い恨みがあるようで、憤怒と憎悪が込められた眼差しをこちらに――いや、違うな。

その瞳は、 俺達の方には(・・・・・・) 向いていない(・・・・・・) 。

ヤツの怒りは、どこか遠くの、何かに向けられているらしい。

まさしく魔王に相応しい邪悪さと言えるだろうが……いったい、ドラウグルになる前に何があったのだろうか。

というか、前回攻略してこの魔王と戦ったという冒険者連中からは、こんな風になっているとは聞いてないぞ。

「……おにーさん、あれとお話するの?」

「……無理かも」

いくらコミュニケーション能力に優れたヤツでも、アレと会話を成立させるのは、不可能ではなかろうか。

討伐しに来た俺達を、完全にシカトするよう相手だぞ。

……ま、まあ、もうここまで来ちゃったしな。

一応、やるだけやってみるか。

俺は、ゴホンと一つ咳払いし、意識して不敵な笑みを浮かべ、敵魔王に向かって口を開いた。

「よぉ、魔王さんよ。随分と楽しそうだな。是非とも混ぜて――っておわぁっ!?」

『ニイイイイイニニニニニンゲンゲゲゲゲンンンアアアアアアア!!』

全く予備動作もなく飛んでくる、 黒い火球(・・・・) 。

魔力眼を発動していたため、魔力の流れから発動の兆候は感じていたので、回避することには間に合ったが……マジで何の脈絡もなく攻撃してきやがったぞ、あの野郎。

『ニンゲンンンンコロロロスコロスススス!!』

「チッ、このッ、気色悪いモン放ってくんじゃねぇ!! つか俺は人間じゃねぇよアホがッ!!」

無数に飛来してくる黒い火球を前に、俺は敵魔王と俺達の間に一枚の大きな水壁を形成して防御し――水が、 腐った(・・・) 。

「ちょいちょいちょいちょい!?」

どういう魔法なのかわからんが、黒い火球に当たった部位が瞬く間に変色を始め、穴が開き、そこからこちらに向かって残りの火球が向かってくる。

慌てて回避に専念し、右に左に逃げながら避けるも、敵の攻撃の手数が多いせいで俺のシャツに一発掠る。

ほんの少しだが、ビリッと破けた俺のシャツは、先程の水壁と同じくその部位からどんどんと変色し始める。

「いぃっ!?」

これはヤバいと、その侵食が大きくなる前に即座にシャツを脱ぎ捨て、そしてその場から大きく飛び退って、攻撃を回避しやすいよう間合いを広く確保する。

「おにーさんっ、無事!?」

俺とは違って、華麗に全弾回避していたネルが、若干焦った様子でこちらに声を掛けてくる。

侵食は……よし。俺のシャツをダメにした以外は、大丈夫そうだな。

「無事だ! だが……あの攻撃は、食らわない方が良さそうだな」

「そうみたいだ、ね!」

飛んで来た火球を、ヒョイと避けながらそう答えるネル。

ヤツの放つ黒い火球は、どうやら物を腐食させる効果があるらしい。人体に食らったらどうなるのか、考えたくも無いな。

――この魔法の正体は、恐らく『闇魔法』だろう。

ヤツの持つスキルに、それがある。

他にも『スケルトン召喚』や『レイス召喚』など複数のスキルを確認出来るが、この黒い火球を放てるようなスキルは闇魔法以外には見当たらない。

「ネルッ、闇魔法は何が出来るんだ!?」

なおも止まず飛んで来る火球を、一瞬で壊れてしまうので数十枚水壁を張って防御し、不死王が召喚系スキルを発動したのか、玉座の間に沸き始めた大量のスケルトンを叩き潰す。

同じように発生し始めたレイスの処理は、ネルだ。

特に何も言わずとも、こうして分担して対処出来ているのは、すごく安心感があるな。

「『リッチ』なんかがよく使う魔法で、食らうと腐食、錯乱、失明とかの何らかの状態異常効果を受けるよ! だから、一発でも食らうと大分マズいかも!」

状態異常系か……厄介だな。

雑魚の状態異常系攻撃ならば、俺の体内に渦巻く濃密な魔力によって弾かれ、食らうことはないのだが、コイツレベルの攻撃になれば恐らくそれも突破してくるだろう。

特に『腐食』が鬱陶しい。

魔法で防御しようにも、あんなすぐ侵食されて破壊されてしまうのであれば、有効に防ぐ手段がない。

今までの雑魚どもとは、一線を画す強さ。

……これはもう、悠長にしている暇はないな。

「ネルッ、まだお前に、新しい魔法は見せてなかったな! いい機会だ、お前にも見せてやる!」

余計なことは考えず、相手をただ排除することに方針を定めた俺が、発動したのは――精霊魔法。

「『レヴィアタン』!!」

俺の魔力の三分の一を食らって生み出されるのは、数多の精霊で構成される、龍の化け物。

この玉座の間はかなり広いが、それでもなお天井スレスレのところに頭があり、敵魔王を睥睨している。

大きさ的には、さっきの土龍とどっこいどっこいのサイズか。

込めてある魔力の量は、桁違いだがな。

『グウウウウウウウウウウウウ』

頭のネジが数十本単位でぶっ飛んでいる敵魔王も、コイツには流石に脅威を覚えたのか、俺達に放っていた闇魔法の矛先をレヴィアタンの方に向ける。

「ネルッ!!」

「隔て!! 『絶域の結界』!!」

間髪入れずに、俺の言いたいことを理解してくれたネルが即座にレヴィアタンの前へ結界を張り、ヤツの攻撃を防御する。

だが、このネルの結界も闇魔法に当たると同時に変色を始め、俺の水壁よりは持ったものの、わずか十秒もしない間に穴が開き始め……しかし、十分だ。

「全力だッ!! やれッ!!」

ネルが稼いだその短い間に、全身の魔力を口元に溜めたレヴィアタンが放つのは――ブレス。

瞬間、玉座の間に轟く轟音と、視界を染め上げる強烈な光。

巻き込まれたスケルトンとレイスが一瞬で蒸発して消滅し、少し後方に下がっていた俺達の方にもその余波が襲い来り、凄まじい風圧と音の嵐が全身を叩きつける。

「うわぁっ!?」

「どうだネル、すげーだろ!! これが精霊魔法だ!!」

「すごいけどそれどころじゃないからっ!! 『絶域の結界』!!」

慌てて結界魔法をもう一度発動し、俺達の前に壁を作るネル。しっかり俺の前にも張ってくれる辺り、コイツの愛情を感じるぜ。

俺の渡した魔力の全てで攻撃を敢行したため、ブレスを放った側からレヴィアタンの全身が崩壊を始める。

やがて攻撃を放ち終え、レヴィアタンが存在を維持出来なくなりただの精霊に戻ったところで、ようやくまともに見えるようになった視界で前方を確認すると――。

「まだ、生きてるか……流石だな」

下半身は完全に消滅しており、残る上半身もほとんどが焼け焦げ、パーツの幾つかが消し飛んでいる。

後一発水球でも当てれば、死んでしまうのではなかろうか。

そんな、誰が見ても瀕死の状態の不死王は……しかし、未だその仄暗い眼窩の奥に、深い憎悪の念を携えていた。

それも、瀕死にさせた俺にではなく、どこか遠くの何かに対する、だ。

コイツの恨みは、それ程までに、コイツの根本で燃え盛り続けているらしい。

「……まあ、お前はもう、死人だ。死人は、大人しく死んでろ」

――だから……そうだな、お前の恨みは、代わりに俺が覚えておいてやる。

どうにか出来る範囲だったら、どうにかしてやる。無理だったら諦めろ。

どうせお前はもう死んでいて、今更出来ることなんざ何もないんだ。

なら、死人は死人らしく、余計なことは考えずに、安らかに死んでいればいいさ。

そして、俺は――轟滅を振り下ろした。

* * *

「……何だか、あんまり後味が良くない討伐だったね。いったい、何があってあんな風に……」

バラバラになり、動かなくなった不死王の方を見ながら、ポツリとそう溢すネル。

「さてな……けどまあ、道中の魔物どもがあんだけ敵意満々だったのは、生み出し親のこの不死王に、影響された結果なのかもな」

ウチのレイス娘達と、ここのレイスとの違いは気になっていたが……ここの魔王は人間に対し強い恨みを抱いていたため、その配下の魔物も同じように、憎しみの感情を全面に出していたのではないか、と思うのだ。

配下の魔物の意思が、魔王には伝わるように、魔王の意思もまた、配下の魔物には伝わるからな。

「あぁ……なる程ね。確かに、うちのレイスの子達がとってもいたずらっ子で、シィちゃんがマイペースでのんびり屋さんだったりするのも、おにーさんの影響だって言うならすごくよく納得出来るからね。ダンジョンの魔物が魔王に影響されるっていうのは、確実にあると思う」

「……何か、そう言われると、微妙に思うところがあるんだが」

「一つ言っておくと、おにーさんがいたずら好きでとってもマイペースっていうのは、間違いないからね?」

……まあ、否定はしないけどさ。

この話はこちらが不利と判断した俺は、誤魔化すようにゴホンと一つ咳払いしてから、言葉を続ける。

「と、とりあえず、先に仕事を終わらせるとしよう。ダンジョンコアは……これか」

玉座の間にある扉の一つ、恐らく元は船長の執務室だったのだろうボロボロの部屋の中、ダンジョンコアは執務机の上に置かれていた。

俺のダンジョンコアとは違い、虹色ではなくどす黒い赤色である。

予めカロッタから、「魔王の討伐証明とかなりの報奨金となるので、出来る限り持って帰って来い」と言われていたため、俺はダンジョンコアへと右手を伸ばし―― そのまま(・・・・) スポッと(・・・・) 、 掌に吸収されて(・・・・・・・) 無くなった(・・・・・) 。

「「あっ」」

同時に声を漏らす、俺とネル。

「……おにーさん?」

「い、いや、違うんだネル、わざとじゃない! 何故かわからんが勝手に吸い込まれたんだって!」

一応確認のため、慌ててアイテムボックスを開いてみるが、当然そこには入っておらず、次にメニューを開くと……あ?

メニューの中で、『ダンジョン』の項目に何か反応がある。

すぐに開いて確認してみると――。

「これ……もしかして、 この(・・) ダンジョンが(・・・・・・) 俺のものに(・・・・・) なったのか(・・・・・) ……?」

ダンジョンの項目を見ると、俺の持つダンジョンに関する操作にプラスして、この幽霊船ダンジョンに関する操作、『階層追加』や『ダンジョン領域拡張』など全ての機能が使用出来るようになっている。

……これはつまり、俺がこのダンジョンの魔王を殺したから、代わりにここの魔王になったってことか?

「えっ、おにーさん、このダンジョン支配しちゃったの?」

「……そうらしい。これ、ダンジョンコアの回収、出来なくなったけど……どうすればいいと思う?」

「……どうしようもないんじゃない?」

うん……そうか。そうね。

俺もそう思う。