軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ダンジョンへ《1》

「? どうした、ネル。機嫌が良さそうだな」

聖堂の中、隣を歩きながら不思議そうに見て来る女騎士の上司に対し、ニコニコ顔でネルは答える。

「はい、昨日の夜、ちょっといいことがありまして」

「ほう? 恋人にでも会ったか?」

「えっ……な、何でわかったんですか!」

「……いや、冗談のつもりだったんだがな」

かぁっと頬を赤らめる勇者の少女に、苦笑を溢す上司――カロッタ。

と、女騎士はコホンと一つ咳払いをしてから、言葉を続ける。

「しかしネル。嬉しいのはわかるが、今から行われるのは大事な作戦会議だ。気を引き締めてもらわねば困る」

「は、はい!」

キリっと表情を切り替え返事をするネルに、カロッタはコクリと頷く。

「よし。では、すぐに会議室に向かうぞ。もう、他の者どもも揃っている頃だろう――」

* * *

十数人の兵士達が集う会議室。

「――全員揃ったな。これより、任務の説明を始める!」

その彼らの前に立つ議長役のカロッタは、彼女の部下――聖騎士達に向かって、朗々と声を張り上げた。

「今回我々に与えられた任務は、沿岸部地域に存在する迷宮の踏破―― 魔王の(・・・) 討伐だ(・・・) 」

そのカロッタの言葉に、話を聞いていたネルの心臓が一瞬ドキリと跳ね上がるが……自身の上司が、『沿岸部地域』と言ったことをすぐに思い出し、ホッと胸を撫で下ろす。

――おにーさんのダンジョンは、全然沿岸部じゃないもんね。

「沿岸部地域というと、ローヌ地方でしょうか?」

聖騎士の一人の言葉に、カロッタは答える。

「そうだ。ローヌ地方の、ポーザ港から四時間の場所に存在する迷宮へ潜ることになる」

「四時間……? 相当近いですね。何故今まで討伐されなかったので?」

「いや、今までは冒険者連中が担当して攻略に動いていたようだ。だが、まだ魔王討伐にまでは達していないということだな」

「へぇ……そうして攻略が進んでいるなら、あんまり問題もなさそうですが、そんな案件が何故ウチにまで回って来たんですかね。しかもダンジョン攻略なんて」

また、別の聖騎士から投げ掛けられる疑問。

聖騎士の仕事は、教区の治安維持や軍と協力しての犯罪者の逮捕、要人の警護などが中心で、担当している街の外まで出てのダンジョン攻略などという仕事をすることは、ほとんどない。

そんな、管轄外とも言うべき仕事が回されて来たということは――つまり、そこにはそれなりの事情が存在するということである。

「あぁ、どうも魔王討伐に向かった冒険者達が失敗して戻って来たようでな。魔王は脅威であるため、早めに討伐する必要があるが、他の実力ある冒険者は、タイミングが悪くそちらまで手が回らないらしい。故に、比較的軍よりも自由が利き、個々でそれなりに実力を持っている聖騎士の我々に白羽の矢が立った――というところまでが、表向きの理由だ」

そこでカロッタは一度言葉を切り、つまらなさそうな表情で言葉を続ける。

「以前、我々の手で、枢機卿を二人捕縛しただろう? 枢機卿という、ほぼ教会のトップのところでいざこざがあった事実が民の耳目に触れ、不信感を持たれている。これを解消するために、教会には民を守る力があると上は誇示したいらしい。要するに、 政治だ(・・・) 」

フンと鼻を鳴らすカロッタ。

「くだらん要請をするなと蹴飛ばしてやりたいところだが……我々が阿呆を捕らえたことが原因であるのも確かな事実。しっかりその後始末までをやるのが、ちゃんとした大人というものだ。我々は、自らの手で尻も拭えんような、介護が必要な老人ではないということを示さねばならん」

彼女の皮肉めいた言葉に、会議室から笑いが漏れる。

「そういう訳だ。我々はこれから、迷宮に潜るための準備を始める。――だが、その前に一つ、問題がある」

笑い声をあげていた聖騎士達が、続くカロッタの言葉を聞くためにすぐに口を閉じる。

「お前達も知っているように、近い内新たな枢機卿を選出するための『選定の儀』が行われる。そのため、この中からも半数以上の者をそちらの警護に回さねばならん。そうなると、冒険者達が魔王討伐に失敗したダンジョンに、少ない戦力で挑まなければならないという訳だ。故に今回は、万全を期すため外部から助っ人を呼びたいのだが……ネル」

「え? あっ、は、はい!」

自分に話を振られると思ってなかったため、一瞬呆けてしまってから、慌てて返事をするネル。

「その、助っ人に関してなのだがな――」

* * *

「ダンジョン!」

「だんじょン!」

「攻略!」

「こうリャく!」

「一攫千金だー!!」

「ダー!!」

俺の真似をして、両手を天に高く掲げるシィ。可愛過ぎ。

ちなみに、俺が言っていることに関しては深く理解していないと思われる。

シィ、何も考えずオウム返し的に言葉を発することが多いからな。

「……魔道具を弄り始めたと思ったら、何じゃ、突然」

と、こちらの様子を見ていたレフィが、怪訝そうな表情で問い掛けて来る。

「ネルから『ダンジョン攻略することになったから、おにーさんも来ない?』って連絡があったので、私はダンジョン攻略に行ってきたいと思います」

「そ、そうか――って、魔王を討伐しに行くのか? 一応、お主と同族ではないのか?」

「同族? ハハハ、おかしなことを言うな、レフィ。魔王にはね、敵か味方か、しかないんだよ?」

そして俺の味方は、ここにいる者達とネル、そしてプラスアルファなので、それ以外は敵、もしくはどうでもいい者達である。

「……お主が構わんのであれば、別に何でも良いが……」

いやぁ、他の魔王のダンジョン、見てみたかったんだ。今までそんな機会無かったし。

これまで聞いてきた『魔王』ってものが、やれ傲慢だ、やれ人類の敵だって、評判最悪だもんな。

実際、他の魔王がどんなものなのか、気になるじゃない。本当にクズ野郎なら、遠慮なくぶっ殺せるしさ。

まあ、言って俺にも、魔王らしく『人類の敵対者』なんて称号が付いてるんだけど。

「では、しばらく出るのじゃな?」

「あぁ、遊びに行って来る。ま、ちょっと前に王都に行った時よりは早く帰ると思うぞ。海の近くって話だし、海の幸の食いモンでもお土産に買ってくるわ」

「うみノさち!」

「おう、海の幸だ。美味いぞぉ~?」

ニコニコしているシィにそう話しながら、俺は遠出の準備を始めた。