軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

中継の街《1》

――ある貴族の屋敷で行われている、社交パーティにて。

絢爛な装飾が為された室内で、着飾った者達が華やかなその場に合わせたように、噓くさい笑みを張り付けて交流を行っているその最中。

周囲の者達に会話を聞かれないようさり気なく気を遣いながら、顔を見合わせる男が三人いた。

「何……? 勇者が現れただと?」

「そのようですな。私の配下が、例の辺境の街、アルフィーロにて彼女の姿を目撃したとのことです。現在はこの王都に向かって馬車を走らせていると」

濃い髭の男と薄い笑みを浮かべた紳士風の男の二人の会話に、彼らの隣にいたでっぷりと太った肥満体の男が鼻を鳴らす。

「フン、あの成り上がりの無骨者が治めている街か。あの者は王の犬だからな。同じく王と歩調を合わせている教会の手先と、仲良くやるのも道理、ということか。忌々しいことだ」

「まあまあ、そう仰らずに。……どうせ彼女にはもう、王都に戻って来たところで、 居場所など(・・・・・) 無いのですから(・・・・・・・) 」

あくまでにこやかな笑みを浮かべながらそう話す紳士風の男に、肥満体の男がニヤリと笑みを浮かべる。

「あぁ、そうでしたな。すでに、貴殿が教会内部にも手を伸ばしていたのでしたな」

「ふふ、同志がいらっしゃっただけですよ。現在の状況は良くないとお嘆きになられる、愛国心の溢れた同志が、ね」

「 賄賂(わいろ) に 靡(なび) く愛国者、ですか。それはそれは、頼りになりそうなものですが、情報漏れは大丈夫なので?」

若干不安そうな様子を見せる濃い髭の男に、紳士風の男は心配ないと言いたげに言葉を紡ぐ。

「その辺りはご心配なく。元々、彼は 彼(か) の御方の息の掛かった者ですので。同志、というのは比喩ではないのですよ」

「あぁ、そうなのですか。それは失礼致しました」

「いえ、お気になさらず。実際、貴殿の仰る手法で同志となった者も多いですから」

ハハ、と笑い合う髭の男と紳士風の男。

「……しかし、あの勇者には味方も多い。実際に姿を見せたことで、色々と不都合が生じる可能性もあるのでは?」

肥満体の男の言葉に、紳士風の男が心得ているといった様子でコクリと頷く。

「すでに、手は打ちました。我々はただ、彼女が自らの首を絞めて帰って来るのを、この王都で待つことにしましょう――」

* * *

「へぇ、豪華だな……流石貴族様が泊まる宿だ。ま、俺の城の方が十倍は豪華だが!」

「……おにーさん、おにーさんのお城が豪華なのは知ってるから、そういうことはあんまり口にしないようにね?」

「お、何だ、ネル。落ち着いたか?」

「あ、う、うん……今、凄く恥ずかしいけど……」

と、言葉通り気恥ずかしそうな様子で、頬をポリポリと掻きながらそう言うネル。

彼女はあの後、ひとしきり泣いたところで泣き疲れてしまったらしく、ついさっき馬車が止まるまで、可愛い寝顔を見せていた。

大分スッキリした顔を見せている辺り、やはり一度思いの丈を吐き出したことで、彼女の中で感情の整理が付いたのだろう。

ネルには……まあ、その、笑顔を見せていて欲しいので、俺も内心安堵である。

――現在は、すでに夜。

現在地はまだ王都ではなく、その途中にある王都への中継地点となっている街だ。

リルに乗れば王都まで数時間で到着する訳だが、普通の馬では、乗用車並で走れるアイツ程の速度は流石に出ないので、途中で一泊する必要があるのだ。

そのため今俺達は、道中を共にしている辺境の街の領主のおっさんが、よく利用しているという宿で宿泊の手続きをしているのである。

している、というか、正しくは領主のおっさんの部下がチェックインを終わらせるのを待っている、だが。

ちなみに、彼が俺達と道中を共にしているのは、ネルの安否を確認出来た今、そこから発生するであろう影響や混乱を最小限に抑えるためだそうだ。

何でも、今では領主のおっさんは国の内部でもかなり重要な立ち位置にいるらしく、そういう治安に関する仕事をしているらしい。

出世して何よりだが、仕事は程々にな。

「ま――ユキ殿がネル殿を娶るという話だが、ならば同じ部屋で大丈夫か?」

一瞬、『魔王』と言いかけた領主のおっさんが、俺の名前を言い直してそう問い掛けて来る。

「え、あぁ、いい――いいよな、ネル?」

一応彼女に確認を取ると、ネルはまた恥ずかしそうな様子で、コクリと頷く。

「まあ、今更だしね。いっつも、おにーさんとレフィ達と一緒に寝てる訳だし。……二人だけ、っていうのは初めてだから、ちょっと緊張するっていうか、ドキドキするっていうか、って感じだけど……」

「あ? 何だって?」

「ううん、何でもない!」

ニコッと笑うネルに若干不思議に思いながらも、俺はふと頭に浮かんだ疑問を彼女に問い掛ける。

「……というか、それこそ今更こんなことを聞いて悪いんだが……お前は教会所属で、つまりは聖職者なんだろ?」

「え? うん。そうだよ」

「なら、その……戒律的なものは大丈夫なのか? 俺の知ってる聖職者ってのは、結婚とかそういうの、かなり厳格だったりするんだが……俺、一応すでに妻帯者だしな。一夫多妻がダメなところもあるだろうし、なんか、禁止されていることがあったりとか……」

宗教についてそこまで詳しくはないのだが、神に身を捧げて一生独身とか、こういう時代の聖職者にはありそうだしな。

神様にネルをくれてやるつもりは毛頭ないが、その辺り、聞いておかないことには対応が出来ない。

と、若干心配気味にそう聞くと、彼女は一瞬目を丸くし――やがて何故か、クスクスと笑い始める。

「な、何だよ」

「いや、ホントに今更だなぁって思って」

「わ、悪かったな。お前が聖職者だってことを、こっちに来てから思い至ったんだ」

「ホントに、おにーさんはそういうところ無頓着なんだよねぇ。だから、魔王なのに勇者を娶ることになるんだよ?」

「う、うるせ。それに、その結果になるんだったら俺の無頓着も、別に悪くねぇだろ」

「フフ、そうだね。おにーさんの無頓着に感謝だ。……僕の方は、問題ないよ。そういう宗教もあるって聞くけど、僕のところの神様は、その辺り大らかだからさ。そこに愛があれば、大体のことはお許ししてくれるんだ」

「そうか……なら、まあ……問題ないな」

「うん、そうだね」

そう言って彼女は、嬉しそうにニコニコと笑みを浮かべた。

……可愛いヤツだ。

「――ウホン!」

と、その咳払いに俺とネルはハッと我に返り、声の方を振り返る。

見るとそこには、生暖かいような、呆れたような表情を浮かべている領主のおっさんの姿があった。

「……仲が良さそうで何よりだが、とりあえず、部下から部屋の鍵を受け取ってくれるか」

「へ、へい」

「すっ、すみません、領主様!」

「……いや、まあ、私が思っていたより大分仲が良さそうで、微笑ましい限りではあるのだがな」

そう言って、苦笑を浮かべる領主のおっさんだった。