軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「……貴方という人は、本当にムチャクチャですね」

「アンタのとこの王さんの要請は、しっかり答えたろ?」

ジト目のフードちゃんの言葉に、俺は肩を竦めてそう答える。

「……まあ、そうですね。これ以上にない程、貴方は注目を集めたと言えるでしょう。やり過ぎたとも言えるくらいに。貴方があのように派手に動いてくれたおかげで、敵側の諜報員達が一斉に動き出しました。王は、恐らくこの事態を好機だと考えるでしょう」

「なら良かったじゃねぇか」

「えぇ、そうです。きっと、嬉々として王は、すでに人員不足気味で一人一人の仕事量が物凄いことになっている我々に、さらに多くの指示を出すことでしょう。私の仕事仲間達は、王のためなら死んでもいいと思っている者達ばかりですので、恐らくむしろ喜ぶでしょうが……いや、私も勿論、王のためなら死んでもいいのですが、しかしこうも仕事仕事ばかりですと……」

「あー……その……すまん」

フードちゃん、まだ結構若いもんね。多分俺より年下だろうし。

そんな歳から、こうして過重労働に苦労しているとは……何と言うか、この子がすごく不憫な子に見えて来た。

……後で、差し入れしてあげよう。

「……いえ、お気になさらず。貴方は同盟者として、最大限に仕事をしてくれました。少々愚痴を言ってしまいまして、申し訳ありません」

「あぁ、いや、うん、何かあったら、何でも相談乗るから、遠慮なく言ってくれ。な、レイラ」

「そうですねー、ハロリア、私も、いつでも相談に乗ってあげますからねー?」

「ウゥ……ありがとうございます、レイラ様」

レイラの言葉に、感激したような表情を浮かべるフードちゃん。

……レイラ、『様』?

……まあ、はい、仲良くなってくれたようで何よりです。

知らない間にとても仲良くなっていたらしい二人の様子に苦笑いを溢してから、俺は目の前の肉汁たっぷりのドデカステーキにフォークを突き刺し、がぶりと 齧(かぶ) り付く。

俺の隣では、その小さな口をハフハフさせて、エンが一生懸命にステーキを頬張っている。可愛い。

――ここは、フードちゃん達が確保してくれていた、闘技場の観客席の一区域だ。

席ではなく区域という表現なのは、この辺りの席の全てが偉い人方のために空けられている、貴賓席であるためだ。

簡単に言うと、魔界の貴族連中のための席だな。

そのためサービスも非常に良く、何か欲しいものがあれば、常駐しているメイドさん達が持って来るか買って来るかしてくれるし、今俺達が食っているこの美味いステーキも、すぐ裏で待機している調理人達がその場で作ってくれたものだ。

わざわざこの貴賓席のために、大会の運営スタッフがどっかの高級料理店のシェフ達を雇って連れて来た、というのだから恐れ入る。

まあ、魔界の王のために確保されている席の辺りはここよりさらにゴージャスなのだが、すでに変装を解いている俺がそこに行って、王の一派と関係があるとバレるのは良くないし、かといって一般席に座らせるのは申し訳ないから、という理由でこの貴賓席に俺達の席を確保してくれていたようだ。

「――凄まじいな、先程の仮面の男。いったい何者なのだ?」

「噂によると、王が最近になって雇った傭兵だとかいう話ですぞ」

「傭兵か……では、私も金を払えば雇えますかな?」

「しばらくは無理でしょうな。王が囲っているという噂ですので」

少し離れた位置に座っている、二人の貴族の魔族達の方をチラリと見てから俺は、フードちゃんに顔を向ける。

「……順調に、そっちの工作は進んでいるようだな」

「その辺りに抜かりはありません。一度動き出した王は、相手が罠に嵌まったことを気が付く前に、完全に潰すことが可能ですので。ここから、さらに動きは加速していくでしょう」

そりゃあ、何よりで。

「その王さん、そうやって色々作戦やってるのに、こっち来ちゃっていいのか?」

「それは、少々致し方の無い理由がありまして。悪魔族どもの 首魁(しゅかい) がこの闘技場に来る以上、王もこちらに来るしかないのです」

あぁ……なるほど、牽制目的か。

自分らのいないところで、あることないこと言われたら困るもんな。

どうも、魔界における悪魔族一派と王一派の争いを見る限り、お互いの『顔』をどれだけお互いが潰せるか、というところがあるようだからな。

こういう公の場に出て来るのは、非常に重要なことなのだろう。

言わば、プロパガンダ合戦といったところか。

この対立が、さらに激化していくと――もっと直接的な、武力と武力のぶつかり合いになる訳だ。

あの王は、そうなる前に勝負を決めたいのだろう。

――と、そんな話をしていた、ちょうどその時。

『――皆さま、お食事中失礼します!今朝ご紹介させていただいたお二人がご到着されました!皆さま、拍手をお願いいたします!』

その司会の言葉に促され、会場を包み込む拍手。

すると、闘技場の上に浮いている水晶球のモニターが映像を映し始め、そこに魔界の王、フィナルのニコニコ顔がデカデカと映し出される。

チラリと視線を向けると、アイツのためだけに用意された闘技場の一角のゴージャスな区域に、先程まではいなかったはずの魔界の王がいつの間にか現れていた。

彼の姿が現れた瞬間、「キャーっ」という黄色い声援と、男達の嫉妬混じりのブーイングが上がる。

あぁ……どういう評価を得ているのか、よくわかる反応だな。

『やぁ、皆。フィナルだよ。今日から始まる、この魔界のお祭り。皆でいっぱいに盛り上げて行こう。僕も、今回のお祭りには一人だけ自慢したい子を送り込んだから、彼の活躍を見て是非楽しんでね!』

そう言って、ふとこちらに視線を送り、満面の笑みを浮かべるフィナル。

売り込んでくれてどうも。

『ありがとうございます、フィナル様!王の言っていらっしゃる選手というのは、例の咆哮だけで試合を終わらせてしまった、謎の仮面の選手のことですね。彼はまだ、武器すらも抜いていないので、今後どのように活躍していくのか、私も非常に気になるところです!――フィナル様、ありがとうございました、皆様今一度大きな拍手を!!』

その言葉に、再び大きな拍手が闘技場を包む。

『それでは続きまして、もう一人のお方に登場していただきましょう!!皆さま、引き続き写し身の水晶へご注目お願いいたします!!』

その言葉と共に、次に水晶球のモニターが映し出したのは――一人の、男。

短く刈り上げられた、赤い髪。

猛禽類を彷彿とさせる鋭い眼に、蛇のような大きな口。

その肉体は、着込んでいる衣服の上からでも筋肉の盛り上がっていることがよくわかり、二メートルはあろうかという背丈も相まって、非常に巨漢な印象を受ける。

『ウオ―――ッッ!!』

その男が現れた瞬間、会場にいた男共のほぼ全てが上げる、怒声にも聞こえるような雄叫び。

そのあまりの声量にビックリしたのか、俺の隣でハムハムと肉を食っていたエンが、ビクリと身体を跳ねさせた。

オイ、テメェら、ウチの子怖がらせてんじゃねぇ。ぶち殺すぞ。

『――諸君!!』

そう、一言発した瞬間、男の言葉を聞こうと、会場がシン、と静まり返る。

『私がゴジムだ。歓迎の歓声、ありがたく思う。――この力の祭典において、私が諸君らに求めるものはただ一つ。この戦士達の宴を、存分に楽しめ!!』

グン、と拳を振り上げた男――ゴジムに呼応し、観客の野郎どもがフィナルの時よりも大きな、地響きを起こさんばかりの拍手を送る。

――あれが、悪魔族どもの首魁か。

ステータスは……ダメだ、全く見ることが出来ない。

何と言うか、ヤツの手前で魔力のシールドでも張られているような印象だ。

魔力を遮断するタイプの、非常に強力な魔導具を発動しているのか、それとも自前で分析スキルを弾くようなスキルを持っているのか。

……何だか、アイツの方が、よっぽど魔王っぽくねーか?カリスマっぽいものも感じられるし、正体もわからんし。

俺もフィナルも、見た目は正直、『魔王』という言葉から連想する容姿とかけ離れているからな。

マズい、アイデンティティを著しく侵されている気がする。

……覚えたぞ、その俺より魔王っぽいツラ。

俺こそが真の魔王であると、その内絶対に証明してやるからな。

* * *

「――久しいな、フィナル。相変わらず腑抜けた面をしている」

「久しぶり、ゴジム君。相変わらず脳味噌まで筋肉みたいな、頭の悪そうな顔をしているね」

嘲笑するような悪魔族の頭領ゴジムの言葉に、にこやかにそう言い返す魔界の王フィナル。

いつも笑顔を浮かべている魔界の王が、こうも辛辣な言葉を吐くことを、彼に近しい者が見たら驚くことだろう。

「ハッ、言いよる。俺にそんな言葉を吐ける男は、今では貴様しかおらぬわ」

「そうかい。友達が少ないんだね。僕の周りの子達は、皆僕に対してしっかりと意見を言ってくれるよ」

「部下に舐められているということに気付いておらぬ、哀れな男よ。よく今もまだ、貴様のような 小童(こわっぱ) に従っている者がいるものだ」

「ただ 唯々諾々(いいだくだく) に従うことを忠誠と勘違いしている、どこかのお馬鹿さんの部下達よりは断然マシだと思うけどね」

「フン……その強がりもいつまで持つか。どうやらどこかの馬の骨を、恥も外聞もなく雇ったようだが、その男は何回戦まで勝ち進むことが出来るのだろうな?」

「あぁ、彼のことを心配してくれるなんて、優しいね、君は。でも心配しなくていい。彼は君の、大事な大事な 駒(・) よりもよっぽど強いから」

「俺の同胞をッ、愚弄するか小童ァッ!」

――その時、観客達の熱狂の声でかき消され、魔界の王と悪魔族の頭領、二人の交わしている言葉が全く聞こえていなかった司会が、にこやかに彼らの方へと振り向き、言葉を掛ける。

「それではお二方、打ち合わせ通り、観客の皆さまのために握手をお願い出来ますでしょうか?」

司会が彼らの方を振り返った瞬間、悪魔族の頭領は激高の表情を瞬時に引っ込め、そして二人は要請通りに握手を交わす。

片一方は、凄惨な笑みを浮かべ。

片一方は、嘲弄するような微笑みを浮かべ。

「では、フィナル。健闘を祈ってやろう。――その腑抜けた面が、無様に歪むところが見られることを期待している」

「君もね、ゴジム君。――この闘技大会が終わった時、君が今までと同じでいられるとは、思わない方が良い」

一見和やかなように見える二人が、そうして握手を交わす様子に、観客達はただ何も知らず熱狂の声を上げたのだった――。