軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

気付かない 一人目

おしゃれにコンプレックスを抱えた私は、シンプルな服装を心がけた。

仕事中は制服があるから、出勤時に「おかしい」と思われなければいい。ブラウスにスカート。とにかくベーシックで、流行は大きく外れなければいい。

大人しい地味な娘は、良妻賢母になりそうだと一部の人にウケがいい。子どもの頃は私でもその枠で相手が見つかると思っていた。

それを期待することすらおこがましい、身の程を知らなきゃ――というのが自分の中では確定事項で、周囲からどう見られているかに無頓着だった。

仕事を始めて、困ったことがある。

女学校出身で、男性との距離感がわからない。自分でできることはやってしまうので、可愛げがないらしい。

力仕事は対等にできないけれど、できる範囲で頑張る。持てそうな荷物に手も出さずに「お願い」と頼めないし、大丈夫かと訊かれたら「大丈夫です」と答えてしまう。

書類仕事で「やっぱり男の人は頼りになるわね」という言葉を聞くと、違和感がある。男女関係なく、頼られるように努力すべきでは……と思うのがズレているのだろうか。

帰る途中で、同期の男性を見かけた。

食事くらい行くべきかしら? 誘わない方が失礼かも。普通は女性から誘わない?

正解がわからなかったので、とりあえず誘ってみた。

「あの、せっかくですから、ご飯でも食べに行きますか?」

同期の距離感としては、こんな言い方でいいだろうか?

しばらく考え込まれた。

気が乗らなかったら断ってくれていいのに。そうしたら、一人で食事に行くだけだし。

「はい」か「いいえ」の二択しかないのに、何を悩むことがあるのだろう。

私は一人暮らしで気楽だけれど、家族と住んでいたら夕飯の用意がしてある可能性があるか。それなら、「またの機会に」と断ってくれていい。

こちらから誘っておいて、「気が乗らないなら別にいいです」と言うのは失礼だろうか?

次に見かけても声をかけるのはやめよう。

大人しく返事を待っているけれど、お腹が減っているのだ。一日仕事をして疲れているから、気が短くなっているかもしれない。

ようやく顔を上げたかと思ったら「じゃあ、行きましょうか」と、重大決心をしたように言われた。

穏便に断る言葉を探していたわけじゃないのか。よくわからない人だ。ちょっと面倒くさいかも。

夕食は、可もなく不可もなく普通だった。

新人が行けるお手頃なお店に入る。他の同期の近況を聞き、仕事の話をする。会話は途切れず、にこにこと笑顔で応じる。

家族で食事しているときと一緒だ。適度な相槌で、相手がしゃべってくれる。同意したり、質問したりして、相手の気分を盛り下げないようにすればいい。

趣味の話ではしゃぐこともなく、「普通の女性」を演じられただろう。「変な子」と言われなければ成功だ。

無難に「同期との食事」というミッションを終えて、私はホッとした。

それからその同期の態度がおかしくなった。

通りすがりだからと声をかけてくる。食事に誘われたが、「仕事をまだ覚えていないから」と断った。正直、また食事をしたいと思わなかったから。

体調が悪いときに気付かれた。実家では心配されなかったから嬉しいかと思いきや、なんだかうっとうしい。意識してしまうとシンドイから、自分を誤魔化して働こうとしているのに。

休めるなら休むが、仕事があるのだ。

「他の人に頼んですぐに休め」と簡単に言う。慣れない仕事で役に立てているか不安だったので、「大した仕事じゃない」と思われているのかと不快になった。

気弱になっているせいで被害妄想だと自覚しながらも、同期に対する好感度は下がっていった。

ある日、「先輩の引っ越しを手伝いに来いよ」と言われた。なんで?

知り合いでもない人のために、貴重な休日を潰さないといけないの? 武官だったらてきぱきと荷造りできるけど、文官だから手際が悪いの?

図々しいと思うのが顔に出たのか「終わった頃に飲みに来るだけでもいいよ」と慌てたように言われ、ますます意味がわからなかった。

それを断ってから、普通に戻った。なんだったんだろう、あれ。変な人。