軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第6話 王立美術アカデミア。

小さいころから絵画の先生が付いて、マテオ伯爵家ソフィーアは絵の勉強をしてきた。画材は最高級の物を父が十分買い与えてくれたし、絵画の先生はアカデミアで教鞭をとっていた人だった。

「ソフィーア嬢は美人なうえに美術の才能がある!天は二物を与えたんだねえ!」

知り合いはみんな、私を天才だとほめちぎってくれた。自分でも自信があった。

ソフィーアが満を持して王国美術展に自分の作品を出品してからも、新人賞か、ひょっとしたらグランプリかもしれない!と、家族と先生が盛り上がっていた。

発表当日、着飾って家族と出かけた。

表彰台に登っても目立つようにと、派手な赤のドレス。腰まで伸びた美しい金髪は侍女が香油を付けて梳かしてくれて、キラキラだ。

【新進気鋭の最年少受賞者!】

そんな翌日の新聞の見出しまで目に浮かぶ。ソフィーアには自信があった。

華やかなバラ園に佇む貴婦人の絵。赤やピンク…重ねられた色が美しく仕上がった。

佳作、と紹介された作品は、たいして面白くもないものだった。

新人賞の作品には、薄い布がかけられて、中央に飾られている。

自分の名前が呼ばれるのを、ソフィーアはドキドキしながら待った。

「今回の新人賞は…テオフィル・フォン・ヘルマンの【水を浴びるエヴェ】」

主催者の発表の後、布が外されて、受賞した絵をみたギャラリーから、歓声が上がる。その後に…深い感嘆…。ほぼモノクロに見えるその絵は、ソフィーアにはかなり地味に見えた。

(え?)

「審査員の中には、今年のグランプリに推す者もいましたが、まだ若い彼の今後に期待し、新人賞と美術アカデミアの特待生枠を…」

(え?)

人ごみをかき分けて、良く絵が見えるところまで出たソフィーアは…打ちのめされた。

遠くからモノクロに見えた絵には、たくさんの色が散りばめられていた。水面は空も日の光も、影を作る木の葉をも映していたし、水遊びする少女の白い背中も真っ黒な髪も映している。

なにより…表情は良く見えないが、この少女が心からこの夏を楽しんでいるのがわかる。

ソフィーアは、何もかも、自分にはないものだらけだと打ちのめされた。と、同時に…この絵を描いた人間に並々ない興味を持った。それは…ひとめぼれ、に近いものだったかもしれない。鳥肌が立つぐらいの興奮。どんな人だろう?

屋敷に帰ると、ソフィーアは絨毯に付くほど頭を下げて、渋る父親を説得した。絵を描くなど、ほんの…嫁入り前の高貴な趣味、程度に考えていたのは父も自分も一緒だったが…

「お願いです、お父様。美術アカデミアに通わせてください。2年たったら、どこにでも嫁ぎますので!」

*****

授賞式にも入学式にも現れなかったあの絵を描いた、テオフィル、という少年をソフィーアが初めて見たのは、美術アカデミアの静物画のデッサンの時だった。

癖のある銀髪に、紫の瞳…。ひょろっとした美しいその少年は、わき目もふらずデッサンをしていた。何人かいるクラスの女の子たちは頬を染めて、目の前の果物を見ているふりをしてその子を盗み見ていた。そう…私も…。

入学前、まだ見ぬその子の興味を引くために、私は自分の自慢だった髪を真っ黒に染めておいた。髪の長さも、あの絵の水遊びしていた少女と同じくらいに切りそろえた。

髪をなびかせて、何度かテオフィルの前を横切った。

スケッチブックに彼の横顔を何枚も描いた。

何度か声もかけてみたが、そっけない返事だった。

他の男子学生からはよく声を掛けられたが、夏休みを迎える頃になっても、テオフィルには声ひとつ掛けてはもらえなかった。