作品タイトル不明
94.神のリニューアル
「……よし」
完全なる地上。
山頂ではなく平地、完全なる地上から空を見上げた俺は、ホッと一息つきながら、同時に軽く握り拳を作った。
ガッツポーズまではいかないけど、やったことが成功した事の達成感が自然とその仕草にでた。
見あげた夜空は晴れ渡っていた。
数日ぶりの、嵐による隠蔽が必要ない、文句のつけようがない「普通の」夜空だった
昼の太陽が沈み、普通に夜が訪れたため、俺は嵐を消して空を晴れさせた。
一時は最悪の可能性も想像してたから、こうして普通の夜空がまた見られる事で俺は本当にホッとした。
とりあえず今夜はここまで、と。
俺は地面の適当な水溜りをつかって、水間ワープで屋敷に戻った。
戻った先はオノドリムと別れたリビング。
そこにはオノドリムだけじゃなく、ヘカテーの姿もあった。
「ヘカテー? いつ来たの?」
「神の成功を確認いたしましたので」
「僕の? え? それにしては早くない?」
俺はちょっと驚いた。
俺の成功を確認したということは、夜空を見たという事だ。
嵐を消してからさほど時間がたっていない、それですぐに駆けつけたにしたは早すぎると驚いた。
「信徒に空を監視させておりました」
「空を?」
「はい。神が嵐で目くらましをなさった時から、信頼の置ける者を高い山の頂上に張り付かせておりました」
「あ、なるほど」
俺は頷き、納得した。
嵐を消したタイミングからじゃなくて、昼の太陽が落ちた――日没したタイミングからならそんなに驚くほどの事じゃない。
距離が離れていようとも、簡単な情報を伝達するだけならいくらでも方法はある。
それがルイザン教という世界最大宗教のトップで、状況が世界の危機となれば、コスト度外視で更にどうとでも出来る。
それで知らせを受けてから駆けつけるとなれば納得できる。
ヘカテーは窓の外をちらっと見て、言った。
「再び夜空を取り戻していただいたこと。神がこの時代に降臨なさっていることは地上に住まう万民の至福にこざります」
「ありがとう、ヘカテー。でも、実は完全に解決したわけじゃないんだ」
「あれ、そうなの? 何がダメだったの?」
同席していて、興奮気味のヘカテーとちがって様子見な感じだったオノドリムだったが、俺の言葉で驚いて、それを聞いてきた。
「うんとね――」
俺は頭の中で一度状況を整理しつつ、二人に説明した。
二人が知ってることもあるし、知らないこともある。
それぞれが持つ現状の情報が断片的なものだろうという事もあって、一から十まで全て説明した。
夜の太陽が夜になる時間帯になるにつれ小さくなっていくこと。
そこに昼の太陽から力が流れていて、それで小さくなるのがとまって、徐々に元のサイズに戻っていくこと。
それが流れている間昼の太陽は沈まないこと。
そしてその力は魔力をオーバードライブした物であること。
だから俺はオノドリムから力を借りて、昼の太陽のかわりに夜の太陽に力を送ったこと。
それを全て説明した。
「つまり、一時凌ぎにしかなってないんだ」
「……そう、でございましたか」
「え、どういうこと? いいじゃんそれで助かったんでしょ?」
ヘカテーは重々しく頷く一方で、オノドリムはきょとんとしていた。
それを受けて、ヘカテーはオノドリムに説明した。
「夜の太陽を救ったことはさすが神、まさしく奇跡、神の御業に相応しいものではございますが」
説明の前にどうしても俺を、神を褒め称える下りでちょっと苦笑いした。
「しかしながらそれは対症療法に過ぎないのです」
「たいしょーりょーほー?」
「根本的な解決にはなっていないということです。確かに神が力を与えて日没に導きは致しましたが――ああっ」
「な、なに!?」
いきなり身震いするヘカテーに驚くオノドリム。
「……失礼。日没に導くという、人を超越した偉業に身震いが止まりませんでした」
「いちいち感極まってないであたしに説明してからにしてよ」
「はい。簡潔に申し上げますと、原因自体は取り除いておりませんので、明日になればまた同じことが起きる、ということでございます」
「原因……あ、そっか。風邪引いてるのに薬飲まないでおでこに水タオルだけのせてる状況だね」
「うん、そういう状況」
風邪なら時間たてばそれで治る――とは言わなかった。
物事が正しいかどうかは今のこの状況ではそんなに重要な事じゃなかった。
今ここで重要なのは、オノドリムの理解がほとんどあっているということだ。
「うーん、ということは……」
オノドリムは頬に指を当てての思案顔をした後。
「そか、明日になったらまた君が同じことをしなきゃいけないんだ」
「そういうことだね。そして、最悪の場合、これがもし一時凌ぎにしかなってないのなら……」
「な、なら?」
俺の深刻そうな表情に気圧されたのか、オノドリムはゴクリ、と生唾を飲んだ。
「状況が悪化し続けてて、いつかこの方法でもどうにもならなくなるかもしれない、ってことだよ」
「あー……そっか、そういう可能性もあるんだ」
頷くオノドリム。
俺も合わせるように頷いた。
伝えたい事は正しく伝わって、オノドリムがちゃんと理解してくれた。
「……ですが」
「うん? どうしたのヘカテー」
俺がオノドリムに説明している間、ずっと黙っていたヘカテーが口を開いた。
そっちを見た俺が一瞬ぎょっとする様な、熱っぽい眼差しを俺に向けてきていた。
「神は、この地上に住まう者全てに安穏を取り戻して下さった。たとえその場凌ぎにしかならなくとも、神がなさったことは、全ての人間に安心を与えて下さったことでございます」
「えっとそれは……」
「うん、あたしもそう思う」
オノドリムが大きく頷き、彼女一流の豊かな感情表現でヘカテーの意見に同調した
「自分じゃどうしようもない事で絶望を感じ続けるのってつらいもんだよ」
「……あっ」
やけに実感こもってる口調でどういうことだろう、とおもったがすぐにハッとした。
オノドリムはちょっと前まで、人間との契約に縛られながらも、その人間に忘れ去られるという、「自分じゃどうしようもない」状況だった。
そりゃ……実感もこもるよなと納得した。
「君はすごい事をしたんだよ」
「そっか」
「……くっ」
「あれ? 今度はどうしたのヘカテー、なんかすごく悔しそうだけど」
「神がおこした奇跡、万民に与えた恵み。これを信徒達に広めることが出来ないなんて」
「……ああ、そっか」
少し考えて、これまたすぐにわかった。
今回の事、民衆がパニックを起こさないように、日照時間が延びたこと自体ひた隠しにしてきた。
起こった事を隠しているって事はつまり、それを解決した事もいえない訳だ。
「大丈夫だよ、感謝されたくてやったわけじゃ無いんだし」
「ですが……」
「あっ、じゃあこういうのはどう?」
「オノドリム?」
「大昔、まだあんた達の教会が影も形もなかったころなんだけどね」
オノドリムがいう大昔――改めて、彼女が人間を遙かに超越した所にいる、大地の精霊なんだなと実感させられた。
「その頃って技術力とかもあんまなかったから、信仰する対象の像とか頻繁に作り直してたんだよね。そういうのを生業にする人も多いから、壊れてないのもわざと壊して作りなおすことで食べていくための仕事ふやしてたのね」
「へえ……でもそっか、銅像とか石像とか、そういうのが作れない時代だとそうなるんだね」
「うん。つまりさ」
オノドリムはヘカテーの方を向いて、にやりとわらった。
「神像っていうの? 作り直しちゃいなよ」
「――っ!」
ヘカテーはハッとした。
まなじりが裂けるんじゃないかってくらい、目をものすごい勢いで見開かせた。
「ヘカテー?」
「そうだった……神をもした像、その姿は今まで全て想像でしかなかった」
「だよねー」
「感謝いたします精霊様! 神よ」
「え? あ、うん。なに?」
「席を立つことをお許し下さい」
「うん、いいけど……なにをって、あ」
ヘカテーは俺からの許可が出たのをみるや、一目散に部屋から飛び出してった。
「一体どういうこと?」
「簡単な話だよ」
オノドリムはにやりと笑った。
「あの子、今ある神像を全部壊して、君の姿にしたものに作り替える為にいったんだよ」
「えええええ!?」
めちゃくちゃスケールのでかい話に驚いたが。
「……ヘカテー」
彼女ならやる、大喜びでやる。
俺はそう確信して、自分の見た目の像がこれからあっちこっちの教会に出来る事に、めちゃくちゃ恥ずかしいとおもったのだった。