軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

63.ガラスの靴

約束の地で、俺はヘカテー、エヴァ、そしてカルラの三人といた。

ヘカテーの次にエヴァを連れてくると、二人目を意味する二つ目の小丸に光が灯った。

そんな二つの光を背に、俺はカルラと向き合う。

「改めて……あなたをメーティスと名付ける。地上最初の生物が死んだ後、その脳髄から生まれた知識の妖精の名前だよ」

カルラに「メーティス」という名前をつけた。

エヴァンジェリン、そしてヘカテーの時と同じように、俺が転生してから得た知識の中で、ピンと来た名前をつける。

すると、メーティスの体が光った。

全身が光を放って、見えないほどまぶしくなる。

目を閉じて光を躱して、収まるのを待つ。

しばらくして、光が収まって目を開ける。

そこに、知的な女がいた。

顔の基本的な作りはカルラのままだが、もとのカルラから二十歳くらい若返って、その上顔だけではなく体全体が引き締まって、凜然とした空気を纏いだした。

「これが……私?」

メーティスは自分の変貌に驚いた。

手を見つめ、顔を触って驚く。

「パパの使徒になると見た目も変わるから」

「神の祝福と思うといいですよ」

使徒としての先輩二人、エヴァとヘカテーがそう言った。

エヴァの事はまだよく知らないが、ルイザン教の大聖女であるヘカテーがそういうのなら――って感じの顔で受け入れるメーティス。

一方で、俺は石碑の方を向いた。

「三つ目、光ったね」

「やっぱりあたし達の数だったんだね」

「そうみたいだ」

「では早めに残りの九人を集めるべきですが、心当たりはありませんか?」

ヘカテーがそう聞いてきた。

俺は首を振った。

「それが全然。さっきエヴァとメーティスを迎えに行ったけど、他の人を見ても、 そういう(、、、、) 感じがしなかった」

「選ばれし者じゃなくて、運命の者、ってことなんだね」

エヴァがいって、俺は頷いた。

まさにそういうことなんだろうなと思った。

俺が選ぶというわけじゃなくて、たぶんもとからそういう資質か、そういう運命をもった人間が名付けによって使徒に目覚めるということなんだろう。

適当にあと九人集めて、パパッと名前をつけて十二人揃えればいい、という訳ではないようだ。

「なにか心当たりはありませんか、ルイザン教の総力をあげて捜し出してご覧にいれます」

「うーん、それがよくわからないんだ。見ればわかるかなあ、とは思うけど」

「焦らない焦らない、パパが焦ってないんだから、あたし達が焦っててもどうにもならないから」

「それもそうですね」

ヘカテーは頷き、納得して引き下がった。

俺も頷いた。

うん、この件は……ひとまずこれまでだな。

「たぶん、実際に会わなくても、メーティスが書いた写本のように、関係している物を目にすれば分かるんだから、僕が普段の生活から注意深くして見てるよ。その上で協力が必要だったらおねがいするね」

「はい、御心のままに」

ヘカテーはしずしずと一礼した。

「それと――メーティス。一つお願いしたいことがあるんだ。メーティスのあの写本を作った真剣さを見込んで」

「なんでもおっしゃってください!」

「あの街で、本をとにかく読んでいてほしい。使徒が得た知識は、祈りを捧げると僕の知識になるんだ。メーティスほど真剣に読み込んで、僕に知識を反映してくれる人がいたら心強いんだ」

「ーーッッ!! お任せ下さい!」

「ヘカテーも、それでお願いできるかな」

「承知致しました。あの街において、メーティスが自由に動けるように手配します」

「ありがとう!」

これでよし。

後はメーティスが、あの街に集められた本を読んで、知識を俺に反映させてくれる。

知識が半自動的にどんどん増える事を考えると、俺はますます興奮したのだった。

彼女に名前はなかった。

生まれてすぐに人生の全てを否定されて、自分の望まない、他人のための人生を強いられた。

帝国皇帝。

女に生まれながら、自身が傾城傾国の美女たる資質を持ちながらも、女である事を否定されて、皇帝として――男として生きなくてはならなくなった。

その事を疑問に思ったことは少ない。

なぜならそうしなければならなかったし、それができるのが自分だけだと分かっている。

それでいいと思った。

自分の使命だと思えばなにも苦痛ではない。

しかし、それは「知らなかった」故の結果でしかなかった。

『綺麗な人……』

あの日以来、彼女の脳裏にずっとその言葉がリフレインしていた。

おそらくは先入観無しに、そして純粋なる子供の目で。

彼女の姿を、皇帝ではなく一人の女として捉えたからこそ出た言葉だ。

その日を境に、彼女の頭の中にある思いが芽生えた。

それは日に日に大きくなり、彼女の胸を焦がすようになった。

同時に、不安も芽生えた。

本当に自分は美しいのだろうか。

いやそれ以前に。

自分は果たして女に見えるのだろうか。

それが日に日に大きくなって、不安が胸を焦がすようになる。

彼女は知りたくなった。

それを確認した。

生まれて初めての女装――女なのに女装をして、宮殿を抜け出して街にでた。

街を歩くだけで、注目を集めた。

皆が驚いた顔で彼女を見ている。

彼女は不安になった。

なぜ驚くのだろうか。

その驚きはどういう感情なのだろうか。

普通に女として生きていれば、その類の視線が美しい者に向けられた好意的なものであると分かるのだが、残念ながら彼女は女の格好をしたのもこれが初めてなのだから、それを理解できる経験と知識はなかった。

女の格好をして街に出て、実際に美女であることを証明したが、悲しいことに本人がそれを理解できなかった。

その事は理解できなかったが、あることはすぐにわかった。

道の向こうがわから、マテオの姿が見えた。

六歳の少年は、いつものようにまわりを好奇心たっぷりの目で眺めながら、徐々にこっちに向かってくる。

彼女は逃げ出した。

何故かは分からないが、この格好をマテオに見られたくないとおもった。

だから逃げ出した。

「あっ……」

慌てて逃げ出したから、靴が――ヒールが脱げてしまった。

拾おうとしたが、マテオが更に近づいてくる。

彼女はそれを拾えずに、一目散で逃げ出してしまった。

街中をあっちこっち見て回った。

マテオボディで、あれこれ見回して、使徒らしき者の姿を探した。

それは見つからなかった――が。

「えっ」

俺は驚き、見かけたそれに駆け寄った。

しゃがんで、拾い上げる。

それはガラスの――いや水晶でできたハイヒール。

「一緒だ……」

ハイヒールが放つオーラは、メーティスの写本とまったく同じものだった。