作品タイトル不明
64.無自覚な告白
……つまり、このハイヒールの持ち主か。
メーティスの写本と同じって事は、このハイヒールの持ち主が四人目の使徒の可能性が非常に高いって事だ。
だったら、何が何でも探し出さなきゃだ。
俺はまわりを見回した。
「……うかつ」
完全に見失ってしまった。
元々ギリギリでの追跡だった上に、ハイヒールのオーラに目を奪われて、それで完全に見失ってしまった。
「……こうなったら」
☆
俺は水間ワープで、ヘカテーの居場所に飛んだ。
場所ではなく、「ヘカテー」の所在地を感じ取って、彼女から一番近い「水」にワープした。
使徒となって、俺とつながりが強くなったためにできるようになった芸当だ。
だから、はじめて来た場所だ。
どうやら書斎の様な場所で、ヘカテーは何か書き物をしている。
「神? どうかなさったのですか?」
「うん、ちょっと頼みたい事があって――って、何この噴水は」
頼みごとする前に、俺はヘカテーの書斎にある、俺が水間ワープで出てきた「噴水」が気になった。
小さな盆栽くらいのサイズのオブジェで、どういう仕掛けなのか、どこにも繋がっていない小さな盆栽サイズなのに、絶えず噴水としてふきだしている。
ふきだした水が下の受け皿に流れて、そこから更に噴水として吹き上がる――エンドレスな構造だ。
「マーテオの聖水、と名付けました」
「マーテオの聖水……僕の名前にちょっと似てるね」
「はい。本当の用途はあっちこっちに配ることで、神が自由に移動できる環境を作るためです。そのため、ありがたさを出すために、こうして単独でも噴水として機能し続ける構造で作らせました」
「なるほど」
俺はマーテオの聖水とやらをじっくり観察した。
聖水と言うよりは、聖なる泉――的な名前をつけた方がそれっぽいかもしれない。
まあそんなことはどうでもいい。
今はそれを気にしてる場合じゃない。
「それよりもヘカテー、一つお願いしたいことがあるんだ」
「はい、なんなりと」
「このハイヒールの持ち主を捜し出して欲しい」
「これは……ガラスのハイヒール。サイズからして、成人した女のものですね」
「うん」
「分かりました。これは神の敵ですか? 味方ですか?」
ヘカテーはざっくりとして区分で聞いてきた。
彼女の立場からすればそれが一番重要で、それさえ分かれば後は重要じゃないってのがよく分かる質問だ。
「メーティスの写本と同じオーラを感じたんだ」
「!! つまり第四の使徒」
「そうかもしれない」
「分かりました。ルイザン教を総動員して捜させます」
「うん」
俺はヘカテーに、ハイヒールを拾った街の事を話した。
「だから、その街から捜せばいいと思うんだ」
「分かりました」
☆
ヘカテーの動きは速かった。
次の日、早速持ち主捜しがはじまった。
神が探している人――と銘打って、街の中で大々的にガラスのハイヒールを使って探した。
ルイザン教の女信徒が次々と、急にこしらえた会場で受付を済まし、ガラスのハイヒールを試しに履いた。
しかし、一人として足にあう者はいなかった。
それを、少し離れたところで見守っている俺とヘカテー。
「見つからないね」
「申し訳ありません……」
「ううん、ヘカテーに責任はまったくないよ。ここまでやってくれたんだから」
俺は本気でそう思った。
ヘカテーに責任は一切無い。
むしろ彼女はすごくよくやってくれてる、落ち着いて考えれば大げさなくらいよくやってくれてる。
街に住む信徒、女を全員呼び出した形で持ち主を探してくれた。
ここまでやってくれたら、見つからなくても責められない。
とは言え。
「このまま見つからないのかな」
「考えられるのは、神が探している相手は信徒では無いと言うこと。それなら招集に応じず、見つからないのもうなずけます」
「そうなんだ……」
「その場合、皇帝に頼るのがよろしいかと」
「陛下に?」
「はい。皇帝は 現人(、、) としての神を溺愛しているとうかがいました。探し者の一人くらいならば……と」
「そっか」
俺は少し考えた、そしてうなずいた。
うん、そうだな。
皇帝が今まで俺にしてくれたことを考えれば、人間一人捜して、とおねだりして聞いてくれる可能性が高い。
「ありがとうヘカテー、陛下に話してみる」
☆
水間ワープで、今度は宮殿近くに飛んできた。
ヘカテーの屋敷と違って、さすがに皇帝の宮殿の中にいきなり飛ぶわけには行かない。
近くの裏路地の水溜りに一旦水間ワープで移動してから、後は自分の足で宮殿に向かった。
門番は顔見知りで、謁見したいと言ったら最小限の手続きで通してくれた。
皇帝は庭にいると聞かされた。
宮殿に入って、庭にやってきた。
庭の噴水の近くに皇帝がいた。
噴水のそばのあずまやで、紅茶を飲んで優雅な昼下がりを満喫していた。
俺は皇帝に近づき、さっと片膝をついた。
「堅苦しいのはよい。それよりどうしたマテオ」
「あのね、陛下にお願いしたい事があるんだ」
「めずらしいな、マテオが余に頼みごとなど」
皇帝は楽しげに笑った。
「いいだろう、言って見ろ」
「あのね――人を探しているんだ」
俺はガラスのハイヒールの事を話した。
昨日街中で出会って、追いかけたら見失ったが、相手が履いていたガラスのハイヒールを手に入れていること。
「そのハイヒールの持ち主を探したいんだ」
「そ、そうか」
うん?
どうしたんだ?
何故か普段と違って、若干焦っている様に見える皇帝。
「どうしたの陛下? 顔が赤いけど……お具合でも悪いの?」
「い、いやそんなことはない。ごほん」
皇帝は咳払いして、話を変えた。
焦っているのは追求されたくないからだということは分かった。
皇帝のそういう事を追求してもいいことはないから、俺は普通にスルーすることにした。
「おねがいしてもいいかな?」
「それはよいが……その『女』を探し出してどうするのだ?」
皇帝が「女」を強調したのがちょっとひっかかったが、さっきのやり取りもあって気にしないように頑張った。
「えっとね……」
俺は考えた。
さてどう説明しようかと悩んだ。
どういう説明がすんなり納得してもらえて、話がこじれないのかを考えた。
神と使徒――だと話のスケールが大きすぎて、場合にとっては皇帝と「権力者」って意味でバッティングするかもしれない。
今更かもしれないけど、だからこそ「より話が進む」のを避けたい。
俺は色々考えた。
考え込む俺を、皇帝は小首を傾げながら眺めつつ、紅茶に口をつけながら、答えるのを待ってくれた。
その間、俺は色々と考えて、「権力」とは一切関係無しの、プライベートなニュアンスにしてみた。
「運命の人、だと思うんだ」
我ながらナイスなたとえだった。
約束の地に連れて行くための、十二人の使徒。
うん、それはある種の運命だ。
そして六歳児の子供の口からでた「運命の人」は微笑ましさしかないはずだ。
その表現を思いつけた俺は、自分自身を褒めてあげたくなったが。
「ぶほぉぉぉ!!」
皇帝が、飲みかけた紅茶を盛大にふきだしてきた。
いきなりの事で避けることもできなくて、俺は紅茶を思いっきり吹きかけられた。
「ああっ! す、すまんマテオ」
「ううん、大丈夫だよ」
俺はそう言って、「水を弾いた」。
海の底でもらったオーバードライブのおかげで、マテオボディでもある程度の水の操作ができる。
髪も顔も服さえもがビジョビジョに濡れたが、それを弾き出すことで一瞬で乾かした。
「ほらね」
「おお、さすがだ……って、そうじゃなくて」
皇帝はプルプルと首を振って。
「い、今なんと言ったマテオ」
「運命の人?」
「ーーっ!」
皇帝は再び驚愕した。
俺が言った「運命の人」に思いっきり引っかかったようだ。
何故か顔を真っ赤にして、俺を見つめてくる。
そして、不思議なことに。
どこからともなく「キュン」って音が聞こえてきた。