軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

64.無自覚な告白

……つまり、このハイヒールの持ち主か。

メーティスの写本と同じって事は、このハイヒールの持ち主が四人目の使徒の可能性が非常に高いって事だ。

だったら、何が何でも探し出さなきゃだ。

俺はまわりを見回した。

「……うかつ」

完全に見失ってしまった。

元々ギリギリでの追跡だった上に、ハイヒールのオーラに目を奪われて、それで完全に見失ってしまった。

「……こうなったら」

俺は水間ワープで、ヘカテーの居場所に飛んだ。

場所ではなく、「ヘカテー」の所在地を感じ取って、彼女から一番近い「水」にワープした。

使徒となって、俺とつながりが強くなったためにできるようになった芸当だ。

だから、はじめて来た場所だ。

どうやら書斎の様な場所で、ヘカテーは何か書き物をしている。

「神? どうかなさったのですか?」

「うん、ちょっと頼みたい事があって――って、何この噴水は」

頼みごとする前に、俺はヘカテーの書斎にある、俺が水間ワープで出てきた「噴水」が気になった。

小さな盆栽くらいのサイズのオブジェで、どういう仕掛けなのか、どこにも繋がっていない小さな盆栽サイズなのに、絶えず噴水としてふきだしている。

ふきだした水が下の受け皿に流れて、そこから更に噴水として吹き上がる――エンドレスな構造だ。

「マーテオの聖水、と名付けました」

「マーテオの聖水……僕の名前にちょっと似てるね」

「はい。本当の用途はあっちこっちに配ることで、神が自由に移動できる環境を作るためです。そのため、ありがたさを出すために、こうして単独でも噴水として機能し続ける構造で作らせました」

「なるほど」

俺はマーテオの聖水とやらをじっくり観察した。

聖水と言うよりは、聖なる泉――的な名前をつけた方がそれっぽいかもしれない。

まあそんなことはどうでもいい。

今はそれを気にしてる場合じゃない。

「それよりもヘカテー、一つお願いしたいことがあるんだ」

「はい、なんなりと」

「このハイヒールの持ち主を捜し出して欲しい」

「これは……ガラスのハイヒール。サイズからして、成人した女のものですね」

「うん」

「分かりました。これは神の敵ですか? 味方ですか?」

ヘカテーはざっくりとして区分で聞いてきた。

彼女の立場からすればそれが一番重要で、それさえ分かれば後は重要じゃないってのがよく分かる質問だ。

「メーティスの写本と同じオーラを感じたんだ」

「!! つまり第四の使徒」

「そうかもしれない」

「分かりました。ルイザン教を総動員して捜させます」

「うん」

俺はヘカテーに、ハイヒールを拾った街の事を話した。

「だから、その街から捜せばいいと思うんだ」

「分かりました」

ヘカテーの動きは速かった。

次の日、早速持ち主捜しがはじまった。

神が探している人――と銘打って、街の中で大々的にガラスのハイヒールを使って探した。

ルイザン教の女信徒が次々と、急にこしらえた会場で受付を済まし、ガラスのハイヒールを試しに履いた。

しかし、一人として足にあう者はいなかった。

それを、少し離れたところで見守っている俺とヘカテー。

「見つからないね」

「申し訳ありません……」

「ううん、ヘカテーに責任はまったくないよ。ここまでやってくれたんだから」

俺は本気でそう思った。

ヘカテーに責任は一切無い。

むしろ彼女はすごくよくやってくれてる、落ち着いて考えれば大げさなくらいよくやってくれてる。

街に住む信徒、女を全員呼び出した形で持ち主を探してくれた。

ここまでやってくれたら、見つからなくても責められない。

とは言え。

「このまま見つからないのかな」

「考えられるのは、神が探している相手は信徒では無いと言うこと。それなら招集に応じず、見つからないのもうなずけます」

「そうなんだ……」

「その場合、皇帝に頼るのがよろしいかと」

「陛下に?」

「はい。皇帝は 現人(、、) としての神を溺愛しているとうかがいました。探し者の一人くらいならば……と」

「そっか」

俺は少し考えた、そしてうなずいた。

うん、そうだな。

皇帝が今まで俺にしてくれたことを考えれば、人間一人捜して、とおねだりして聞いてくれる可能性が高い。

「ありがとうヘカテー、陛下に話してみる」

水間ワープで、今度は宮殿近くに飛んできた。

ヘカテーの屋敷と違って、さすがに皇帝の宮殿の中にいきなり飛ぶわけには行かない。

近くの裏路地の水溜りに一旦水間ワープで移動してから、後は自分の足で宮殿に向かった。

門番は顔見知りで、謁見したいと言ったら最小限の手続きで通してくれた。

皇帝は庭にいると聞かされた。

宮殿に入って、庭にやってきた。

庭の噴水の近くに皇帝がいた。

噴水のそばのあずまやで、紅茶を飲んで優雅な昼下がりを満喫していた。

俺は皇帝に近づき、さっと片膝をついた。

「堅苦しいのはよい。それよりどうしたマテオ」

「あのね、陛下にお願いしたい事があるんだ」

「めずらしいな、マテオが余に頼みごとなど」

皇帝は楽しげに笑った。

「いいだろう、言って見ろ」

「あのね――人を探しているんだ」

俺はガラスのハイヒールの事を話した。

昨日街中で出会って、追いかけたら見失ったが、相手が履いていたガラスのハイヒールを手に入れていること。

「そのハイヒールの持ち主を探したいんだ」

「そ、そうか」

うん?

どうしたんだ?

何故か普段と違って、若干焦っている様に見える皇帝。

「どうしたの陛下? 顔が赤いけど……お具合でも悪いの?」

「い、いやそんなことはない。ごほん」

皇帝は咳払いして、話を変えた。

焦っているのは追求されたくないからだということは分かった。

皇帝のそういう事を追求してもいいことはないから、俺は普通にスルーすることにした。

「おねがいしてもいいかな?」

「それはよいが……その『女』を探し出してどうするのだ?」

皇帝が「女」を強調したのがちょっとひっかかったが、さっきのやり取りもあって気にしないように頑張った。

「えっとね……」

俺は考えた。

さてどう説明しようかと悩んだ。

どういう説明がすんなり納得してもらえて、話がこじれないのかを考えた。

神と使徒――だと話のスケールが大きすぎて、場合にとっては皇帝と「権力者」って意味でバッティングするかもしれない。

今更かもしれないけど、だからこそ「より話が進む」のを避けたい。

俺は色々考えた。

考え込む俺を、皇帝は小首を傾げながら眺めつつ、紅茶に口をつけながら、答えるのを待ってくれた。

その間、俺は色々と考えて、「権力」とは一切関係無しの、プライベートなニュアンスにしてみた。

「運命の人、だと思うんだ」

我ながらナイスなたとえだった。

約束の地に連れて行くための、十二人の使徒。

うん、それはある種の運命だ。

そして六歳児の子供の口からでた「運命の人」は微笑ましさしかないはずだ。

その表現を思いつけた俺は、自分自身を褒めてあげたくなったが。

「ぶほぉぉぉ!!」

皇帝が、飲みかけた紅茶を盛大にふきだしてきた。

いきなりの事で避けることもできなくて、俺は紅茶を思いっきり吹きかけられた。

「ああっ! す、すまんマテオ」

「ううん、大丈夫だよ」

俺はそう言って、「水を弾いた」。

海の底でもらったオーバードライブのおかげで、マテオボディでもある程度の水の操作ができる。

髪も顔も服さえもがビジョビジョに濡れたが、それを弾き出すことで一瞬で乾かした。

「ほらね」

「おお、さすがだ……って、そうじゃなくて」

皇帝はプルプルと首を振って。

「い、今なんと言ったマテオ」

「運命の人?」

「ーーっ!」

皇帝は再び驚愕した。

俺が言った「運命の人」に思いっきり引っかかったようだ。

何故か顔を真っ赤にして、俺を見つめてくる。

そして、不思議なことに。

どこからともなく「キュン」って音が聞こえてきた。