軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

246.エルフの嫁入り

「「ありがとう」」

最初はどっちに言われたのかと思った。

だけど二人の口がどっちも動いているのが見えて、二人とも喋っている事がわかった。

最初はどっちか――って思ってしまうくらい、ナナとカナの声が綺麗に、まるで一人分の声ように重なっていた。

普段は性格がまるで正反対の二人だったが、この時ばかりはぴったりと重なっていた。

やっぱり双子だったんだなと、俺はその事を再認識した。

「もう大丈夫だから」

「本当に?」

「うん、どんなに小さい虫でもこの水の網がちゃんと捕まえるから。蜘蛛の巣をイメージしてるから虫にはつよいと思う」

「蜘蛛の、糸?」

ナナが不思議そうに聞き返してきた。

同じように、カナも小首をちょこんと傾げて俺を見あげてくる。

「蜘蛛の巣って虫をよく捕らえるじゃない。部屋の隅っこにたまにあるの見たことない?」

「うーん」

「見たことない」

「ねっ」

ナナとカナがそういう。

一瞬だけ考えて、俺は「ああっ」とはっとした。

そういえばここ数年、俺も屋敷では蜘蛛の巣を見たことはなかった。

マテオに転生する前の人生の時は良く見ていたから知識にあったけどけど、マテオの転生して貴族の屋敷で過ごすようになってからそういえば一度も見てない。

屋敷は常にメイド達がしっかり掃除してて、蜘蛛の巣なんて一度も見たことない。

それと同じように、ウォルフ侯爵の孫娘、箱入り娘として育てられた二人が過ごす家の中でそんなものがあろうはずもない。

もしかしたら庭とかも俺が想像している寄りも遙かに手入れが行き届いているかもしれない。

そう考えると、二人があれほど虫に過剰反応するのも何となく合点がいく。

「とにかく大丈夫だから、ね」

俺は改めて、言葉に力を込めて、まっすぐ二人を見つめ返しながらそうつげた。

それがよかったのか、二人は見るからにホッとした――のもつかの間。

俺達を巨大な影が覆った。

何事か思い前方をみると、巨大で黒い何かがあった。

最初はなんなのか分からなかった。

余りにも巨大で、まるで壁のように見えて、最初はなんなのかが分からなかった。

一呼吸遅れて、それがカブトムシかもしれないとおもった。

俺達よりも遙かに大きくて、その辺の山小屋より一回り大きい位の、巨大なカブトムシっぽいもの。

フォルムこそカブトムシだが、こんなにでっかいカブトムシを俺は知らない。

見たこともなければ、知識にもない。

「あれ?」

カブトムシ(?)の体から漏れ出るものがあった。

魔力だ。

この魔力はもしかして――と、思った次の瞬間。

「「きゃあああああ!!」」

俺に数秒遅れて、ナナとカナもそれが「虫」である事にきづいた。

更に俺に強くしがみついた。

「まずい――こうなったら!」

俺はてを突き出し、水の網をとばした。

漁網のようにそれが巨大カブトムシに被さった。

これでもう捕まえた――のだが、見ているだけで怖がる二人の考えて、その水をつかって、水間ワープで巨大カブトムシを飛ばした。

一瞬にして、巨体が目の前から消え失せた。

覆っていた影がなくなって、あたりが一気に明るくなったのを感じた。

「二人とも、大丈夫だよ」

「え? あ、本当だ」

「いない……」

俺にしがみついたまままわりを見回すナナとカナ。

「倒したの?」

「でも、どこにもいない」

「虫だから、紙でくるんでぽいみたいな感じで遠くに飛ばした」

「そうなんだ」

「……」

カナははっとした顔で納得し、ナナは物静かな目で俺を見つめた。

この場所は良くない、と俺は思った。

エルフの血を引いてて、森でパワーアップする二人だが、森につきものな虫にめちゃくちゃ怯える女の子。

このまま森にいるのは良くないと思った。

俺は二人に提案する。

「今日はもうかえろっか」

「うん」

「わかった」

頷く二人を連れ、残していた分の水をつかって、水間ワープで屋敷に飛んだ。

自分達が住んでいる屋敷、いつもいる日常の空間。

そこに戻ってきた二人は目に見えてホッとした。

物理的な危害は一切うけなかったが、女の子の二人には虫の連続出現による精神ダメージの方も馬鹿にならないものだった。

「今日はお疲れ様」

「「え?」」

俺がいうと、二人はちょっと驚いた。

「もうかえるの?」

カナが聞いてきた。

「うん。今日はゆっくり休んで。また来るから」

「「……」」

ナナとカナは一度視線を交換して、どちらからともなく頷いて、そして俺に向き直って、静かにうなずいた。

「じゃあ」

俺は二人に手を振って、水間ワープを発動。

やってきたのは海底。

そこには水に押しつぶされて、ぐちゃぐちゃになった巨大カブトムシの残骸が漂っていた。

俺は巨大カブトムシの残骸から漏れ出す魔力を感じ取る。

「やっぱり……二人の魔力だ」

飛ばす前の一瞬に引っかかりを覚えたものが錯覚ではなかった。

ナナとカナ、二人の魔力が残骸のまわりに漂っていて、それが元々体内にあって、ばらばらになったから漏れ出たものなのは間違いなかった。

「どういうこと……?」

俺は改めて、巨大カブトムシの残骸と、そのまわりに漂う魔力を精査した。

「海に飛ばしたのが偶然にもよかったな」

魔力を感じながら、俺は独りごちる。

魔力が漂っているのが「海の中」ということもあって、あるいは海に混ざっているという事からか。

海神の力をもつ俺は、地上にいるときよりも漂っている物を鋭敏に感じ取れた。

今漂っている魔力は、間違いなくナナとカナ、二人の魔力だった。

「と、いうことは……」

あの時の事を思い出す。

ナナとカナはカブトムシを嫌がって、魔力で吹っ飛ばした。

しかしそれは退治したのではなく、何らかの原因でカブトムシが二人の魔力を取り込んで、あるいは融合を果たして。

普通だったカブトムシが巨大カブトムシに変貌した。

現象から考えてそうなのはほぼ間違いなかった。

……けど。

「なんでそうなったんだろ」

それがいまだに分からなかった。

すこしの間頭を悩ませたが、今の状況でいくら考えても結果が出そうにないと判断した。

そう判断した俺は、手をつきだして魔法を使う。

カブトムシの残骸と、辺り一帯を漂う魔力。

それらをまるごと「閉じ込めた」。

普通の海水――水は流れたり拡散したりするものだけど、それを止めた。

この空間の中の海水を一切よそに流れたりしないし、混ざったりしないようにした。

氷にすると固まるみたいに、氷ではないがそこだけ固めておく、みたいな感じだ。

海神の力をもってすればそれくらいは簡単で、かつ氷以上に絶対に混ざらないように出来る。

それをしっかりやってから水間ワープで屋敷に戻った。

次の日、俺は朝から書庫にこもっていた。

ルイザン教の使徒達、とくにメーティスに頼んで、魔力を取り込んだ動植物が巨大化する知識と実際の例を集めてもらった。

それと平行して、俺も自分の目と足で探そうと、書庫にこもっていろいろ探している。

情報や知識がかなりのハイペースで入ってきた。

ここしばらく頼んでいたことと違って、魔力を取り込んで巨大化すると言う話はそこそこ見られる話だ。

モンスターを対象に絞れば、使徒経由で入ってきた情報の9割を占めるものがそれなくらい、モンスターが魔力を吸収して巨大化する、というのはそこそこある事だった。

もちろん絶対数を見ればそれなりには珍しい。

が、それは「年に数回どっかでおきてる」位の珍しさで、ここしばらく頼んだ事に比べればちっとも珍しくはなかった。

それで事例がかなり集まって、「神の要望に応えられる」という事もあって、メーティスは祈りで報告してくる度にウキウキしているのが分かる。

それもあって。

途中から本当はモンスターの例はいらないって気づいたけど、そうとは言わなかった。

モンスターの事例の多くはモンスター自身が積極的に魔力を取り込んだということで、モンスターという存在を考えれば何も普通の事のように思える。

昨日みた、そして疑問に思ったのは「ただのカブトムシがそうなった」ことだから、モンスターの事例は途中からいらないと悟った。

悟ったが、メーティス達が余りにもウッキウキで報告してくるものだから、それに冷水をぶっかけることもないと、言わないでそのままにした。

朝から書庫にはいって、メーティスらの 祈り(報告) をうけつつ夕方までやったが、これといった成果はなかった。

「ま、こんなものか」

窓の向こうにみえる夕焼けをちらっと見て、俺は持っている本をパタンと閉じて、本棚に戻した。

特に情報は得られなかったが、別にきにはしなかった。

そんなもんだと思ってたし、上手いこと見つかったら儲けもの程度の感覚だった。

だから何も見つからなくても特に気にはしない。

俺は書庫をでた。

廊下にでると、一人のメイドがバタバタ走ってきて、俺の顔を見ると更に速度をあげてほとんどダッシュで向かってきた。

俺の前に立ち止まって、息を切らせてかなり慌てた様子だ。

「ご主人様!」

「どうしたの? そんなに慌てたりして」

「あの! ウォルフ侯爵のお孫さんがお見えです」

「ナナとカナが?」

「はい! その! よ……」

「よ?」

「嫁入りに、っておっしゃってます!」

「……へ?」