作品タイトル不明
242.生い立ち
「エルフの……」
「ハーフ……」
翌日、ウォルフ侯爵の屋敷の中。
相変わらずそれぞれが白と黒のドレスを纏うナナとカナに、俺は調査した結果を伝えた。
信じられないのか、それとも飲み込めないのか。
二人は見開いた目でお互いを見つめた。
やがてまた俺をむいて、カナが聞いてきた。
「エルフって、なに?」
「え? あ、そっか……」
そこからか、と思った。
ナナとカナの疑問もごもっともだった。
俺も その事(ハーフ) をしって、それをヘカテーに伝えてから、ヘカテーに教えてもらった。
信徒の祈りから組み上げた二人の人生で「エルフのハーフ」というのはわかっても、エルフとはなにか、までは知らなかった。
「えっとね、一般的には百年以上もずっと人間の前に姿を見せていない、人間にすごくよく似ている種族なんだ」
「つまり?」
「人間の基準でいえば亜人の一種かな」
その表現をするエルフは怒るとヘカテーに教わったが、そもそもその事を知らない二人はエルフの価値観を持たないはずだから、わかりやすくその表現をつかった。
「そのエルフのハーフ、ってことは、父さんと母さんどっちがなの?」
「お母さんは侯爵様の娘さんだから、お父さんがエルフってことだね」
「へえ……」
「もっと、詳しく」
なにやら納得しているカナとちがい、ナナの方はいつものように物静かな、しかしまっすぐで強い意思の瞳で俺に先を促した。
俺は説明した。
約二十年前、ウォルフ侯爵の一人娘が家出をした。
理由は割とありきたりなもので、思春期で親は何も私のことを分かってくれない――といった感じのものだった。
孫相手もそうだったが、娘のことも溺愛していた侯爵は、無理には連れ戻さずに、部下に常に一定の距離をとって見守るように命じた。
その状態で影から色々と手助けをした。
それが良くなかった。
娘を溺愛しているため送った部下は有能揃いではあったが、所詮は部下。
そして距離が離れていることもあいまって、ある日判断の迷いで娘のことを見失ってしまった。
そこから数年間、侯爵側は完全に娘の消息、その足取りをつかめないままでいた。
娘が消息をたったのは、ある男との出会いだった。
男はナナとカナの父親となる人物で、エルフだった。
二人は恋におち、人里離れた山奥で暮らした。
数年後、娘は侯爵の元に戻ってきた。
数年ぶりの再会に侯爵が喜ぶことはなかった、なぜなら娘は這々の体でたどりついたような感じで、大けがを負っていたのだ。
何故そうなのかと尋ねる侯爵にはなにもいわず、衰弱しきった体でどうにかナナとカナを出産して、その後亡くなった。
侯爵からすれば何もかも分からないことだらけだったが、ナナとカナは愛娘が産んだ、そして「遺して」いった孫であることはたしかだった。
もとより孫というものは溺愛すべき対象で、それに加えて愛娘の忘れ形見。
侯爵はナナとカナを娘以上に溺愛するようになった――、と。
それまでのことは信徒達の祈りから、数千人がそれぞれ持つ断片的な知識と記憶をつなぎ合わせて再現した事実。
それを二人に全て話した。
感情豊かなカナはその都度驚き、対照的にナナは沈黙したまま聞き入っていた。
「――と、いう訳なんだ」
「そんな事があったの?」
「お母さん、死んでた」
「侯爵様はずっと悩んでたよ、ううん、いまでも悩んでる。いつ二人に話そうか、そもそも話すべきかって」
ナナとカナの人生を調べるということは、当然それを溺愛するウォルフ侯爵のこともよく分かってしまう。
「ちょっとおじいちゃんに聞いてくる――」
カナは立ち上がって、ドアに向かって駆け出す――瞬間、ナナが腕を掴んで引き留めた。
「ナナ?」
「それ聞くと、絶対大泣きする」
「あー……そうなっちゃうね」
「そんなに大泣きするんだ」
俺は二人に聞いた。
二人の人生をしっていくと、ウォルフが感動屋で二人のことになるとめちゃくちゃ亡きに泣いて、男泣きをする――という情報は得られたが、実際どのレベルのものなのかは見ていないので判断がつきにくい。
だから聞いた。
「めっちゃくちゃ泣く、こう――目から瀧が出てるかってくらい」
「無表情の時もある」
「そうそう、無表情で瀧涙ね」
瀧涙という造語を初めて聞いたけど、なるほどそういうレベルなのかと、すごいなとおもった。
その瀧涙と言う言葉をいったカナはちょっと申し訳なさそうな顔をして。
「まあ、無表情の瀧涙の時って、大抵あたし達が悪いときなんだけどさ」
「……」
ナナも無表情ながら、わずかにカナと同じようにばつの悪そうな表情をした。
「おじいちゃんは後でいいけど、エルフ、かあ」
「何か証拠は?」
「確証はないんだけどね」
そうと前置きをして、二人に話す。
「二人って、森の中で魔法を使ったことはある?」
「ないけど、なんで?」
「エルフって、森の中にいるときはそうじゃないときに比べて強い魔法が使えるらしいんだ」