作品タイトル不明
228.夜の全て
いきなり昼から夜になったというのに、みんなはほとんど驚いてはいなかった。
「えー、なんで夜になっちゃったの?」
一番驚いて見せたのがエヴァで、そのエヴァにしたって日頃のテンションそのままだからいきなりの事態の割には普段とほとんど変わらないって感じだ。
「うん、なんでだろう。いきなり昼間から夜になるの」
「ひるがおわったらよるなのれすよ?」
それまで俺の腕の中でただゴロゴロしていたエクリプスが口を開いた。
昼が終わったら夜になる、言葉にすれば確かにその通りなんだが。
「それはそうなんだけど……」
「……?」
「12人の使徒、その半数が集まったのですから何かがおきるとはおもっていましたが、こういう『半分』ということなのでしょうか」
「おそらくは」
キョトンとしているエクリプスとは対照的に、ヘカテーとフレンが落ち着き払った様子で、互いを見ながら頷き合った。
12人の半分、一日の半分。
つまりはそういうことだ、と二人はいうのだ。
「マテオは何か変化をかんじてるの?」
一番最後にやってきた、ある意味「鍵」の役割を担ったイシュタルが俺に聞いた来た。
「うん……」
俺は頷き、この場にいる六人を見つめた。
イシュタルは「変化はあるのか?」と聞いてきた。
その変化は――あった。
俺はその変化を感じ取るため、芽生えたばかりの感覚を理解するために六人をじっとみつめた。
「ヘカテー」
「はい」
俺が真顔で名前を呼ぶと、ヘカテーも真顔で、しかも立ち上がって体ごと俺を向いた。
「三日後の夜、サイサリスという所には行かない方がいい――ううん、いっちゃだめ」
「サイサリス……確かに視察には向かいますが……」
「そこでよくない事が起きちゃう。二日後とか四日後とかなら大丈夫、三日後だけ避けて」
「……はい、神の御心のままに」
ヘカテーがしずしずと頭を下げた。
今度はエヴァの方を向いた。
「エヴァ」
「なあにパパ」
「明日オフィーリアと一緒に遊びにいくのなら早く家に帰ってくること。夜まで一緒にいたら事故にあっちゃう」
「えっと……夜がダメなの?」
「うん、明日だけだね」
「わかった、そうする」
「イシュタル」
「なに?」
「明日の晩ご飯、スープ類の中に遅効性の毒がはいってるから、毒味の人にもたべさせないようにして」
「スープ……わかった」
俺は次々と、使徒達に「見えた物」を告げていった。
一通り、エクリプス以外の五人に告げた後、一段落したとみて、最初に告げられたヘカテーが聞いてきた。
「神は何が見えておられるのでしょうか」
「うんとね……なんて言うんだろう、夜のネガティブな未来? っていうのかな」
「未来……予知、いやこれはまさしく神託!」
「うん。なんか昼間の事はみえないし、いい事も見えない。未来のことだけど、夜の良くない出来事しかみえないんだ。たぶん昼間のは――」
「やはり神! 神が我々に未来を、神託を授けてくださった!」
ヘカテーは興奮しだした。
俺の言葉を遮ってしまうほどに興奮しだした。
それに釣られてメーティスも負けず劣らずと興奮した。
「そんな大げさな」
「神直々のお告げなのです、二人にとってはそれほどの事なのです」
フレンがいうと、確かにそうかもしれない、と俺も思うようになった。
その一方で、対照的、ともいうべき神妙な表情でイシュタルが俺を見つめてきた。
「マテオ」
「どうしたのイシュタル?」
「私――皇帝を毒殺しようとした者の正体はわかる?」
「ごめんなさい。僕が見えるのは六人の『良くない出来事』だけみたい。遅効性の毒だし毒味の人がイシュタルの目の前で――だからそれ以上の事はわからないんだ」
「そうなのか……首謀者がわかればと思ったのだが……」
「別にいいじゃん、わからなくたって」
口惜しげにするイシュタルに、エヴァがお気楽な感じでたしなめた。
「いい?」
「うん、だってパパが全部わるい事を先に教えてくれたらそれでいいじゃん。それでわるい事から遠ざかることができるし、それに」
「それに?」
「そういう悪い人はこの先パパと縁がなくなっちゃうからね」
「……ほう」
「たしかに」
「海神様との縁が切れる、これ以上の不幸はないわね」
「でしょうー」
エヴァの言い分がなんだか突飛すぎてそれはどうなんだ? とおもったが、イシュタルもヘカテーもフレンもメーティスも、全員がエヴァのその考え方に共感をしめしていた。
ここでもまたエクリプスだけがマイペースにゴロゴロしていた。
「なら、それでいいか」
最初に「反撃」を持ち出したイシュタルが納得した。
俺はこの場にいる全員を見た。
相変わらず全員分の、向こうしばらくの「夜の悪い」事が見える。
本能なんだろうか、初めて見えたものなのに、それが間違いなくみんなの未来、気をつければ避けられる未来だというのが分かる。
夜の危険はすべて見えるようになった俺は、ある意味夜を支配――いや征服した。
そんな気持ちになったのだった。