作品タイトル不明
188.時空転移
「やったー!」
「これで……いけるのか?」
オノドリムとイシュタルを連れて、ゆっくりと海神ボディに向かっていく。
「……だめだね」
「ダメってなにが?」
「うん、前はなんだろ、つながってる……? って感じだったから、体に乗り移らなくてもちょっとくらいなら力を借りられたんだ」
「ふむ、その場面を何度か目撃した記憶があるな」
イシュタルは納得した様子でうなずいた。
「それが今繋がってない感じなんだ」
「やはり歴史が、過去が変わったのだな」
これまた納得するイシュタルだが。
「うん、そうだと思う。それだとちょっとこまっちゃうんだけど」
「何が困るの?」
今度はオノドリムが聞いてきた。
「あのね、海神ボディの中に入るにはレイズデッドを使わないと行けないんだ。そのレイズデッドって、僕だけの力じゃちょっと足りないんだ」
オノドリムとイシュタルが海中でも過ごせように力を一部そっちにも使ってるから、とはあえて言わなかった。
力がたりない、ってだけ伝えた。
「そっか。じゃあまたあたしの力をかすね」
「おねがいね、オノドリム」
「まっかせてー。魔法一回分の力くらいなら――えい!」
オノドリムはそういい、ビシッ! と人差し指を勢いよく立てた。
何かの決まりポーズ的な躍動感のあるポーズで、それとともに大地の力が流れ込んできた。
最近は当たり前のように そうして(、、、、) いるけど、この世には白の魔力と黒の魔力がある。
魔法を使うのには両方の魔力が必要で、それをいいバランスで混ぜて使わなきゃ行けない。
でも人間は普通の状態、自然な状態だと黒の魔力しか持っていない。
だから黒の魔力を白の魔力に変換して、それで魔法を使う。
このあたり、ちょっとだけ考えた事がある。
魔力の変換はちょっとだけ損をする。
例えるのならコップの水を別のコップに移し替えようとしたら、元のコップにはどうしてもちょっと残ってしまって、コップ全部移し替えることは不可能。
それと同じで、黒から白、あるい白から黒でも、魔力の変換には損がでる。
最近の俺だと大体9掛けくらいだ。
だから、例えば白黒で合計100の魔力が必要だったとする。
まずは50の黒の魔力を残す。
そして50の白の魔力を作るのに55位の魔力を使う。
結果、大雑把だけど105の魔力をつかって、100の魔法を使う。
もしも最初から二種類の魔力があったら105じゃなくて100で使えるのになあ……ってたまに思ったりする。
それとちょっと似てるのが、オノドリムのちから。
オノドリムの力、大地の力は白の魔力と同じものだ。
その白の力を貸してくれることで、魔力変換をしないで済むから「損」がでない。
損がでない仕組みに出来ないかなあ、と、久々にオノドリムから力をもらいつつ考えた。
オノドリムの分の力を受けて、魔力を練り上げて、魔法を使う。
「いくよ――【レイズデッド】!」
魔法の光が海神を包み込む。
同時に、俺の目の前もまばゆいほどの白い光に包まれた。
反射的に目を閉じて――次の瞬間。
懐かしい感覚がする。
目を開けると、俺はしっかり海神のボディに乗り換えられていた。
「やったねマテオ」
「うん、ありがとうオノドリム」
「それで……どうだろうか」
「うん……これならたぶん、時空転移は出来そうだ」
俺は手をかざした。
ふっ、と払うような、すくい上げるように手の平を振った。
瞬間、海底から光の粒子が漏れ出した。
雪が舞い落ちるように、それがまったく逆になったかのように。
光の粒子はゆらゆらと浮かび上がった。
「海の力、使えそうだ」
「その力が使えるのなら大丈夫だね」
「うん! じゃあ早速行こう。ここには長居したくないからね」
「ああ」
「うん!」
俺は更に手をかざして、力で三人を――マテオぼでぃも含めて包み込んだ。
守るように、今まで以上に守るようにして、三人を力で包む。
それが「万全」になったと感じてから、改めてオノドリムの方を向く。
「力を渡せばいいのかな」
「うん、いつもの逆だね」
「わかった……じゃあ」
俺は手をオノドリムにかざして、海の力を渡した。
さっきオノドリムが渡してくれたのと同じやり方して、しかしレイズデッドの数倍――いや十倍に近いほどの力を渡す。
「これで足りる?」
「やってみるね」
オノドリムは目を閉じて、ぶつぶつと何かを唱えだした。
魔力の光が溢れ、サークル状になってひろがって、オノドリム諸ども俺達三人を包み込んだ。
オノドリムはカッと目を大きく見開いた。
珍しく見る彼女の真剣な顔だ。
「行くよ!」
「うん!」
「ああ!」
俺もイシュタルも意気込んで頷く。
オノドリムが力を解放した。
次の瞬間、更に強い光と、同時に体を四肢から引き裂くような力を感じる。
引き裂かれつつ、海で渦に飲まれていくような感覚になった。
言葉がでない。
反射的にオノドリムとイシュタルの名前を叫ぼうとしたが出てこなかった。
四肢を引っ張る力が強くなる、渦にのまれる勢いも強くなる。
このままだとまず――。
瞬間、それらが綺麗さっぱりに消えてなくなった。
あまりにもすっ、と消えてしまって、普通にたっているのに足元が揺れている感じがつづいた。
そして、見えている光景もかわった。
それまでは毒々しさ全開の海の中だったのが、綺麗で澄み渡った海だった。
「あ、あなた、だれ?」
「え?」
知らない声に振り向いた。
そこに一人の、若い人魚がいた。
俺と同じくらいの大きさで、初めての相手だが。
「女王……様?」
俺の目には、人魚の女王様のように見えたのだった。