作品タイトル不明
158.夜でも育つもの
俺の皮が光を取り込むのを、オノドリムと一緒にまった。
とりあえずマリンスノーの時と似たような感じで、まずは一時間待とうと思った。
――が、その必要はなかった。
皮が光り出してわずか五分くらいで、光が急速に消えていった。
まぶしい光はそれだけで膨張しているようにみえるから、急速に消えていった光はまるでしぼんでいったかのような感じになった。
「あれ? きえちゃったけどどうしたんだろ」
「……ちょっと試してみるね」
「あ、うん」
オノドリムに一言断ってから、マリンスノーの時と同じようにテストしてみることにした。
皮にその場で足踏みする様に命令してから――。
「行くね」
「うん!」
手をあげてから、さっと下ろした。
エクリプスの力はそんな事をする必要はまったくないんだけど、一応というか、形式的にというか。
そのジェスチャーをして、エクリプスの力を止めた。
力を止めても、俺の皮は足踏みしたままだ。
「やったねマテオ!」
ジェスチャーで力を止めた事を理解したオノドリムは、目の前で足踏みを続ける皮にやや興奮した。
「うん。ありがとうオノドリム、オノドリムのおかげだ」
「えー、あたしはなにもしてないよぉー」
オノドリムはそういいながらも、デレデレでまんざらでもなさそうな顔をした。
「あとはこれがどれくらいつづくかだね」
「海の時は失敗だったんだよね」
「失敗っていうか」
あれを「失敗」というのもなんか違うな、と俺は思った。
エクリプスの力と皮人形の新たな使い方をしめしてくれたという一点だけでも決して失敗ではないと思う。
ただ、エクリプスの相手をするにはちょっと向いてなかっただけだ。
そんな事を考えながら、オノドリムに答える。
「大体だけど、マリンスノーを取り込むのに使った時間の、十分の一くらいが動ける時間かな」
「じゃ――もう越えてるね」
「そうだね」
そこはオノドリムの言うとおりだった。
マリンスノーの時は約10分の1。
それに比べて、今はもうすでに5分の10分の1を越えている。
念の為に少しまった。
だまったまま、皮が足踏みをするのをまった。
待って待って、待ち続けた。
そして――約五分がすぎた。
「完全に上回ってるね」
「うん!」
「じゃあもう少しまって、どれくらいつづくのかを見て見たいね」
「うん! みよう!」
俺とオノドリムはその場で、皮の力が切れるのを待つのだった。
☆
だった――が。
屋敷の中、自室のソファーの上。
座っている俺と、真横にいるオノドリム。
俺達はテーブルの上に置かれた皮コインを見つめていた。
「力、切れなかったね!」
「うん。びっくりしたよ。でも、本当にありがとうオノドリム。これでエクリプスに渡すことができるよ」
「えへへ、どういたしまして!」
オノドリムは嬉しそうに笑った。
あの後、皮の足踏みが止まるのを見守ったが、五分十分たっても、三十分一時間たっても、数時間がたってしまっても。
皮は止まることなく、足踏みを続けていた。
それは結局半日近くたってしまってもつづいたものだから、これ以上のテストは必要ないと、俺は改めて皮に力を取り込ませてから、オノドリムと一緒に屋敷に戻ってきたわけだ。
「後はこれを――」
「ごしゅじんさま!」
「うわっ!」
噂をすればなんとやら――と、言わんばかりのタイミングでエクリプスが現われた。
大きめのスイカくらいの体が、どこからともなく現われて、俺の胸に飛び込んできた。
ソファーに座っていたから、背もたれにちょっと押しつけられるような形でエクリプスを抱き留めた。
「たらいまれすごしゅじんさま」
「お帰りエクリプス。今日はさみしくなかった?」
「ごしゅじんさまのぶんしんといっしょらったから、さみしくなかったれす」
「そっか」
寂しくなかった、そう聞いた俺は微笑んで、エクリプスを撫でてあげた。
「そうだ、エクリプスに渡す物があったんだ」
「なにれすか?」
「これ」
そういって、オノドリムコーディングかつ大地の力を満タンに取り込んだ皮コインをエクリプスに差しだした。
「ごしゅじんさまのぶんしんなのれす?」
「そう」
「もうあるかららいじょうぶれす」
「これは新しい――いや、改良版だよ」
「かいりょうばんなのれす?」
「うん。ちょっとみてて」
俺はそういい、コインを古典的な仕草で、親指でピンと弾いた。
一度空中でグルグルしてから、急激に膨らんで人の形にもどった。
「これからはこっちをつれてって」
「ろうしてれすか?」
「こっちならつれてっても、エクリプスじゃなくて僕の命令で動くから」
「ごしゅじんさまの……」
「僕が動かしてた方がエクリプスもうれしいって思ったけど……どうかな――」
「うれしいれす!」
最後まで言うよりも早く、新しい皮の意図を正しく理解できたエクリプスは、帰ってきた時よりも更に激しい勢いで俺にじゃれついてきたのだった。
☆
翌日の昼下がり。
俺はリビングで読書しながら、エヴァとオフィーリアの相手をした。
すっかりその感じが気に入ったのか、エヴァはちびドラゴンの姿で、背中にオフィーリアを乗せて部屋の中を駆け回っている。
ブルーゴブリンとレッドドラゴンというよりは、幼い子供と犬の組み合わせみたいでみていてほっこりした。
そんな姿を眺めつつ、ここしばらく読めずにたまっていた本を読んでいた。
一冊読み終えて、さて次の本を――と思ったその瞬間。
「代わりをお持ちしました」
エクリプスとは違った感じの、まさに神出鬼没と言わんばかりの現れ方をしたノワール。
彼は新しい本を何冊かもって、俺の目の前で広げた。
「ありがとう。って……全部ぼくがつぎに読もうと思ってたものとか、読もうかってなやんでたご本だね。よくそれがわかったね」
「執事のたしなみでございます」
「執事ってすごいんだ」
「光栄でございます」
俺は読み終えた本をノワールに手渡して、いくつか候補の中から、気分で読むものを決めてそれをもらった。
エクリプスの一件が落着して、久しぶりにのんびりした昼下がり。
ーーだったのだが。
「マテオ!!」
パン! とドアを壁に叩きつける勢いで、今度はイシュタルが現われた。
「あっ、陛下」
エクリプスやノワールに比べて、同じ「いきなり現われた」ものだが、イシュタルのそれはとても人間らしくて、むしろ落ち着く感じがする現れ方だった。
が、落ち着いているのは俺だけだった。
皇帝の姿をしたイシュタルは血相を変えてズンズンと俺に近づいてきた。
「どうしたの? 陛下」
「マテオ、マテオはまた何かを 成し遂げた(、、、、、) のか?」
「え? 成し遂げた? なにもしてないよ」
俺は首をかしげた。
何かをしたのか? と聞かれれば心あたりがなくもないが、「なしとげた」と言われるほどの事はしていない。
「何かあったの?」
「何かあったの――所の騒ぎではない!」
「え?」
「各地から報告が上がってきた。作物が――植物が」
「植物が?」
どうしたんだろう? と不思議がった次の瞬間。
「夜でも育っているという報告が各地から上がってきたのだ!」
イシュタルの言葉に俺はめちゃくちゃ驚いてしまうのだった。