作品タイトル不明
157.何もないところ
「どうすればいいのかな?」
まずはオノドリムに聞いてみた。
「そうね……その、海の中のあれ、なんだっけ?」
「マリンスノー?」
「それそれ。それをちょっと見せてくれる? 大地から流れていったっていうけど、海の中にある物だしどんな感じなのか一度見て見ないとね」
「わかった――はいこれ」
俺は水間ワープを使って、マリンスノーをとってきた。
すごく大雑把にやった。
感覚としてはたぶん漁師みたいに、「この辺に魚があるだろ?」くらいの感覚で、マリンスノーがあったあたりを「水間ワープの網」的な感じで掬ってきた。
そうして、俺の手の平に何粒かのマリンスノーが濡れた状態で載っていた。
それをオノドリムに向けて差し出す。
「これだよ」
「ふーん」
俺より背の高いオノドリムはわずかに身を屈んで、手の平に乗っているマリンスノーをのぞきこんできた。
しばしの間、それをまじまじと見つめたあと。
「うん、わかった」
「これでわかったの?」
「わかるよ。……これを、効率的に集められる所がいいってことだよね」
「うん」
俺ははっきりと頷いた。
脳裏に海底でやったことを思い浮かべた。
文字通り雪のように降り注ぐそれを一粒一粒キャッチするのは、風情はあったけどどう考えても非効率だった。
それで半日かかっても一時間程度の分にしかならなかった。
だからオノドリムのいうとおり、次の課題はいかに効率的に集められるのかということだった。
「そういう所って、あるの?」
「――ブイ!」
オノドリムはにやりと口角をゆがめ、Vサインとウインクを同時にしてきた。
☆
「ここって……」
俺はまわりを見回した。
オノドリムに連れてこられたのは、街を出て馬で小一時間走った所にある――なにもない所だった。
何もない、というのは人間の感覚での「何もない」だ。
正確には、草原というのほどじゃないまばらに草が生えていて、ちょっと離れた所に林があって、反対側に人間が舗設した街道がある。
もっと分かりやすく言えば、観光するようなものが何もない野外、だった。
それを何もないと感じた俺は、真横のオノドリムの方をむいた。
「ここなの?」
「うん!」
オノドリムはニコニコ顔で、はっきりと頷いた。
「あのね、大地の力の流れってこれといっしょなんだ」
そう話しだしたオノドリムは、どこからか一枚の葉っぱを持ってきた。
その葉っぱの裏側を俺に見せるようにかざした。
「これ?」
「この筋みたいなやつ」
「葉脈ってこと?」
「人間はそう呼んでるんだ」
「川とは違うの?」
葉っぱの裏――葉脈は昔から知っているものだ。
葉っぱなんてそこら辺にある物で、それをみて川の流れと一緒だな、と転生前からおもっていた。
だから聞いてみたんだけど、オノドリムは人差し指を立ててそれを揺らした。
「ちっちっち、残念、逆だよ」
「逆?」
「うん、川だと細いのから集まって太い一本になるじゃん?」
「うん」
「こっちは地中から噴き出したものがまわりにながれてって、どんどん細くなっていく感じ。だから逆」
「そうなんだ」
俺はなるほどと頷いた。
理屈はわかった。
とはいえ、川と同じでもその逆でも、「ここが一番濃いところ」であるのは変わりないだろうなと思っている。
「ここだと効率的に取り込めるんだ」
「うん! もっと正確にいえばここ」
オノドリムはすい、と避けて、地面の一点を指した。
そこは本当になにもない、変哲のないただの地面だった。
「ここなの?」
「そう、ここ」
「ここって……オノドリムじゃないとわからなかったね」
「ふふん、でしょ!」
オノドリムはどや顔でいった。
胸をはって大いばりする姿は可愛かった。
その一方で、感謝した。
「ありがとうオノドリム、本当に」
「ふぇ?」
俺がまっすぐと見つめ、かなり本気でのお礼を言うと、それまで大いばりしていたオノドリムが虚を突かれたかのように、大いに驚いてしまう。
「オノドリムがいてくれて本当に良かった。本当にありがとう」
「ええ、そ、そうなの? それは、えへへ……」
オノドリムは照れながら、すごく嬉しそうにした。
本当にオノドリムがいて良かったと思っての感謝の言葉だったから、それで喜んでもらえるのはこっちも嬉しくなる。
「さて……じゃあやってみようかな」
「うん、やってみて!」
「ここに……立ってればいいのかな」
俺はそういい、小首を傾げた。
マリンスノーの時は手の平でキャッチしていたけど、この場所は本当に見た目になんの変哲もないからどうすればいいのか見当もつかなかった。
「それはあたしもやった事ないからわからないけど……まずはやってみよ?」
「そうだね」
そりゃそうだ、と俺はおもった。
まずはやってみよう、それでうまくいけばいいし、ダメでもオノドリムがいるんだから何かしらの変化を感じ取ってやり方の調整が出来るだろう。
俺はポケットから皮コインを取り出した。
オノドリムコーディングの皮だ。
それにエクリプスの力を通して、人型に戻して、オノドリムが指定したポイントにまずは立たせてみた。
ただ、立たせた。
その瞬間――。
「わっ! すごい」
「……すごいのはオノドリムだよ」
俺は本気でそういった。
オノドリムが指定してくれたポイントに立った皮は、マリンスノーの時とは比べものにならないほど、まばゆく光り輝きだしていた。