軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

133.脱皮

「いたっ!」

あくる日の昼下がり。

部屋の中でくつろぎながら、エヴァとリアが遊んでるのをぼんやり見守っていた。

エヴァが声を上げて、俺はなにがあったのかと改めて見つめた。

「どうした?」

「リアちゃんの爪にひっかかれちゃった」

「爪?」

俺は深く体を預けているソファーから立ち上がって、二人の方に向かっていった。

エヴァの手の甲にちょっとしたひっかき傷があって、血がうっすらとにじんでいる。

どう見ても軽傷も軽傷、取るに足らない傷であったが、一応確認してみた。

「大丈夫なの?」

「うん! 全然」

「うぅ……」

見た目通りのかすり傷で、普通になんともない、という反応をしたエヴァ。

それに対して、リアはみててかわいそうになるくらい、シュンとしていた。

「大丈夫大丈夫、このくらい――」

エヴァはそういい、体から光が溢れた。

光が収まった後、ちびドラゴンの姿になった。

「みゅー」

そこで一声鳴いてから、また体から光を放ち、少女の姿に戻った。

変身を 一往復(、、、) したあと、エヴァは笑顔で手の甲を見せてきた。

「――すぐに治るよ」

「本当だね」

「……」

リアはエヴァの手をとってまじまじと見つめた。

傷がなくなったのをみて、それでエヴァの顔と手の甲に何度も視線を行き来させたあと、ホッとしたようだ。

代わりに、俺はリアの手をとって、確認した。

「爪が伸びてるね」

「本当だ」

「切ってもらおう――エヴァはこう言うのないの?」

「うん! あたしは姿を変えたらベストな状態にもどるから」

「そうなんだ」

「爪も髪も切らなくても大丈夫だよ!」

俺は「へえ」と感心しつつ、メイドを呼んだ。

やってきたメイドにリアの爪切りを頼んだ。

メイドが一度はずして、爪切りを持ってきてリアの爪を切ろうとする。

初めてされる事にリアは一瞬ためらったけど、自分の爪を切るだけだと知ると素直になった。

爪を切って、ヤスリで整えてもらった後、リアは再びエヴァとのじゃれ合いを再会させた。

俺はそれを見守りつつ。

「便利だね……」

と、エヴァが髪も爪も、たぶんその他いろいろあるけど、そういう体のお手入れが必要ないことに、ちょっとだけ羨ましいと思った。

「まだちょっと先かな」

何となく、自然と鼻の下とあごを手でなで回した。

マテオに転生してから数年、まだまだ少年で、ヒゲは生えてきていない。

村人だったころはヒゲそりがすごく面倒臭かった気がする。

立派なヒゲを生やして一人前……というのは商売とか人と多く接する人間の話で、ただの村人にとっては肉体労働で邪魔になる場面が多いから常にさっぱりしている。

もう何年かしたらヒゲが生えてくるのかあ……と。

ちょっとだけ複雑な気分になってしまった。

しばらくして、またドラゴンナイトだかゴブリンライダーだかの感じでどこかに遊びにいってしまったエヴァとリア。

それと入れ替わるようにして、一日の「お勤め」を終えてやってきたエクリプス。

『ごしゅじんさま』

エクリプスはそういって、俺に体をスリスリとしてきた。

いつものようなスリスリ、大型犬顔負けのじゃれ合いをしてくる。

「エクリプスって」

『?』

「肌触りは岩だけど、スベスベしてるね」

『スベスベ?』

「えっと、さわり心地がいいってこと」

本当はエヴァの手の甲がひっかかれた事から、そういえばエクリプスはほとんど岩なのに、全力でじゃれつかれてるのに擦り傷の一つもできたことないなあ、とおもったのだ。

だがそれをエクリプスにいってもしょうがないし無駄に長い説明をするだけなので、適当に話を逸らすことにした。

そのため、エクリプスは迷いのないまま俺にじゃれ続けた。

「……あれ? ねえエクリプス。ちょっとだけ大きくなった?」

『なった』

じゃれついてくるエクリプスの感触でそうきいた。

エクリプスの事を考えるとこの短期間で成長することはないだろうから勘違いだとおもったが、意外にもエクリプスは即座にそれをみとめた。

俺は少しびっくりして、聞き返した。

「本当に大きくなったの?」

『きょうはいちばんおおきいひなのれす』

「え? それってどういうことなの?」

『いっかげつでおおきくなるのれす』

「えっと……?」

一ヶ月で大きくなる?

俺はますます困惑してしまった。

エクリプスは夜の太陽。

長年空で一人ぼっちだった夜の太陽。それは言い換えれば超長寿な存在だったということだ。

そんなエクリプスがいう「一ヶ月で大きくなる」というのは不思議な話で、一ヶ月程度で人間の俺が実感するほど大きくなるのは不自然なはなしだった。

それで本気で不思議がっている。

『ごしゅじんさま、みるれす』

「うん? うん、みせて?」

何を見ろというのかは分からないけど、とりあえず頷いてみることにした。

エクリプスは少し俺から離れた。

数メートル離れた先でぷるぷると震えだした。

やがて一瞬だけ「中身がしぼんだ」ようにみえたあと、体のてっぺんが割れて、中から一回り小さいが見た目はまるっきり同じのエクリプスが出てきた。

サイズで言えば半分程度で、はっきりと小さくなった。

一方、ちっちゃいエクリプスが出てきた後の「残り」は、布かなんかのような感じで地面にパサッとおちた。

『おわったれす』

「えっと……これって……」

俺は少し考えた。

自分の知識の中からぴったり合う言葉を探した。

「それって……もしかして」

『らっぴなのれす』

エクリプスは即答で、 顔(体) をかすかに上下させた。

「らっぴ……ああ、やっぱり脱皮か」

『いっかげつでおおきくなるれす。おおきくなったららっぴしてちいさくなる。またいっかげつでおおきくなるれす』

「へえ、そうだったんだ」

俺はちょっと感心した。

エクリプスにそういう特性があるなんて初めてしった。

「人間の髪とか爪とかと一緒だね」

今朝エヴァとリアの爪騒動がまだ頭の中に残っているせいか、自然とその感想が口から出た。

エクリプスのそれは大がかりだけど、髪とか爪とか、そういうのと似ていると考えたら生物はこういうのっておおいよな、とますます納得が深くなった。

「これ、どうするの?」

俺はエクリプスの脱皮した後――抜け殻を指さして聞いてみた。

『そらにかえるれす』

「空に返る?」

『そらにかえしたらながれぼしになるれす』

「土ににかえる、的な感じなのかな?」

『はいれす』

「そっか」

説明に納得していると、エクリプスの体から出た力が抜け殻にはいった。

抜け殻はまるで風船を膨らませたかのように、ちょっとふにゃ感のあるエクリプスになって、窓から飛び出して空に向かっていった。

本人の言うとおり空に還すんだろう。

「あれ? ねえエクリプス」

『はい』

「その力って……どういう力?」

目の前でみていた事もあるせいか、俺は抜け殻を動かしたそれがなんかなじみのあるような感じがして、それで聞いてみた。

『ごしゅじんさまといっしょなのれす』

「僕と?」

『はいれす。ごしゅじんさまのちからといっしょれす』

「え? あの死体を操る力?」

『はいれす』

「あー……そういうあつかいなんだ」

なんか妙に納得してしまった。

そういえばまだやったこと無かったけど、エクリプスの力の活用法を話してたときに、死体と言えば――で蝉の抜け殻を連想したことがある。

あの時の連想は間違ってなかったんだな、と、図らずもエクリプス本人から答え合わせをしてもらうような結果になった。

「……自分の、抜け殻?」

言葉に出してつぶやいた。

俺の頭の中で、自分が脱皮する姿を。

何度も何度も脱皮して、それを量産する姿を想像してしまっていた。