軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

131.理解と納得

明くる昼下がり、屋敷の庭。

エヴァとオフィーリアが「おうまさんごっこ」モードで庭を走り回ってるのを、俺は少し離れた所に設置してもらった、ガーデンチェアとテーブルのセットに腰を落ち着かせて、それを見守っていた。

楽しそうに遊ぶ二人を見守る俺を、ノワールが完璧に執事の仕事をこなし、俺に給仕していた。

その間彼は一切無駄な言葉を発しない。

表情は笑顔のまま、給仕は完璧。

言葉を発しないのは、「主人が話しかけない限りこちらからはしない」というのを守っているからのようだ。

「ノワールって、メイドさん達とちがうね」

「どういった所でしょうか?」

ノワールは特に驚いたようすもなく、慇懃な微笑みを保ったまま聞き返してきた。

「こういう時、メイドのみんなだとかわいいねとかいったり、なんか僕に世間話をもちかけてくるんだけど。ノワールはそういうのはしないねって」

「ご主人様それを必要とされていらっしゃらないようでしたので」

「じゃあ僕が世間話をしたくなったら付き合ってくれるの?」

「はい。今のように」

そう話すノワールは本当に――もうずっとそうだけど、温和で慇懃な微笑みを保ち続けている。

「ノワールって、みんなになんか色々して、それでこの屋敷の執事になったんだよね」

「はい。認識の一部を改変させて頂きました」

「あっさりこたえちゃうんだね」

俺は微苦笑した。

すっかりとなじんで、溶け込んでいる感じだけど、ノワールとの出会いはそもそも「殺し合い」から始まっている。

エクリプスの一件が片付きかけた所にいきなり襲撃されたのだ。

その時はどうにかして撃退したものの、力推しではかなわないっておもったからか、ノワールは俺以外の人間の認識をイジって屋敷に潜り込んできた。

俺以外の人間に「昔からいる執事」と思わせることで自然に居座った。

深く考えるまでもなく結構やばいことだけど、まわりはみんな「昔からいる執事」と認識しているし、その上執事としての仕事を完璧にこなしているから、追い出す口実もなくタイミングも逃して今に至る。

至る――のだが。

その事にまつわること、つまり敵対していたことの話をふっても、実にあっさりと認められるのは反応にちょっとこまってしまう。

そんな風に俺が困っていると、ノワールは更にいった。

「ご主人様に嘘はつけませんので」

「じゃあ今も僕の命を狙ってるの?」

「はい。超長期戦と考えております。ご主人様が寿命をまっとうしたあとに魂を頂戴出来ればと考えています」

「すごく気が長いね。本当にそれでいいの?」

「上質なワインを、飲み頃が来るまで栓を開けるようなことはいたしません」

ノワールはワイン――食べ物で例えた。

本当かどうかは知らないけど、ノワールは自分の趣味を料理だといった。

だからこうして話す時、ちょこちょこ食べ物で例えたりする。

今も、ワインは飲み頃になるまでは開けない――という、理屈はわかるけどなんだかなあ、という例えをしてきた。

「僕の命を狙う理由は?」

「リュクス――失礼。エクリプス由来の力を手に入れるためです」

「その力が必要?」

「はい」

「どうして?」

「……」

ノワールはまったく変わらない、慇懃で温和な微笑みのまま、しかし答えなかった。

笑ったまま答えず、かといって目をそらすこともない。

あまりにも自然かつ平然としているから。

「今の『どうして?』は聞こえてた?」

「はい」

ノワールははっきりと頷いた。

余りにも平然としているから聞こえなかったり、俺が自分は喋ったと錯覚したりとか、そういう風に思い込みそうになったけど、実際はちゃんと口に出しててノワールにもそれが聞こえている。

聞こえていながら、動揺も困惑もせずにただ返事をしなかっただけみたいだ。

「……嘘はつかないけど、答えられないことは沈黙、ってこと?」

「さすがご主人様でございます」

ノワールがそういった時の顔は、今までとちょっとちがって、心から感心して、それで称賛している――と言う顔だ。

「じゃあどんなに聞いても無駄だね」

「さすがご主人様でございます」

「え?」

同じ言葉を繰り返したノワール。

どういう事だ? と不思議がって聞き返す。

「話せないことは沈黙、それを理解できる方もすくないですが、それ以上に納得出来る方はもっと希少でございます」

「そうなの?」

「はい。私が知る限りでは」

「そうだとしても、その事でノワールに褒められるのはちょっと不思議な気分」

俺は少し考えて、ふと、気になったことを聞いてみた。

「ノワールの狙いはエクリプスの力だよね」

「その通りでございます」

「じゃあ、僕がエクリプスに頼んで、その力をノワールにも使えるように頼めば丸くかいけつしちゃうってこと?」

「理屈ではそうなります」

「理屈では?」

どういうことだ? という視線でノワールを見つめた。

「はい、理屈では。相手が悪すぎた、とても申しましょうか」

「どういうこと?」

「エクリプスの性格を鑑みた結果ですが、私の推測では間違いなくご主人様の頼みでもうけいれないでしょう」

「そうなの?」

「はい――『やだ。ごしゅじんさま、えくりぷすきらい? やだ、ごしゅじんさまいがいのひと、ちからかしたくない。やだ』――といった感じでしょうか」

ノワールはエクリプスの声色と喋り方を真似た。

それはびっくりすることに――。

「今のノワールが!? まるで本人みたいだったけど」

「恐縮です。人間を騙すには変装と同じく声色を変えるスキルも重要ですので」

「あはは……そうだよね」

俺は苦笑いした。

そりゃそうだけど――と、あけすけに言い放つノワールにちょっとだけ困った。

それは深く掘り下げない方がいいかなと思い、エクリプスの話に戻す。

改めて、ノワールがえんじて見せた、やってみせたエクリプスの言葉を脳裏に思い浮かべる。

「うん、なんかそうなりそうだね」

「ご主人様は理解と納得が出来るすごい方です。一方、エクリプスは理解はそこそこ、納得は一切できないものだと判断しました」

「……うん」

俺のはともかく、エクリプスの評価は何となく分かった。

だから、ノワールが否定するのもわかった。

「ですので、やはりご主人様に気長に仕えるしかない、と思っているしだいでございます」

「うーん、そっかー」

なるほどな、と俺はなっとくした。