軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第96話 MPK作戦

新陽の月26日、ノールズ率いる十字軍ダイダロス西部占領部隊はイルズ同様もぬけの殻となったクゥアル村を占領。

当然ながらここでもクロノが行った焦土作戦により食料を入手することが出来なかった。

クゥアルに誰もいない以上、こうなることはすでに分かりきっていたことであり、ノールズは大人しく補給が整うのを待つのみである。

恐らくこのまま最西端に位置するアルザス村までこの収穫の無い占領が連日続くことだろうとノールズは予測した。

現在偵察させている範囲において魔族の姿は発見できていないので、実際に追いつくのはアルザスを越えてダイダロス領土を抜けた先、スパーダへ至るまでのガラハド山脈の間であるとも見当がついた。

アルザス~スパーダ間は山があることに加えて距離もある、アルザスまで順調に避難できていたとしてもそこから先に進むのは、人間は勿論魔族にとっても厳しいもので、行進速度は大幅に低下する。

例え1週間前に出発したとしても騎兵のみで向かえば十分追いつくことが可能、故にノールズは焦る事無く順調に兵を進ませていた。

しかし新陽の月27日、クゥアルの次にあるヘジト村へ本隊が到着した時、ノールズは無人のはずの村を前にして何か不穏な気配、いや、もっと直感的な予感めいたものを感じ取ったのだった。

そして、それはすぐに的中することとなる。

「おお、この倉庫は無事だぞ!」

ヘジト村を探索していた十字軍兵士は、焦げ後一つない木造の倉庫を発見し喜びの声を挙げた。

「食料庫だといいんだがな」

「いいや、やっぱ宝物庫だろ」

「バカ、こんなド田舎に宝物庫なんてあるわけねーだろ」

「おら、アホなこと言ってねーで、さっさと中を調べるぞ」

「「了解」」

部隊長の指揮の下、兵士達は倉庫の扉へ手をかける。

鍵はかかっていない、扉は抵抗なくあっさりと開き、薄暗い倉庫内へ兵士達を導いた。

「ん、なんかここ臭くな――」

先行して入った兵士が、室内に漂う獣のような異臭を察知したと同時に、彼の言葉は途切れた。

「――あっ?」

彼は自分のわき腹に深く突き刺さった槍を認識した瞬間、恐怖と苦痛に絶叫する。

喚きながら仰向けに倒れこんだ彼へ、幾つもの刃が殺到し、あっという間に断末魔の悲鳴を掻き消し絶命させる。

「おいっ! 何かいるぞっ!!」

「何だっ!? 何なんだよぉ?!」

「気をつけろ、そこら中に――」

兵士を殺害した者達の姿は、暗い倉庫内で即座に確認できない。

「一旦外に出ろっ!」

見えない敵に剣を振り回しながら牽制しつつ、部隊長の命を受けて外へ逃げ出す兵士達。

「うがぁ! 痛っぇえ!」

「待ってくれ! 足が――」

足を切られたのか、倒れて動けない兵士が2人、片方は味方に担がれ救助できたが、もう一人の方は間に合わず暗い倉庫の奥へと引きずりこまれていった。

先ほどまで和やかに会話をしていた仲間の悲鳴を極力聞かないよう意識しながら、兵達は2名の犠牲者を出し、ようやく倉庫内から外へ出た。

「くそっ、なんなんだよ!」

屋外には、開け放たれた扉に向かって兵士達が弓を引いて待ち構えていた。

すでにこの倉庫での異変を察知して仲間の兵士が次々と集結しつつある。

兵士達は体勢を立て直し、倉庫に巣食う姿を見せない敵に向かってそれぞれ武器を構えた。

「出てくるぞっ!」

獣のような、猿のような、不快な奇声を上げながら、倉庫の扉から小さな影がいくつも飛び出した。

「撃てっ!!」

ソレを認識した瞬間、扉に向かって弓の一斉発射。

「ゴブリンだっ!」

扉から飛び出すと同時に、体中に矢を受けて転がる死体を目に誰かが叫ぶ。

「くそっ、魔族の待ち伏せか?」

「こんなに潜んでやがったのか」

次々に扉から、倉庫に潜んでいた襲撃者の正体である緑色のゴブリンが現れる。

穂先の欠けた槍、刀身の錆びた剣、大きな骨で出来たメイス、統一感の無い粗末な武器とボロ切れのような衣服や汚れた毛皮を纏ったゴブリン。

どう見ても村で生活するタイプの魔族では無く、山野に生息する野良ゴブリン、つまりモンスターだ。

何故こんな所に? 疑問を思う者は兵士の中で多々いるが、今はそれをゆっくり考えている暇は彼らに無い。

「ゴブリンを掃討する、俺に続けっ!」

部隊長が長槍を振り上げてゴブリンの群れへ突撃、それに部下の兵士達が雄叫びを挙げて続いた。

ヘジト村の各地でモンスターとの散発的な戦闘が発生していた。

それは指揮官であるノールズが今いる村の大通りも例外ではない。

そこかしこから聞こえるモンスターの鳴き声や兵士の怒声によって、ノールズは伝令から報告を受ける前に凡その状況を理解できた。

「魔族が待ち伏せていたか」

「野生のモンスターだけのようですよ、住民の姿はどこにもありません」

どういう理屈で野生のモンスターがわざわざ村の中にいたのかは分からない、だがノールズには今やらなければならないことは分かっている。

「各地で戦闘中の小隊にこっちから何人か送れ、それと負傷者の回収と治療を任せるぞシスター・シルビア」

「了解しました、それで貴方はなにをするのです?」

「はっはっは、決まっているだろう」

ノールズは馬から降りると、腰から下げた巨大なメイスを抜き片手で軽々と振り上げ肩に担いだ。

「目の前には神の敵がいるのだ、討ち滅ぼすのが我ら司祭の使命よっ!」

隊列を整え槍衾を形勢している歩兵の前には、理性の無いぎらついた目つきのゴブリンが群れをなして迫ってきていた。

「そうですか、ご武運をノールズ司祭長」

シルビアが後方へ引くのとは逆に、ノールズは通常より1サイズ大きいメイスを片手に立ち並ぶ歩兵の戦列を越えて前へと躍り出る。

「おお、司祭様!」

司令官自らが最前線へ出ると同時、兵達から歓声が上がる。

ノールズはキルヴァンと同じように兵の先頭に立って部隊を率いるタイプである、故に参謀役としてシスター・シルビアが副官についているのだ。

彼は明確な敵が目の前に現れたことによって、パンドラ大陸にて初めて自身の本領を発揮できるのだった。

「さぁかかって来いモンスター共、神に代わってこの俺が天罰を下してやろうっ!」

言葉の意味を理解しているかどうかは不明だが、迫り来るゴブリンは前に立つ巨漢のノールズへ向けて一斉に敵意の視線を向ける。

それぞれ錆びたり欠けたりした武器を振り上げて、ノールズの元へ猛然とゴブリン達が殺到する。

「سحق سحق الصخور صخرة كبيرة بيرس―― 岩礫崩(テラ・オーヴァブラスト) っ!!」

メイスを地面へ叩き付けると同時に、地面が土砂を噴き上げる。

それは円錐の石柱が何本も天へ向かって突き上げられたことによって、地面が隆起したように兵からは見えた。

舞い上がった土砂のカーテンが消え去ると、そこには石柱によって串刺しとなった、あるいは手足が削り取られた無惨なゴブリンの死骸がいくつも転がっている。

魔法攻撃の範囲から幸運にも外れ、生き残っているゴブリンはまだ残っているが、直前まで奇声を上げて仕掛けた突進の歩みはすでに止まってしまっている。

ノールズはここで突撃を命令すれば、残ったゴブリンもあっけなく殲滅できるだろうと考えたが、

「むっ、どうやらボスがいるようだな」

突き立つ石柱のさらに向こう、他の者よりも上質な毛皮をローブのように纏い、骨の 短杖(ワンド) を手にしたゴブリンが現れたのを見て、突撃指令を出すのは留めた。

(魔術士タイプのボスか、先に仕留めておかねば兵を無駄に損なう危険性があるな)

さらにボスは多くの配下を従えており、その半分ほどは弓を携え、すでにこちらへ向かって弦を引き絞って狙いを定めている。

「ثلاثاء نار متقدة عصا الشعلةっ!」

ゴブリンのボスがダミ声だが確かに魔術の詠唱を始め、見る見る内に手にする 短杖(ワンド) の先端に火球が形勢されてゆく。

「سبيرز بيرسっ!!」

詠唱が完了する、灼熱と爆発力を秘めた直系30センチほどの火球がゴブリンより放たれる。

ボスの攻撃魔法に合わせるように、ゴブリンアーチャーからも同時に矢が放たれた。

「منع صخرة حجر كبير جدار لحماية―― 巨石大盾(テラ・アルマシルド) っ!!」

ゴブリンの攻撃はしかし、ノールズが即座に発動した防御魔法により防がれる。

地面から突き出た硬い岩の盾が通りの端から端までほぼ全てをカバー、火球と矢の前に堂々と立ち塞がり、

ドドドドっ!!

爆発音が響き、岩の盾が大きく振動するが、罅割れ一つせずに見事攻撃を防ぎきった。

「はぁああああっ! 岩崩(テラ・ブラスト) ぉおおおおお!!」

雄叫びと共に無詠唱で放つ範囲攻撃魔法。

ノールズのメイスが岩の盾を打ち付けると、 巨石大盾(テラ・アルマシルド) はバラバラに砕け散る、いや、それは人の頭ほどの大きさもある無数の岩の塊となり、砲弾のように立ち並ぶゴブリンへと殺到した。

岩の壁で攻撃を防ぎ、その直後に岩壁を砕いて飛ばし攻撃に利用するのはノールズの得意技であった。

高速で飛来する岩の砲弾。

グシャリ、とゴブリンの小さな体が圧倒的な重量によって押しつぶされる音と断末魔の悲鳴が響く中、

「今だっ! 突撃ぃいい!!」

ノールズから突撃指令が下される。

かくしてノールズの本隊と大通りで相対したゴブリンの群れは、10分と経たずに殲滅されることとなった。

陽がくれる前にはヘジト村に巣食うモンスターは殲滅され、十字軍は晴れて村を完全に占領下においた。

ノールズは兵を引き連れてある一軒の倉庫へとやって来た。

その中に、ゴブリンなどのモンスターが村にいた‘原因’があった。

「む、これは……」

薄暗い倉庫の奥には、鋼鉄製の頑丈な檻が鎮座している。

その内には、まだ子供だと思われるゴブリンの死体が4体横たわっていた。

発見した兵があらかじめ殺しておいたのだろう、十字軍で使用される矢がその小さな体に何本も突き刺さっている。

何とも汚らわしいものを見た、と眉をしかめるノールズへ案内した兵の一人が説明の言葉を発した。

「これと同じものが村のあちこちで発見されています。

恐らく、野生のモンスターの子供や卵を巣から奪い、檻に閉じ込めたものだと思われます」

目を凝らせば、檻の太い格子にはいくつもの引っかき傷のような跡が見受けられる。

盗賊のように鍵を開錠するスキルなど持ち得ない野性のモンスターは、己の子供を救うべく力の限り檻を壊そうと試みたのだろう。

だがランク1程度のモンスターが鉄の檻を破壊するだけの攻撃力も、また別の方法でこじ開ける知恵もありはしない。

「では何か、魔族が子供を餌にモンスターを村に引き入れておき、我々に対する伏兵に利用しということか?」

「はい、偶然こうなったとは考えられないでしょう」

「モンスターといえど親子の情を利用するなど……なんとおぞましい策を弄するのだ魔族共は!」

モンスターが死ぬことに対しノールズや十字軍兵士に忌避感は無い。

しかし子供を人質とすることで全く無関係の存在を強制的に戦闘に引き入れるという発想が、十字教的な正義感の強いノールズにとっては吐き気を催すほどの邪悪な策であるとしか思えなかった。

「ただ逃げ出しただけかと思ったが、どうやらヤツらは本気で我らに抵抗するとみた」

根拠は無い、これもただ時間稼ぎのための小手先の策であると断じることもできる。

だがノールズの直感は告げている、敵は間違いなく、それこそ‘どんな手段’を使ってでも抗ってくると。

「やはり魔族という邪悪な存在は、一刻も早く殲滅せねばならんな」