軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第277話 呪物剣闘大会(カース・カーニバル)

半ば偶然ではあったが、プライベートな出会い方としては上々だった。

そんな事を、勤務中にエリナは考えていた。

今日も学生冒険者相手に愛想の良い営業用スマイルを振りまく彼女であったが、その頭の中にあるのは一人の男の事のみであった。

(クロノ君はまだ来ないのかしら)

彼の言葉を信じるならば、今日、白金の月25日に、クエストを求めてスパーダ冒険者ギルド学園地区支部へ訪れるはず。

まだ、とエリナは思うが、時刻は未だ正午にも差し掛かっていない。

まるで子供のように逸る気持ちだが、理想の容姿に理想の活躍を果たしたパーフェクトな男の存在を知った女性であれば、そうなってしまうのも致し方ないだろう。

まして、エリナはこれまでその高すぎる理想からマトモに彼氏ができたことは無い。男友達は無数にいるが。

そうして高鳴る期待を笑顔の仮面で隠しながら勤務を続けること一時間、もうそろそろ正午の鐘がスパーダの街に響き渡るだろうという時刻になった時、

(来たっ!)

大きな両開きの正面扉を潜る、黒髪に黒と紅のオッドアイを持つ長身の青年が、漆黒のコートをなびかせて現れた。

神学生をはじめ、他にもランク3相当の手練れの冒険者が多く行き交うギルド内にあって、黒コート姿の人間など目立つものではないのだが、エリナの目にはそこだけキラキラと輝いているように見えて仕方が無い。

今この瞬間にも、エリナに憧れているだろう初心な男子学生冒険者の応対をしているのだが、さりげなくクロノへ視線を送る。

エリナの座るカウンターまで距離はあるものの、クロノは確かに彼女と目をあわせ、僅かに浮かべた微笑を返してくれた。

(うわーカッコいい! 今日もカッコいいわよクロノ君!)

心中でミーハーな台詞を絶叫しながらも、現実的には「それではこのクエストを~」なんて事務的な対応をするエリナは流石エリート受付嬢であった。

もう自分の前に並んでいる冒険者の事など全く目にも頭にも入らないエリナは、ただひたすらにクロノの順番が回ってくるのを一日千秋の思いで待つ。

「こんにちは、クロノ君」

「エリナさん、今は仕事中ですよ」

苦笑を浮かべつつも、フレンドリーな自分の態度にどこか嬉しそうな様子のクロノ。

昨日、ほんの僅かな時間だけの会話であったが、それだけで二人の距離は縮まったということが、このやり取りが証明していた。

「いいんですよ、友達にはサービスしちゃいますから」

「それはどうもありがとう」

クロノは笑顔で応える。こういうノリの良さは昨日話した時点ですでに判明していた。

男女問わず広い交友関係を持つ社交的な性格のエリナは、数十分話しただけでも、何となくその人となりを推し量るスキルを持ち得ている。

精神感応(テレパシー) の類ではなく、純粋に人との関係の中で磨かれる現実の技能。

だからこそ、こうしてスパーダの女の子がなりたい職業トップ3に入る人気職であるギルドの受付嬢になれているのだが。

「ふふ、昨日言ったとおり、オススメのクエスト見繕ってあるけど?」

エリナの手には幾枚かの書類がある。

その中には、初めてクロノが 受付(ここ) へやってきた時に言っていた『サラマンダー討伐』のクエストも含まれている。

「本当に選んでくれたのか、わざわざありがとう。けど、受けるクエストはもう決めてあるんだ」

「あら、そうなの? そんなに気になるのがあったんだ?」

今は特に美味しいクエストは無かったと思い返すエリナ。

彼女はその可もなく不可もなくという中から、ギルド職員だからこそ判別できる情報を加味して、利の多そうなクエストを選別していたのだ。

もっとも、冒険者といっても報酬金額が全てではない。求めるモンスター素材などが違えば、最悪フリーでも討伐に行くのだから、一概にどれが良いクエストであるのかと断定はできない。

しかしながら、

「この『 呪物剣闘大会(カース・カーニバル) 』っていう――」

「それはダメよクロノ君っ!」

勤続二年目にして、初めて大声を張り上げた美人受付嬢に驚愕の視線が殺到する。

すわ何事かと、同僚のギルド職員も、行き交う冒険者達も、誰もがエリナのカウンターを注視していた。

自分の仕出かした事を直後に気づき、エリナは気恥ずかしげに同僚に「なんでもない」とジェスチャーを送って誤魔化す。

何か大きなトラブルが起こったわけではないらしいと判明し、少しばかりのざわめきが残るだけで、視線は再び散っていった。

「あーえっと、このクエスト、そんなにまずかった?」

エリナの絶叫に一番驚いたのは他ならぬクロノであろう。

どこか罰の悪そうな顔で問うた。

「まずいなんてものじゃないわよ。というかクロノ君、ちゃんと説明文読んだの?」

「一応、そこに大きく張り出されているやつは読んだけど」

クロノの示す先には、どこのギルドでも見られる依頼書の掲示板がある。

そこには今、他の何倍もの大きさを誇る依頼書、というより、ポスターといった方が適切な紙面が掲載されていた。

それこそが『 呪物剣闘大会(カース・カーニバル) 』の参加者募集、の依頼である。

「あの殺人犯の事もあるから、クロノ君なら呪いの武器で狂った人でも倒せるかもしれないわ。でも、勝利の報酬がその呪いの武器なのよ? 逆にとり憑かれたりしたら……」

『 呪物剣闘大会(カース・カーニバル) 』とは、その名前からも察することができるように、呪いの武器に関わる大会である。

剣闘都市などという異名を轟かせるスパーダは、古来より見世物としての『剣闘』が有名だ。

古式ゆかしい 剣闘士(グラディエイター) が一対一で行う決闘から、チームを組んでの勝ち抜き戦、あるいはパーティ戦、複数人入り乱れてのバトルロイヤル、対モンスター戦、などなど、およそ考えられる様々な様式で戦いが行われる。

そして、呪いの武器に狂った者と対戦させるというスタイルが、この『 呪物剣闘大会(カース・カーニバル) 』で行われる剣闘の内容であった。

数ある様式の中でも、最も業が深いこの剣闘大会を主催するのは、スパーダ政府ではなく、都市国家において大手の武器商人『モルドレッド武器商会』である。

その会長たる大柄なスケルトン族のヴァイン・ヴェルツ・モルドレッドは、呪いの武器コレクターであり、また、呪いの武器が使用されているのを見るのが好きという、非常に悪趣味な嗜好を持っていると有名だ。

だが、その‘悪趣味’を堂々と実行できるだけの権力と財力を誇る為に、こうして大々的に剣闘大会を開くことができるのだ。

さらに付け加えるなら、より過激な戦闘や、人が呪いに狂う様など、普通の剣闘では味わえない強烈な刺激を求める者も確実に存在しており、この大会を密かに楽しみにするスパーダ国民は意外に多かったりもする。

同時に、呪いの武器の危険だが絶大な威力に憧れて、「我こそは」と自信過剰に名乗りを上げるバカ者もまた、後を断たないのだ。

そして案の定、呪いの武器を扱えずにとり憑かれた者は、そのまま『 呪物剣闘大会(カース・カーニバル) 』の‘対戦相手’として利用されることとなる。

この愛する男が、冒険者が辿る末路のなかでも一際に悲惨なものになるかもしれないのだ、エリナが止めようとするのは当然であろう。

「いや大丈夫、俺、呪いの武器の扱いには自信あるから」

「もう、そんなこと言って、変に自信過剰なのは減点よっ!」

「減点?」

ケフン、と一つ咳払いして、クロノの疑問はスルーする。

「ともかく、呪いの武器の扱いは、腕力や魔力でどうこうなるものじゃなくて、相性なんですから、どんな手練れでもあっさりとり憑かれたりして危険なんですよ。

クロノ君が強いのは知ってますけど、呪いの武器を扱ったことがないからそうやって簡単に――」

「いや俺、呪いの武器使ってますよ?」

エリナの心優しい、大変為になる注意は、クロノのとんでもない内容の自己申告によって遮られた。

「え、嘘?」

「エリナを助けた時に使ってた剣は呪いの武器だったぞ」

全然覚えていなかった。

颯爽と助けに現れた人物がクロノだと認識した瞬間に、もう彼の凛々しい顔から目が離せなくなっていたのだ。

自分を助けるために、何度か片手に持つ大きな剣を振るっていた記憶がないこともないが、それがどんなものであったのかはまるで分からない。

「それと、あの時の殺人犯が使ってた剣も、今は俺が使ってる」

「きゃぁあーーっ!!」

瞬間、エリナは悲鳴をあげて、座っている椅子ごと後ろ向きに倒れこんだ。

あまりのリアクションに驚愕に目を見開いているのはクロノ。

そして、それと同じくらい驚いているのは、周囲にいる人々である。

今度こそエリナの異常を察知したギルド職員と冒険者達は、この麗しい看板受付嬢に狼藉を働いたと思しき男に向かって、敵意の篭った視線が向けられた。

ギルド内でのトラブルを実力で排除するための黒いスーツを着た屈強な 衛兵(ガード) が奥から出動するか、という際どいタイミングで、

「す、すみません! 何でもないです!!」

復活したエリナが慌てて頭を下げながら、必死に問題ない事をアピールする。

俄かに騒然となりかけたギルドだったが、エリナの華麗な口八丁でどうにかこうにか鎮まっていく。

そうして五分が経過する頃には、ギルドは再び平常運転へと戻った。

クロノはその一人で騒ぎを起こして、一人で騒ぎを治めるという八面六臂の大活躍を演じたエリナを、冷や汗を流しながら見ていることしか出来なかった。

「取り乱してしまって、申し訳ありませんでしたクロノ様」

「あ、いえ、こちらこそ、驚かせてしまってすみませんでした」

お互いにオフィシャルな言葉遣いで謝罪を言い合う。

果たして、呪いの武器を扱えるはずが無いと早とちりしたエリナが悪いのか、それともトラウマ確実な呪いの武器を平然と所有していることを告白するクロノが悪いのか。

あえて責任の所在を明確にしないまま、どちらも謝ることでうやむやになっていたが、この場はそれで丸く治まるのだから良かったのだろう。

「それで、その……本当に持ってるの?」

「ああ、これはちょっと縁のある武器で、どうしても俺が持っておきたかったんだ」

エリナは、それ以上は深く問いただすことは出来なかった。

伊達に友達百人を地で行くコミュニケーション能力を持っているわけではない。彼女は敏感にクロノのどこか陰のある様子を察知したのだ。

対するクロノは、そんなエリナの気遣いにきづいているのかいないのか、そのまま言葉を続けた。

「俺が黒魔法使いってことは知ってるよな? 黒色魔力は呪いの武器を制御しやすい、ちゃんと相性が良い体質だよ、俺は」

エリナを安心させるように、クロノはその冷たく鋭い容貌に微笑みを浮かべる。

(ああ、クロノ君になら、このまま殺されてもいいかもしれない)

なんて、クロノが望んだものとは確実に違う方向に感情が行くエリナだったが、それで落ち着いたのは確かであった。

「そういうワケだから、心配しなくても大丈夫だ」

「あっ、そ、そうね……そういうことなら、ごめんね、なんだか余計なお世話だったわね」

「いや、俺の身を案じてくれたんだろう、ありがたいよ」

自分の実力を見くびられることは、戦いを生業とする冒険者においては殊更に怒りをかう要因になりやすい。

それが純粋な気遣いからだったとしても、激高して殴りかかる者も少なくない。

だがクロノはちゃんとこちらの意を汲んでくれていた。

その見る人によっては恐怖を覚える容姿でありながらも、実際は紳士的な性格、そういうところが、より一層エリナにとっては魅力的に思えた。

「それじゃあ、手続きよろしく」

「はい、承ります」

クエスト・『 呪物剣闘大会(カース・カーニバル) 』

報酬・対戦相手の呪いの武器とファイトマネー(ランクに応じ百万~一千万クラン)

※試合はトーナメントではなく勝ち抜け戦ですので、試合は一度限りとなります。

期限・開催当日、白金の月26日まで。飛び入り参加も可。

依頼主・モルドレッド武器商会

依頼内容・全国百万人の呪いの武器ファンの皆様、お待たせしました! 今年も『 呪物剣闘大会(カース・カーニバル) 』開催です!!

モルドレッド武器商会では、この大会の参加者を広く募集しております。ランクなど制限は一切無し、どなたでも大歓迎! 呪いの武器を求める冒険者の方は是非、ご参加ください!!

かくして、クロノの『 呪物剣闘大会(カース・カーニバル) 』への参加は決定した。

「クロノ君、応援にいくから、頑張ってね」

並みの男ならそれだけで惚れてしまうだろう華麗なウインクを飛ばすエリナ。

「ああ、カッコいいとこ見せられるよう頑張るよ」

女性からの魅惑的なアピールにも全く動じることなく、どこまでも爽やかに返答するクロノは完璧な紳士ぶり。

少なくとも、エリナにはそう見えるのであった。