軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第126話 防壁前

有刺鉄線を纏うアルザスの防壁前では、機関銃が高らかに射撃音を響かせて押し寄せる歩兵を薙ぎ倒している。

その圧倒的で一方的な攻撃は初日の再現、と言いたいところであったが、

「あ、こりゃあかんわ、こんなんそう長くもたへんで!」

状況は少しずつ、だが確実に不利になりつつあった。

「弱音吐くなよモっさん! ああほら、そこから敵来てるって!」

機関銃の長い砲身を急ぎ旋回させ、倒れる味方の陰から飛び出してくる十字軍兵士の一団に弾丸を浴びせかける。

クロノは重騎士部隊を潰すための突撃部隊を率いているため、当然この場では十字砲火が出来ていない。

一丁の機関銃だけでは、やはり隙が発生し、今のようにかなりの至近距離まで歩兵の接近を許してしまい、ひやりとする場面がもう何度もあった。

「無理やって、今日は敵も魔術士仰山連れて来てるさかい、シールドかかった歩兵が硬い!」

闇のマズルフラッシュを噴きながら、嵐のように吐き出される黒き弾丸はしかし、魔術士部隊の支援を受けた歩兵部隊を粉砕するのには、それ相応の時間を要してしまう。

そして、その分だけ敵を防壁まで接近させてしまうのだ。

「うおっ!? 危なっ――」

モズルンに向かって飛んでくるのは、歩兵部隊の突撃を支援する魔術士部隊から発射されたであろう『 火矢(イグニス・サギタ) 』。

完全に直撃コースを辿っていた火の矢は、

「درع لمنع الرياح――『 風盾(エール・シルド) 』」

すぐ横に控える『三猟姫』の三女ハンナが瞬時に防御魔法を展開し、風の盾で迫る炎を掻き消した。

「助かったわお嬢ちゃん!」

「お嬢ちゃん言うな!」

「がっはっはっは、ワシから見れば人の女子なんてみーんなお嬢ちゃんや!」

軽口を叩きつつ、機関銃を掃射するモズルン。

未だ攻め寄せる歩兵の勢いは衰えない。

(しかし、ホンマにこのままじゃアカンで……)

ちらりと左右を窺うモズルンの目に入るのは、弓を持つ戦士クラスの面々と、支援役として配置してある魔術士の数人。

時折、巨大な丸太のような矢を射出するバリスタが敵の一団を粉砕するが、この圧倒的な兵の前では、その数も微々たるものに過ぎない。

敵を防ぐための火力が足りていないのは明らかだった。

敵の魔術士部隊のほとんどが堅い守りを誇る冒険者ギルドへ攻撃を仕掛けている為、こちらへの援護射撃が期待できない。

もっとも、そのお陰で大多数の魔術士部隊が防壁前で一斉攻撃してくるという事態も避けられてはいる。

重騎士部隊の突撃も、クロノ率いる高ランクの冒険者達による必死の応戦でどうにか押し留めている。

それでも、攻撃を仕掛ける敵の数が最も多いのはこの防壁であるという事実に変わりは無い。

最初の攻撃時と同じように、歩兵部隊が突撃を繰り返し、さらには何組もの魔術士部隊が渡河を果たしたことで、数こそ多く無いが、魔術士が 防御魔法(シールド) や 強化(ブースト) によって歩兵の突撃を支援している。

機関銃が火を噴き続けられる今であっても、敵の接近を許してしまう現状は、非常に拙いと考えるのは、きっとモズルンだけでは無いだろう。

今や防壁前にいる誰もが思っている、機関銃が攻撃不能になれば、ここは10分も耐えられず突破されると。

(旦那が重騎士部隊を排除して戻ってくれば、耐えられる可能性はある。

けど、それがアカンかった時は、退くしかないか……)

まだ交換用の銃身に余裕はある、だが、それが尽きるのはそう遠い未来の事ではない。

それでも今は、不安を押し殺してモズルンは機関銃を敵に浴びせ、死を振りまき続けた。

歩兵突撃を支援する魔術士部隊の隊長は、静かに戦況を見ていた。

「被害は多いが、もうすぐ落とせるな」

「そうですね」

彼らは黒の 館(ブラック・ボックス) と激しい撃ち合いを演じる第5魔術士部隊にやや哀れみの視線を向けながら、歩兵の後ろという安全地帯で支援行動に徹するだけの役割で済む自分達の幸運を喜ぶ。

「重騎士部隊も予想以上の苦戦を強いられているようだが――」

最初に渡河を果たした第3重騎士部隊は、すでに魔族の部隊と泥沼の大乱戦となってしまっている。

あのように双方入り乱れて立ち回られては、下手に攻撃魔法などで手を出すことは誤射の危険性もある為、突出してきた魔族の相手は完全に重騎士部隊に任せてしまっている。

「――第4重騎士部隊の渡河が始まれば、勝敗は決する」

「その前に、あの悪魔の攻撃が打ち止めになる可能性もありますよ」

「ああ、そういえば、そういう情報もあったな」

視線の先には、邪悪なスケルトンの魔術士が黒い閃光と共に歩兵を即死に至らしめる脅威の攻撃を行っている光景。

だが、前回の戦闘であの攻撃には確実にインターバルが存在することがすでに証明されている。

この圧倒的な兵力を前に、あの凄まじい連射性能を誇る黒魔法によって、どうにかこうにか突撃を押し留めている状況、それを封じられればどうなるかなど、学のない一般兵士であっても容易に想像がつくだろう。

「ふふ、この悪魔の村が落ちるのも、最早時間の問題だな」