軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14.ダミロザ尊い!(17365回目の叫び)

エルフェリア王国に帰国し、二週間後。私とロザリア様はパーティに参加していた。

招待客と談笑するロザリア様をちらりと見ながら、私はエリアール国での記憶を思い出していた。

ダミアンのもとへ一人で向かったロザリア様。

引き留めることもできず、私は屋敷で待つしかなかった。窓の外に舞う雪を眺めながら、胸の奥に小さな不安が積もっていく。

やがて、雪まみれになった二人が帰ってきた。

ダミアン様はメイドたちに指示を出し、ロザリア様はすぐに湯浴みに案内された。体が温まったあとは、いつも通り、新商品の商談を始めた。

傍目から見たら、何一つ変わった様子はなかった。

(ロザリア様は、お話しできたのかしら……)

気にはなったが、踏み込んで聞くのは何だか気が引けた。結局、二人が何を話したのかは知らないままだった。

ただ一つ、変わったことがある。

ロザリア様が以前のように、上の空になることがほとんどなくなった。新商品の流通やアイデアが固まったおかげかもしれない。毎日を精力的に過ごすその背中は、どこか迷いが晴れたようにも見えた。

「あら、素敵なブローチ!」

招待客の華やかな声に我に返った。

シャンデリアの光を受けて、ロザリア様の胸元のブローチがきらりと光る。その時、ロザリア様と私の装いの共通点に気づいた貴婦人が、楽しげに声をかけた。

「ヴェル様とお揃いなんですね」

「えぇ、そうなんです!」

私は自慢げに胸を張る。

フリルタイの結び目には、ロザリア様とお揃いのデザインで色違いのブローチが輝いていた。

「新作の男性用ブローチを宣伝するためよ」

ロザリア様は至極淡々と仰っていたが、推しと同じ物を身に纏えるなんて、これ以上の幸福がこの世にあるだろうか。否、ない。

すると新商品に興味を持った貴婦人たちが、次々と引き寄せられるように集まってきていた。

「どこの職人かしら?」

「ふふ、企業秘密です」

ロザリア様は秘密めいた笑みでさらりとかわす。その含みのある態度に、貴婦人たちはますます興味を掻き立てられた様子だった。

反応は上々だ。公で発表すれば、社交界の話題を一気にさらうことができるだろう。

ちなみにブローチはすべて、ジュールの手によるものだ。

大量生産はできないが、その分、希少性が高くなる。それを逆手にとった戦略だった。

当初は、エルフェリア王国に工房を作る案も出ていた。が、ジュールは露骨に顔を歪めて言い捨てた。

「あんなクソ兄貴とクソ父親がいる国に行くかよ馬鹿」

結局、ジュールはグリフレア国に残り、ブローチは輸入する形に落ち着いた。

あまりの物言いに、不敬罪で打ち首にされないか本気で肝を冷やしたが、ロザリア様は軽く肩をすくめただけだった。

「ああいう職人気質の人はね、機嫌を損ねると製品の質に直結するのよ。ブローチを作ってくれるなら、そのくらいの譲歩はするわ」

「でも、わざわざ輸入するのは大変じゃないですか?」

「ダミアン様がグリフレア国周辺で、資材の輸入を決めたそうなの。それに便乗して輸入してもらうから問題ないわ」

そう言って、ロザリア様はくすりと思い出し笑いをした。

「ジュールが迷惑かけてすみませんって。ダミアン様、すごく謝っていたわ」

その表情を見た瞬間、ジュールのことは話せたのかと分かり、ほっとした。

ほどなくして、貴婦人たちとの会話が一区切りつき、会場の空気が変わった。演奏が流れ、ダンスの時間が始まる。

ロザリア様は何人かの男性に声をかけられていたが、全て断っていた。今日はどうやら踊るつもりはないらしい。

すると遠くから、一人の男性が歩いてきた。

「ロザリア様」

「ダミアン様。ご機嫌よう」

ダミアンは、深い紺色のテールコートを身に着けていた。飾り気はないが、体格に合わせた完璧な仕立てが、一目で公爵家の特注品であることを物語っている。

落ち着いた空気はいつも通りだが、どこか浮き立つような雰囲気を纏っていた。穏やかな笑みも、心なしかやわらかい。

その時、ダミアンが私の方へ視線を向けた。

そして、わずかに声を落とし、静かに尋ねる。

「この方は?」

「……私のエスコート役です」

少しだけ悩んだ後、ロザリア様は答える。

するとダミアンの瞳が、鋭く光った。背筋が震える。いつもの優しい彼からは全く想像できないほど、冷たい視線だった。ひいっ!と内心悲鳴をあげる。

(そうだ、ダミアンはヴェルのことを知らなかったはず……! 名前を言わなくちゃ……! ソレイユって言っていいのかな!? でもロザリア様の許可は得てないし……!)

恐怖で混乱していると、ダミアンは不意に「ん?」と声を出した。

そして私の顔にずいっと近づき、何かを確かめるように観察した。そして、ぽつりと呟く。

「……ソレイユ?」

「……はい」

観念して答えると、ダミアンは言葉を続けた。

「……そういう趣味があったんですね」

「違います! 誤解です!!」

反射的に叫ぶ。

いつも私に対してはタメ口のダミアンが、敬語になっていた。何かものすごい誤解をしている気がする。私は慌てて言葉を重ねた。

「これには事情が……!」

「いえ、人の好みは本当に様々ですから」

「は、話を聞いてください!!」

必死に否定していると、隣から吹き出すような音が聞こえた。視線を向けると、ロザリア様がくつくつと、堪えきれないように笑っている。

見たことない表情に「か、かわいい……!」と見惚れる。そしてふと、ダミアンを見ると──彼も目を奪われていた。

(え?????????????????)

何ですか、その表情は?

そんな表情、見たことないんですが??

私がフリーズしている間に、彼はロザリア様の傍へと歩み寄った。

こほん、と咳払いを一つ。

ロザリア様は首を傾げ、彼を見上げる。だが、ダミアンは視線を泳がせ、何か言いづらそうにしている。

そして、ようやく覚悟を決めたように口を開いた。

「私と──踊っていただけませんか?」

(え!?????????????????)

まさかの言葉に仰天してしまう。

二人が??ダンスを??踊る???

なんだそれは、とても見たい。死ぬほど見たい。

内心で狂喜乱舞している私をよそに、ロザリア様はきょとんと目を瞬かせた。

予想外の申し出だったのだろう。ほんの一瞬、言葉を探すように視線を揺らし、遠慮がちに言った。

「お誘いは嬉しいのですが……」

そう前置きしたあと、少し困ったように口を開く。

「『周囲が萎縮してしまうから、公爵家同士で踊るのはやめておこう』とおっしゃったのは、ダミアン様でしたよね?」

「!」

ダミアンの目が見開く。

数秒後、がくりと肩を落とし、うなだれた。まるで撫でてもらえなかった大型犬だ。垂れ下がった耳が見える。

「……そう、でしたね、失礼しました……」

弱々しい声を残し、ダミアンはとぼとぼと歩き去って行く。

その背中を見ながら私は、呆然と立ち尽くしていた。混乱で全く処理が追いつかない。

本当にあれはダミアンなのか???ヘタレ指数がいつもの五百倍くらいあるぞ。

しょんぼりとその場を離れるダミアンが、何だか可哀想である。するとロザリア様は、後ろから追いかけ、声をかけた。

「次の曲でしたら短いですし、いかがですか?」

「! は、はい!」

(か、かわいい……!!!!!!)

まさかダミアンにこんな感想を抱くと思わなかった。

喜びで満ちあふれた彼の顔は、まるで子供のようだ。

曲が終わり、拍手とざわめきが広がる。やがて、ゆったりとしたバラードがホールに溶けていった。

ダミアンはロザリア様の手を取り、エスコートをする。

それを見た周りの貴族たちはざわめき、囁きが広がっていく。

けれど、ダミアンは一切気に留めてなかった。彼の視線は、ただひたすらにロザリア様だけを追っている。

深紅のドレスの裾が、ステップに合わせて揺れる。シャンデリアの光を反射して、真珠のブローチがきらりと瞬いた。

(尊い……! ダミロザ尊い……!!)

この世界に転生してから、何度目か分からない叫びをあげる。

ダミアンは幸せそうに微笑み、ロザリア様の歩幅に合わせ、丁寧にエスコートしている。見ているだけで、心が洗われるようだ。

私はその素晴らしい光景を、全力で目に焼き付けた。