軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29 婚約者候補 アンネガルド

「僕はお会いするのはいいのですが、お会いした後でお断りすることになった場合、アンネガルド嬢のお名前に傷がつくのではありませんか?」

「いや、この話は内々のことだから心配無用だそうだ」

「そうですか。それでしたら僕はお会いするのはかまいませんよ」

話はとんとん拍子に進んで、ホランド王国からアンネガルド嬢が公爵家を訪問した。

「ようこそ。いらっしゃいませ」

にこやかにアレクサンドルとマリアンヌが出迎え、ハロルドも笑顔で挨拶をした。

アンネガルドは上品で貴族らしい洗練された令嬢だった。優雅なカーテシーをこなし、鈴を転がすような可愛らしい声で挨拶をした。

「アンネガルド・ド・ランバルドでございます。ロマーン公爵家の皆様にお会いできて嬉しゅうございます」

「遠いところをようこそおいでくださいました」

ハロルドがきちんと挨拶をしてティールームに案内して会話もはずんでいたのだが、そのうちマリアンヌが公開庭園を造っている話になった。

「現地を見に行きますか?」

「ええ。是非お願い致します」

そして今、アンネガルドはポーッと頬を染めて立ち尽くしている。

ハロルドにでもなく、庭園にでもない。設計図を片手にツリーハウスの建設のことでトムと意見を交わしているニコラスに見とれているのだ。

「いや、梯子はそこじゃなくてこっちの木にかけて、細い通路を渡った方が楽しそうじゃない? え? 通路の強度? んー。トムの他に大人があと三人乗って大丈夫ならいいと思うよ。一度本物の通路を低い位置で試そうか」

自覚がないままキラキラしいオーラを出しつつ無表情に次々と指示を出すニコラス。

本人は知らないことだが、ホランドではアメンボの件で「天才の血を受け継いだ美少年貴族」として知られている。

そんなニコラスにアンネガルドは一目惚れしてしまったのだ。

そこに登場したのはフローラである。

「はじめまして。フローラ・ド・ロマーンです。どうぞよろしく」

可愛らしく挨拶をすると、フローラは「これで役目は果たした」と言わんばかりにニコラスに話しかける。

「ニコ兄様、私一人なら今通路を通っても大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だよ」

「やった!」

ズボン姿のフローラがスルスルと梯子を登り、仮設の華奢な通路をひょいひょいと渡って可愛らしいツリーハウスに入った。

「ニコ兄様、ここ、最高!」

「ふふ。そうだろう? そこは子供たちの最高の隠れ家になるよ」

アンネガルドはこんな活動的な貴族令嬢を初めて見た。

ツリーハウスへ渡る通路は結構な高さの場所に設けられていて、細い板が二枚だけ渡された代物だ。

アンネガルド付きのメイドは口を押さえて悲鳴を堪えているが、フローラ付きのレイアはにこにこ見ているだけだ。

やがてニコラスもツリーハウスに渡り、アンネガルドの従者は(なんとまあ活発な子供達だ)と驚いていた。

アンネガルドが公爵家の子供たちの様子に驚いてハロルドを振り返ると、「君も登ってみるかい?」と笑顔で尋ねられた。

アンネガルドは「ドレスなので結構です」と答えるのが精一杯だった。

(これは。ロマーン公爵家に嫁ぐには身体能力に優れていないと駄目ってことかしら)

小さなツリーハウスを見上げてアンネガルドは思った。

やがてニコラスとフローラが降りてきて、みんなで乗馬をしようという流れになった。乗馬はフローラの提案である。

アンネガルドは令嬢の嗜みとして乗馬も習っていたのでホッとした。これなら仲間に入れると思ったのだ。

が、しかし。着替えを済ませたものの、今、再び呆然としている。

五歳のフローラを先頭に、三人は馬場をかなりの速さで走らせるだけでなく、あちこちに設けられた障害物を次々飛び越えて楽しんでいる。

アンネガルドは 常歩(なみあし) が主で 速歩(はやあし) がどうにかと言う程度。 駈歩(かけあし) も飛び越えも未経験だ。この三人は何者なのかしらと呆れた。

躊躇してるアンネガルドにハロルドが馬を近づけて「一緒に歩こう」と言われるも、情けなくて顔が強張る。アンネガルドは自信喪失のまま夕食となった。

食事の際も、庭園のアイデアを語るニコラスはやはりきらきらしく、マリアンヌはニコラスに、大人に対するのと同じ調子で設計について話を振る。即座にニコラスが答えている。

アンネガルドは自分に話を振られないよう緊張していた。マリアンヌが何度も趣味の話などをしてアンネガルドに会話への参加を促すが、入れないでいた。

「我が家はいつもこんな感じなんだ。君はどんなことに興味があるの?」

気を遣ったハロルドが話を振ってくれたが、ここで「刺繍です」と答えるのは恥ずかしい気がした。

「特には……」

アレクサンドルも色々と話に引き込もうとするが、アンネガルドは最後まで聞き役に回っていた。

帰るまで公爵家の三人の子供たちと微妙な距離を置いたまま、アンネガルドは翌朝王都へと去っていった。

「馴染めないみたいだったね」とニコラスが言う。

「まあ、大人しそうな子だったしね」とハロルドが苦笑する。

「ずっとニコ兄様に見とれてましたね」と、フローラがクッキーを齧りながら言う。

全員が沈黙してフローラを見つめた。

「え?私何かいけないこと言った?」

フローラの言葉を聞いて、マリアンヌが慌てて確認した。

「ハロルド、そうだったの?」

「あー。たしかにそうかも」

マリアンヌに問われてハロルドが困った顔で笑いながら答えた。

「なんてことだ。ニコラスに指名が来るかもしれないぞ」

「お父様、僕は婚約する気なんてありませんから。絶対に」

不愉快そうにニコラスが答えた。

しかし話はこれで終わらなかった。