軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24 白か黒か

夕食のあと、マリアンヌ、工房長アーティボルト、その弟でマリアンヌの義兄ピーターの三人がワインを飲んでいる。

今回、マリアンヌが急にホランドに来たのは悩んでいたからだ。あれほど戦争の道具は造らないと決めていたのに、結局は勝敗を分けたのはマリアンヌの発案した物だった。

今回は人の命を奪うことなく終わったが、使い方によってはたくさんの人の命が失われたはずだ。「この先、私の作った物はどう使われるのだろう」と不安で落ち着けないでいる。

アーティボルトは同じ発明家、製作者だが、「一度他人の手に渡ったらその先は自分にはどうしようもない」と割り切っている。

マリアンヌだってそれは頭ではわかってる。

「わかっているけど、気持ちの持って行き場が見つからないの」

二人の男たちはマリアンヌの言いたいことをわかっていた。

「だって人が死ななかったから良かったって言うのは結果論だもの」

「そうだね」

「確かにね」

またそれぞれがひと口ワインを飲む。

「楽な話し方をしても?」

アーティボルトが言うとマリアンヌがどうぞ、と手のひらを見せて促す。

「俺は機械屋だから、どんな道具からでも人を殺せる物を作ることはできる。子供用のスプーンからでもな。作ろうとは思わないが、道具って言うのはそういうものだと思ってる」

ピーターがあとに続く。

「どうしても嫌なら家庭用の道具に専念する方法もあるよ。でもそれは自分の手足を縛って歩くようなものだろ?

作りたいものを自由に作っても、武器にならなさそうな物だけを作ったとしても、結局は後悔は残るだろうな」

「冷たいようだがその先はマリアンヌの覚悟の問題だな」とアーティボルト。

「でも僕はカタリナを守るためなら、どんな手段も道具も使うことをためらわないけどね」とピーター。

「ここで 惚気(のろけ) るか!」

アーティボルトが弟の背中をバンバン叩いた。そして真顔に戻り、マリアンヌに話す。

「物事はゼロか百か、白か黒か、そんな単純じゃない。ほとんどのことが灰色だ。濃い灰色か薄い灰色かの違いだ。それが現実だよ。

真面目な人間ほど白か黒かにこだわって一番大切なことを見失いがちだ。気をつけたほうがいい」

答えは一生出ない気がするが、『白か黒かにこだわっていると一番大切なことを見失う』と言うアーティボルトの言葉は胸に響いた。

物作りの三人がそんな会話をしているころ、ニコラスは王宮で大変に面倒なことになっていた。

□ □ □

エドワードはアメンボを贈られて嬉しかったが、同時にイライラしていた。

何もかもがこの年下の男の子に敵わない。こんなことは今まで一度も無かった。

第一王子として大切に育てられ、エドワード自身も優秀な子供だったから、人に遅れを取ると言う経験が無かったのだ。そんなエドワードがニコラスの頭の良さにどうしても敵わない。

エドワードのプライドが誤った方向へ走りだした。

「ニコラス様、エドワード様が今夜は是非王宮に泊まってほしいそうです」

アーティボルトが少し困った顔で通訳した。

「お断りします」

「ニコラス、そんなことを言わないで。行ってらっしゃいよ」

「嫌です」

そしたらエドワードがフッと笑って「臆病者め」と聞こえるように言った。わざわざロマーン語で。

(こいつ、これを言うためにその言葉を調べたな)

「なんて言われても僕は行かない」

そう言い切った。

□ □ □

なのになぜ僕は王宮にいるんだよ!なんでお母様は僕を送り出すんだ。まさかイヤだイヤだとひっくり返って暴れるわけにもいかなくて、僕は今、王宮だ。

ふてくされてる僕に向かってエドワードはニヤニヤして「秘密の通路」ってロマーン語で言う。

え。あるの?入っていいの?

僕もエドワードも相手の国の言葉は単語ばかりだけど、なんとかなる。言いたいことはわかる。

そしてエドワードは二人で遊ぶからと言って人払いして、今、図書室の奥の倉庫の木箱をどかして床に空いた穴の階段を降りている。

僕も階段を降りようとして、とても嫌な予感がした。なので冒険者セットから短いペンと紙切れを出してエドワードには見つからないように「秘密の通路に入ります」と急いで書いて入り口の穴の脇にそっと置いた。誰かに見つけてほしい。

予想通り中は真っ暗だ。

こいつ、ロウソクもランタンも準備してないのか。冒険者セットからロウソクと火付棒を出して火をつけた。

エドワードが驚いている。こいつ、準備も無しでよく入ったな。

やがて通路は細くなって二本に分かれる。エドワードはなんの迷いもなく右を選ぶ。どうせ適当だろうなぁ。

仕方なく僕が道順を覚えることにした。

通路は王宮の東棟の壁の中を使ってるらしくて、とても狭くて何度も曲がる。そのうち元々短いロウソクは燃え尽きて真っ暗闇になった。

「で?どうするわけ?帰る道わかるの?」

質問したけど答えない。子供か!いや、子供だったか。

僕は黙って様子を見てる。冒険者セットの中の飴はひとつ分けてあげたけど、帰る道順は教えない。好きなだけ頑張れ。僕に頼るな。

エドワードは真っ暗な中でウロウロ歩き回って完全に迷子になってる。

「エドワードさまぁ!」

中に入ってニ時間くらいは経った頃、遠くで 爺(じい) と呼ばれてる人の声がした。

「ここだ!爺、僕はここにいるぞ!」(多分)

エドワードが間違った方に行こうとするから服を引っ張って注意した。

「そっちは違う。声がトンネルの壁にぶつかってそっちみたいに聞こえるだけだ」

エドワードは言うことを聞かず、僕一人で帰るわけにもいかず、入り口に戻れるまで暗い中を散々歩いた。最悪だ!

□ □ □

翌日。

マリアンヌが眠っているニコラスの様子を見に部屋に入った。ニコラスはベッドの中で辞書を開いて調べ物をしたまま眠ったらしい。

マリアンヌが手帳を見た。そこには辞書を使って書いたと思われるホランド語の文がいくつか書いてあった。

・準備をしないで暗闇に入るのは愚かだ

・僕はロマーン国民だ。お前の家来ではない

・二度と僕にしつこくするな

「ニコラス……」

遠い目になるマリアンヌだった。