軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

終業式からの夏休み

夏を制するものは受験を制する。

なんともありきたりな言葉が右耳から入ってそのまま左耳へと抜けていく。

現在俺が考えているのは、現在の気温と、どうやって流れてくる生温かい風を冷たい風と錯覚するかという方法だけ。

普段は完全に裏方に徹している校長先生(生徒視点)が、表に出てきて生徒を殺しにかかってくる恒例の時間も間もなく終わろうとしている。

その後は生徒指導の体育教師が朝礼台に上がり、夏休みの注意事項をつらつらと語っていくことだろう。

終業式の恒例行事だ。

「明日から夏休みだな。泰良はどっか旅行に行くのか?」

前にいた青木が小声で尋ねてきた。

「旅行かぁ……予定はないな。てか、たぶん夏休みもダンジョンに行くと思う」

「牧野たちと? いいなぁ、女性ばっかりのダンジョン攻略」

「まぁ、自分で言うのもなんだがラッキーだと思ってるよ」

「くそっ、そんなこと言うなら、劇場版ド〇ゴンボールのDVD貸してやらねぇぞ!」

「え? お前、そんなのも持ってるのかっ!?」

それは是非貸してほしい。

先日、仕事の報酬として俺の銀行口座に30億円振り込まれたから、自分で買おうと思ったら買えるんだけど、それはそれ、これはこれだ。

大金が入ったからといって、人間そう簡単に変わったりはしないんだよ。

と青木の様子を見ると、鞄やズボンのポケットから何かストラップのようなものがぶら下がっている。

あれって――

「なぁ、青木。そのラバーストラップって」

「今はやりのチームメシアのアルファちゃんだ」

「へ、へぇ……」

アルファとは姫のアバターの名前だ。

生駒遊園地ダンジョンを攻略し、大阪と奈良を救った俺たちは一部からはチームメシアと呼ばれている。

そして、そのグッズが俺たちの許可を取らずに無断で販売されている。

一応、政府がいろいろと手を回して無許可販売の規制をしてくれているそうだけど、それでもかなりのグッズがいまも流通している。

「青木、そういうの買わないほうがいいぞ?」

「これ手作りだから大丈夫だ」

「手作りかよ」

だったらいいのか?

まぁ、個人で楽しむ分には別にいいか。

姫が見たらどう思うかわからないけど。

「しかし、どんな人たちなんだろうな、チームメシアって。一部公式の発表によると、十八歳ってのはマジみたいで、アバター通りカワイイらしいんだ。そんなにカワイイのならメディアに出たらいいのにな」

「いろいろと事情があるんだろ。誰もが有名人になりたいわけじゃないし」

「それもそうだな……俺も女装姿で有名になりたくはないし」

と青木が頭を搔いて言う。

こいつの女装姿は本当にカワイイからな。

終業式も終わり、教室に戻ったら担任の先生がやってきて通知表を配っていく。

俺の今回の結果は今までに比べれば上出来だった。なにしろ、前回の件で父さんと母さんにこっぴどく叱られて、期末試験で結果が出るまでダンジョンに行くのを禁止されたほどだ。俺だけでなく、アヤメまで。

まぁ、二人ともダンジョンにかまけて中間テストの点数が少し残念なことになったのも原因のひとつだろう。

いつの間にかうちの母さん、アヤメの母さんとコンタクトを取ってタッグを組んでいた。

俺ですらアヤメの母さんにはまだ会ったことがないのに。

それにはさすがの姫も逆らえず、結局四人で集まっても勉強ばっかりで、結果、期末試験はこれまでで最高の点数に。

補習もなく、無事に夏休みを迎えることができた。

青木と今度一緒にゲーセンに行く約束をして、家に帰る途中。

「壱野くん、ちょっと待って」

水野さんが声をかけてきた。

「どうしたの?」

「うん。D缶が開いたからその報告をね」

「D缶?」

「もしかして、忘れてる?」

いや、ちょっと待て。

ええと、確か頼んだな。

思い出した! ポ〇モン150匹を自力で集めたら開くD缶を水野さんに任せたんだった。

「で、中身は?」

「よくわからないの。何かの紙かな? 壱野くんに見てもらおうと思って」

紙ってことは、スキル玉とかユニーク装備じゃないのか。

いや、紙の武器が絶対にないとは限らない。

ゲームによっては本で戦う学者とかもいるからな。

鑑定してみるまでは断定できない。

「今日、俺の家に全員集まることになってるんだ。水野さんもその紙を持ってきてよ」

「うん、わかった」

クロもシロも喜ぶだろうな。

ということで、先に家に帰って、通知表を母さんに見てもらう。

母さんが大きく頷いた。

評価は上々、再度ダンジョン探索禁止令が発動することはなさそうだ。

最初にやってきたのは姫だった。

彼女は既に夏休みに入っている。大学生は高校生より夏休みが長いらしい。

「いらっしゃい。飲み物は何にする?」

「牛乳をお願いするわ」

姫はうちに来るときはいっつも牛乳だな。

最初に牛乳を飲んでから、魔法の水筒(牛乳)を売ってくれと言ってくるが、母さんのお気に入りだし、クロにとっても最高の飲み物だ(シロは普通の犬なので牛乳は飲めない)。

譲るつもりはない。

姫は仕方ないので金属製の搾乳缶に牛乳を入れてクーラーボックスに収納する。

搾乳缶って、一般家庭で使う入れ物じゃないだろ、絶対。

暫くして、水野さんもやってきた。

大きなタッパーを持参している。

こっちはカレーを持って帰るつもりらしい。

うちの魔法の水筒は今日も大好評だ。

「姫ちゃんの方が早かったんだ」

「ええ、それで真衣のD缶が開いたって?」

「うん。大変だったよ。特にス〇ライクを捕まえるのに……もうマ〇ターボールを使えたらどんなに楽か」

「よく捕まえられたね?」

「ううん、無理だったから結局、【自主規制】を【自主規制】して、【自主規制】から【自主規制】を作ってそれを本体の方に送って、無理やり150匹にしたんだ」

彼女は一体何を言っているのだろう?

意味は分からないが、水野さんがとても頑張ったことはわかる。

そして、彼女が取り出したのは筒状に丸められた一枚の紙だった。

紐で結ばれている。

「これは、また珍しいものを……泰良の幸運値もここに極まれりって感じね」

珍しい?

そんなに凄いものなのか?

鑑定してみる。

【魔道具用レシピ:使用すると魔道具を作るためのレシピが手に入る】

おぉ……お?

凄いのかどうかいまいちわからない。

「魔法の水筒は一般販売しているのは知っているわよね?」

あぁ、牛乳やカレーが出る魔法の水筒じゃなくて、普通に水が出る水筒だよな?

もちろん知っているし、助かっている。

「他にも私たちが持っている懐中時計も魔道具の一種よ。だからダンジョンの中に持ち込めるの」

そうだよな。

懐中時計は自動的に時間を調整するらしく、時間の流れが違うPDの中でも正確に時間を教えてくれる。

「あれはどうやって作ってるかわかる?」

「あぁ、めっちゃ高いアレな……ん? どうやって作ってるんだ?」

「鍛冶師が作ってるの。魔道具製造スキルを持っている鍛冶師がね。でも、魔道具を作るには、そのスキルだけでは不十分なの。さらに追加で、素材とレシピが必要。そのレシピがこれってわけ。魔道具製造スキルを持ってる鍛冶師は百人に一人程度だからね。妃の知っている鍛冶師は覚えてるかしら? 今度聞いてみるわ――」

「あの――」

水野さんがゆっくりと手を上げる。

「私持ってるよ? その魔道具製造スキル」

「え?」

「壱野君から貰った経験値薬を毎日飲んでやっとレベル25になったとき生えたの」

へぇ、レベル25に上がったんだ。

レベル20まではかなり順調にレベルが上がるかもしれないけれど、そこからは難しいって思っていた。

俺たちも暇があればPDの中で飲んでいたが、経験値薬って、普通の水よりお腹に溜まるから一日飲めても十本程度だ。

もしかしたら、水野さんはかなり無理したんじゃないだろうか?

「無理してない?」

「うん、大丈夫。飲んだ分はきっちり運動して消化したから! それで、その魔道具作り、私に任せてもらってもいいかな? さすがに仕事がポ〇モンだけなのはちょっと――」

俺は姫を一瞥し、水野さんに提案した。

「契約を交わしてもらいたい。水野さんは信用しているけれど、お互いのためにもなし崩し的に事を進めるのは良くないと思う」

水野さんはそれを受け入れた。

水野さんの鍛冶師としての給料は基本給プラス歩合給だったからな。

今回もそれを採用させてもらう。

魔道具製造スキルによって作られたものは天下無双が販売権を持つ。

値段を決めるのも、流通も全て天下無双が権利を持つ。

水野さんの取り分は売上げの20パーセント。

儲けにならないと判断したらこちらから製造中止を求めることができ、その場合は魔道具の独占権を放棄するものとする。

俺たちが使用する分についての支払額は双方の合意により決定する。

って感じだ。

我が家のパソコンを使って、速攻で姫が契約書を用意してくれた。

水野さんがサインをし、拇印を押す。

そして――

「じゃあ、開けるね」

水野さんが紐を鋏で切った。

それを広げた瞬間、紙はまるで幽霊が成仏するかのように消えていった。

「わかった……材料。それと作れるアイテムが。材料は魔物の卵の殻。種類によって作れる物が変わるみたい」

「卵の殻……それで、一体何を作れるの?」

「捕獲玉って言って、魔物を捕まえて使役するための玉みたい」

捕獲玉?

おいおい、それってモンス――――