軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

階層を跨ぐ黒鬼

万博公園ダンジョン三階層。

出てきたのは角ウサギか。

その名の通り頭にサイのような角が生えたウサギだ。

角の威力はまな板をも貫通する。

それだけ聞くと危険極まりない相手のように聞こえるがレベル10になっている人ならその身体はまな板より硬く命の危険はない。ただし、命の危険はないってだけで普通に痛いし、服に穴があくので注意って書いてあった。

特にのんびり歩いていると気付けば背中から突撃される。

俺には気配探知があるからそんなヘマはしない。

そして、角ウサギも殴るところさえ間違えなければ一撃で倒せる。

落としたのはウサギの角。

螺旋形の角はユニコーンのそれを彷彿とさせる。

兎角亀毛(とかくきもう) という言葉があるのに、このウサギの角って存在していいのか?

そういえば、自転車で二十分くらいの参道に、世界で二番目に大きいイッカクの牙が売っていたが、この形に似ているんだよな。

もしかしたら、この角も実はウサギの角じゃないだろうか?

そう思いながら拾う。

ウサギの角は比較的出やすいドロップアイテムだけれど、解毒剤の素材として使われるらしい。またこれを杖にすれば回復魔法を高める効果のあるものになるとか。

買い取り価格は500円にはなる。

拾っておこう。

簡易調合を使えば俺も作れる。

ダンジョンの中には毒を持っている魔物が出るから必要だな。

スキルを使おうかと思ったが、角ウサギの相手にこのスキルは役不足もいいところだ。

なにしろ二時間に一回しか使えない大技だ。

もっと強い相手にこそふさわしい。

確か五階層にはリザードマンが出るという。

トカゲに似た剣士で、レベル20以上にとっては最初の強敵だと聞いた。

そこに行ってみようか。

俺は徐に歩き出す。

五時間全部使うつもりはない。

どうせPDで同じ魔物と戦えるんだ。

五階層でリザードマンを倒せばもうダンジョンから出よう。

五階層といっても、特に変わったりはしない。

普通に石造りのやや薄暗い通路と部屋があるだけだ。

だが、一つ妙なことがある。

「魔物がいない?」

三階層や四階層では入ってすぐに魔物を見つけてたんだけど、少し歩いても魔物の気配を感じない。

どういうことだ?

他の探索者が根こそぎ倒したあとだろうか?

と思ったとき、気配を感じた。

二つ。

一つは魔物、一つは人間。

人間が魔物を追っているんじゃない。

逆だ。

魔物から逃げている?

おかしい。

レベル20の人間が五階層の魔物から逃げるだろうか?

仲間のいる場所に誘導している可能性、罠を仕掛けている可能性などを考えたが、どうも違う気がする。

俺は急ぎ、気配のする方に走った。

そして驚いた。

俺と同じ位の年齢の少女が巨大な鬼のような魔物から逃げて袋小路に追い詰められていた。

あんな魔物、五階層にいるなんて聞いていない。

少女は恐怖からか涙を浮かべ絶望に表情を歪ませている。

「こっちだ、鬼野郎!」

俺は咄嗟に叫んだ。

が、鬼はこちらを向かない。

だったら――

俺は走りながら、鞄の中のウサギの角を投げる。

頑丈な皮膚に阻まれ、その角は刺さることなく地面に落ちた。

だが、鬼は落ちたウサギの角を拾うと、振り向いた。

その顔は怒りに満ちている。

敵を追い詰めたと思ったら邪魔が入ったのだ。そりゃ怒るよ。

鬼は俺のことを敵とみなしたようだ。

正直恐ろしい。

これが本当の魔物ってやつだろう。

さて、覚悟しろ!

俺はスキルを発動させようとして――

「いっだぁぁぁぁぁっ!」

ウサギの角が俺の足に刺さった。

鬼が指で弾いたのだ。

たった指で弾いただけでこの威力。

だが、上等だ。

「逃げてください!」

女の子が叫ぶが、俺はこの時を待っていたんだ。

俺は痛みに耐えながら、その名を言う。

スキル玉を舐めて覚えたその魔法の名を。

「解放、 地獄の業火(ヘルファイア) 」

途端、鬼を中心に火柱が上がった。

俺が覚えたスキル――炎の魔法だ。

地獄の業火(ヘルファイア) ――魔力の全てを炎の力に変える極大魔法だ。

この魔法を覚えたとき、俺の魔力が一気に0から120まで上昇した。

使いどころは悩むが、威力は申し分ない。

ゴブリンを一瞬で消し炭に変える威力だった。

俺にとっての切り札である。

当然、鬼も消し炭になっていると思ったが、炎が消えたとき鬼はまだ二本の足で立っていた。

立ったまま死んでいた。

その姿は他の魔物と同じように消えていき、Dコインと大きな青い魔石と角、そして金棒が残った。鬼に金棒か。

金棒、重っ!?

リュックに入れたらリュックに穴が開く重さだ。

そもそもリュックに入らん。

って、それより足が痛いっ!

俺は急いで鞄からキノコから作った回復薬を出して飲む。

ズボンに穴が開いてる。

ウサギ相手に油断しないって言っておいてこの結果だ。

「す、すごい」

少女が少し呆けた感じで言う。

「大丈夫だった?」

「あ! ありがとうございます。おかげで助かりました。なんてお礼を言ったらいいのか。お金はあんまりないんですけど私にできることならなんでもします」

「落ち着いて落ち着いて。えっと、これって五階層にいる魔物?」

「違います。これ、イビルオーガですよ。本当ならこのダンジョンの十三階層にいる魔物です」

オーガ?

食人鬼ってやつか。

十三階層!?

うわぁ、そんな強い魔物なのか。

地獄の業火がなかったらヤバかったな。

一発だけの魔法なので、複数出て来られたらアウトだし。

強くなったと思っていたが、まだまだだな。

でも、十三階層の魔物が出るのは異常だ。

「これ、使いなよ。回復薬」

「え? でもそんな高い物――」

「自作だし原料も自分で調達してて金はかかってないから、技術料だけのポッキリ価格、100円でいいよ。消費税込みだから百円ショップより安いし」

「ふふっ、ありがとうございます」

彼女は俺の冗談に笑って、薬を受け取った。

笑うとカワイイんだよな。

緑色のショートヘアってことは、覚醒者だろうか?

同じ位の年齢に見えるんだけど。

「俺、壱野泰良っていうんだ。高校三年」

「え!? 壱野さんも十八歳だったんですか?」

「ってことは君も?」

「はい。同い年です。 東(あずま) アヤメです」

「東さんって、十八歳なのにもうレベル20なの? 凄いね」

「私、最初からレベルが15だったんですよ。覚醒者にはたまにあることみたいです。壱野さんも覚醒者ですよね?」

「え? あぁ、そうそう。そんな感じ」

知らなかった。

最初からレベル15ってもうチートじゃん。

俺が言うなって話だけど。

「ところで、イビルオーガ? 十三階層の魔物が五階層に来るなんてある話なの?」

覚醒者が高レベルスタートする可能性を知らなかった俺だ。

もしかしたら俺が知らないだけで、そのような異常事態が過去にあったかもしれないと尋ねてみたが、東さんも知らないみたい。

まさか、俺が強い魔物相手に 地獄の業火(ヘルファイア) を使いたいと願ったばかりに幸運値が作動して地下から化け物を呼び寄せた――なんてことはないよな。

「とりあえず、一度帰って管理人に報告しようか。さすがに危ないし」

「そうですね」

ということで、俺は金棒を引きずり出口に向かった。

一階層にいたブルーシートスライム待機組たちは、金棒を引きずる俺をみて目ん玉ひん剥いていた。

そして、管理人のお兄さんに説明をする。

「五階層にイビルオーガっ!? それは本当ですかっ!?」

「はい。これ、イビルオーガのドロップ品です」

俺は金棒とイビルオーガの角、魔石を置いた。

俺も東さんもまだレベル20台。

当然、イビルオーガのいる階層まで降りられないことはわかるはずだ。

詳しく話を聞くということで、俺たちは管理人室に通された。

まずは、東さんがイビルオーガと遭遇し、逃げ出した時の話をする。

そして、俺が駆け付けて倒したと言った。

倒した方法については魔法で倒したとだけ伝える。

話を聞いていた管理人の表情が暗い。

何故だろうかと思ったら、このダンジョンの常連の探索者がまだ帰ってきていないのだという。

その探索者の詳細は教えてもらえなかったが、俺たちよりもレベルが高く、深い階層に潜っている探索者だが、十二時間以上連続でダンジョンに潜ったことのない探索者だという。その人が二十時間経過してもまだ戻ってきていない。

二十四時間経過したら捜索隊を出す必要があると考えていたときのこの事件だ。

もしかしたらイビルオーガに既に――と最悪の予想が脳裏をよぎる。

その後、ダンジョン管理局の大阪支部を名乗る人がやってきて、先ほどと同じ説明をさせられた後、俺たちは解放された。

俺は入って直ぐの脱出となったので、入場料は全額返金。東さんも四時間潜っていたけれど同じく返金してもらった。

オーガが落としたドロップアイテムの金棒、イビルオーガの角、魔石は証拠物件として差し押さえられたが、しっかり代金は貰った。

515万7000円。うち500万円は魔石の代金だ。

青い魔石が一番高かった。

そこから源泉徴収として100万近く引かれ、残りが俺に振り込まれることとなった。

これ一個で、町一個分の一ヶ月の電力を賄えるのだというからそのくらいの額になるだろう。

とてつもない額だ。

その額に驚いていると、管理人さんから親に相談したほうがいいと言われた。

確かに、これはもう黙っていられる額じゃないよな。

これで解散となったのだが、東さんが少し落ち込んでいる。

今回、イビルオーガから逃げているときに無理して魔法を使ったせいで、杖が壊れてしまったらしい。魔法用の杖は結構高額だったそうで、ダンジョンの入場料が戻ってきてもその分赤字になってしまったという。

イビルオーガの取り分半分東さんに分配するように言ってこようか? と尋ねたけれど、これ以上迷惑を掛けられないと言われた。

杖がなくても魔法は使えるし、コツコツとダンジョンで稼いでいくそうだ。

「だったら、せめて服くらい買わせてよ。その服のまま帰ると親が心配するよ」

彼女の服の袖は破れ、血で汚れている。

一応タオルで隠しているけれど、その姿のまま帰すのは申し訳ない。

ちょうど近くにショッピングモールがあるので、俺はそう提案した。

東さんは少し悩んだ様子だったが、

「どうせ俺も破れてるからズボンを買わないといけないし、女の子の意見聞きたいんだよね」

と言ったら折れてくれた。

ただ、「壱野さんって女の子の扱いに慣れてますね」とナンパ男みたいに思われていたらどうしよう?

帰り道にこっそりPDを回収し、隣の商業施設へ。

二人で服を買ってそのまま試着室で着替える。

高級な店でもいいと思ったのだが、東さんが行ったのは俺も何度も利用しているウニクロだった。そこで彼女はパパっと自分の服を決めて購入し、俺の服も一緒に選んでくれた。

そして、二人でフードコートで遅めの昼食をする。

二人で南極星という店のオムライスを食べることにした。

お昼は自分で出すって言ってくれたんだけど、強引に奢らせてもらった。

「へぇ、東さんって 桐陽(とうよう) 高校なんだ。俺の家から自転車で20分くらいだよ」

「本当ですか!? 私もそのくらいです。私の家は――」

聞いてみたら、俺の家と彼女の家と彼女の高校で正三角形ができるくらいの位置関係だった。

その流れで、今度一緒にダンジョンに行こうと約束し、連絡先を交換。

本当にナンパ師みたいだな。

桐陽高校は私立の名門校でミルクが通っている高校だった。

もしかしてクラスメートだったりして?

「壱野さんはこの後どこに行かれるのですか?」

「鑑定してほしい物があるから、ここのダンジョンショップに行って、家族にお土産買って帰るかな?」

「鑑定って、何か珍しいものが見つかったのですか?」

「うん、D缶の中に入ってた指輪をね」

「D缶が開いたんですか? え? どうやって?」

「砂糖をまぶしたら開いた」

「ぷっ、冗談ですよね」

「いや、マジマジ」

本当は砂糖をまぶして空いたのはダンジョンドロップの方で、こっちの指輪はヘンテコな呪文を唱えただけなんだけど、それは詳細鑑定が無かったら開けられないから説明できないんだよね。

「私も一緒に行っていいですか? ダンジョンショップ見てみたいです」

「もちろん」

二人で食器を片付け、ダンジョンショップに行く。

鑑定料5千円はボッタクリだと思うけれど、相場通りなので、依頼に出す。

鑑定は別室で、目の前で行われた。

なんでも、七年程前に鑑定した魔道具を裏で偽物とすり替える事件があったらしく、いまでは対面での鑑定が主流のようだ。

「これは――非常に珍しい。凄いですよ、お客さん」

「そうなんですか?」

「ええ。鑑定結果は成長の指輪といいまして。なんとこの指輪をしていると経験値が二割増しで入ってくるんです」

「わーすごーい」

棒読みでごめんなさい。

最初見たときは驚きましたよ。

「凄い! そんな指輪初めて聞きました!」

うん、リアクションは東さんにお任せしよう。

ということで、鑑定書を書いてもらう。

これでミルクへの誕生日プレゼントはOKだな。

鑑定が終わり、ついでにダンジョン内で使えそうなものを探していると、東さんのスマホに電話がかかってきた。

「はい。なに? お母さん。え? うん。もう外だよ………………え? 嘘……本当に? うん、わかった。直ぐに帰る」

「どうしたの?」

「さっき私たちがいたダンジョンで死体が見つかったそうなんです。それがもうSNSで拡散されていてニュースになってて。それだけじゃなくて、日本中のいろんなダンジョンで、魔物が階層を跨いで現れるようになったみたいで。お母さんが心配だから直ぐに帰ってきなさいって」

あの帰還の遅い探索者――亡くなってたのか。

「そういうわけで、私、急いで帰ります。買い物、最後までお付き合いできずにすみません」

「いいよいいよ。お母さんを安心させてあげて」

と言って俺は彼女に帰るように促す。

さて、俺はダンジョンで使えそうなものはないかと思って――気付いた。

俺の視界から消えたところで、彼女の気配が動かない。

どうしたのだろうと思ったら、彼女は震えていた。

馬鹿か俺。

さっきイビルオーガに殺されそうになった直後、実際に探索者が殺されたってニュースを聞いて怖くないわけがないじゃないか。

震える女の子を一人で帰らせられるわけないだろ。

「東さん、一緒に帰ろう」

「え? でも――」

「タクシー乗り場、この先だから。どうせ帰り道だし」

俺は強引に彼女の手を取り、タクシー乗り場へと向かった。

GWで少し混んでいたが、少し待って乗車できた。

「壱野さん……私……」

「ごめん。ちょっと強引だった」

「いえ、嬉しかったです。本当は一人になるのが怖かったので。でも、壱野さんが手を握ってくれたら怖いのもどっか行っちゃいました」

「俺なんかでよかったらいつでも手を貸すよ」

そして、俺は彼女を家まで送り届け、そしてそのまま家に帰った。

駅に自転車を置きっぱなしにしていることを思い出し、歩いて駅に向かうことになったのはそれから五分後のことである。

『ミルクちゃん、今時間ある?』

『どうしたの? アヤメ』

『私、好きな人ができたの』

『本当に!? おめでとう。どんな人?』

『ダンジョンで会ったんだけどね。優しくて強くてかっこよくて命の恩人の同い年の男の人。家も近くて。今度、二人でもう一回ダンジョンに行く約束もできた』

『完璧な男の人だね。あいつにも見倣って…………え? 命の恩人て言った? 何があったの?』

『えっと、話せば長くなるけど万博公園のダンジョンでイビルオーガに襲われて――』

『大事件じゃん! さっきニュースでやってたやつだよ!』