軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

養蚕守護

ミルクが早々に銃を鞄にしまう。

いくら所有許可手続きを済ませているとはいえ、他の人に見られたら大変だからな。

「ミルク、魔法を連続で使っていたけれど魔力の消費はどうなの?」

「どっちも初期の魔法だから魔力の消費はあんまりないかな? 魔法は連続で使えないから、一発撃ったら30秒くらい休まないといけないけど、威力は二倍以上になってるはずだよ」

姫の問いにミルクが答える。

「しかし、よくこんなすごいの簡単にできたな」

俺は感心して言った。

「簡単じゃないよ。てんしばダンジョンで試し打ちして暴発しちゃったこともあるし」

「ぼうはっ、おま、無茶し過ぎだろ」

「大丈夫だって。姫から身代わりの腕輪貰ってたから」

どうやら試し打ちの失敗を見越して身代わりの腕輪を持っていったらしい。

売れば一千万円以上はする身代わりの腕輪だが、俺たちの場合はそれを結構自由に使える。

入手しようと思えばまた白浜に行けばいいだけだと姫は思っていそうだし、実際にはインベントリの中に大量に保管されている。

さらに11階層以降まで潜れるようになれば、白浜ダンジョン程ではないにせよミミックが出現するので、やっぱり身代わりの腕輪を入手することができる。

「この階層だと銃は強すぎてオーバーキルだし、他の人に見られるのも面倒だから次からは普通の魔法で倒したほうがよさそうね」

「そうだね」

姫が杖での戦いを勧めると、ミルクはそれに応じた。

薬魔法による聖水攻撃が普通の魔法とは思えないから、炎石魔法や火魔法、土魔法で倒せってことだな。

さらに奥に行くと、また巨大ネズミが現れた。

今度はアヤメが魔法を放つ。

圧縮された風が巨大ネズミを圧し潰した。

魔物は直ぐに消えたが、一瞬凄い気持ち悪いものが見えた。

風のハンマーって、普通の槌と違って透明な分、グロテスクなものを隠すことができないのはネックだよな。

と思ったら――

「え!?」

潰れた巨大ネズミから、今度は巨大なノミが現れた。

「「「気持ち悪っ!?」」」

俺、ミルク、アヤメが声を上げる。

「吸血ノミよ。獣系の魔物の中にたまに潜んでいるの。強くはないけど、攻撃した相手の体力を吸収する吸血ってスキルを使ってくるわ」

「ラーニングしたら便利そうなスキルですね」

「うーん、ラーニングできるかどうかはわからないけれど、試しに使ってみたらどうかしら? 敵がスキルを使う前後にラーニングを使用すれば覚えることができるわ。これを使いなさい」

と姫が身代わりの腕輪をアヤメに渡す。

「ラーニングを使えばいいんですね――」

アヤメは身代わりの腕輪を着けて一歩前に出る。

巨大ノミがアヤメに近付いていく。

「危なくないのか?」

「身代わりの腕輪をしてるから大丈夫よ。吸血ノミが毒を持っているという記録もないわ」

「変な細菌とかは?」

「通常の魔物が保菌者なんて聞いたことがないわね」

ならば安全か。

そして、巨大ノミがアヤメに近付き、ジャージの上から血を吸おうとしたところで――

「やっぱりイヤァァァァァァっ!」

アヤメは杖を振り下ろしていた。

潰れる吸血ノミ。

まぁ、そうなるだろうなって予想はしていた。

「ごめんなさい」

落ちているDコインを拾ってアヤメが謝る。

「気にしなくていいわよ。どのみちラーニングの訓練みたいなものだしね」

ゲームのラーニングと違って、覚えていられるスキルの数は限られている。

熟練度の足りない現在、アヤメが覚えられる魔物のスキルは二種類。

吸血って便利そうに思えるけど、敵に与えるダメージが2割減る上に与えたダメージの25パーセントしか体力が回復しないらしい。ちょうど減った与ダメージ分が回復するといった感じだろう。

ミルクという回復役もいることだし、そこまで必要ではないだろう。

気を取り直して七階層を歩く。

途中、探索者のおじさんと会ったので会釈をしてすれ違う。

普通のサラリーマンっぽいおじさんが大きい剣を持って歩くのってダンジョンの中だと割と普通なんだけど、ダンジョンの無かった世代の人が見たらかなり驚くらしい。

「お嫁さんや子供たちに冷たい目で見られ、週末に家に居づらいからダンジョンに来ている家庭不和のおじさんって感じね」

姫がかなり失礼なことを言う。

そんなこと言われたら、さっきのおじさんがもうそれにしか見えない。

「そんな目的でダンジョンに来てるのか?」

ダンジョンと言えば仕事だと思っていたのだが、時間潰し目的で来ている人もいるのか。

パチンコとか競馬みたいなギャンブルで時間を潰すよりは余程健全だと思う。

ただ、好きで結婚したはずなのに家に居るのが辛いって、そんな大人にはなりたくないな。

と思っていたら魔物の気配が。

気配のする方に歩いて行くと、そこにいた。

猫の姿の陶器の人形。

猫人形だ。

「思った以上に招き猫だな」

俺はインベントリから招き猫を取り出して見比べてみる。

やっぱり招き猫だ。

「泰良、なんでアイテムボックスに招き猫なんて入れてるの?」

「たまたまだよ」

ミルクにそう言って招き猫をインベントリに戻す。

こういうとき、物語だとたまたまって言うのは誤魔化しの台詞であって、重大な伏線や過去があって招き猫を持ち歩いているんだが、俺の場合は本当にたまたまD缶から出てきただけだ。

「アヤメ、前に!」

「はい!」

アヤメが一歩前に出る。

猫人形がジャンプしながら、アヤメに近付いていく。

今度は叩き割るなよ。

緊張が走る。

猫人形の口が開いた。

まるでくるみ割り人形みたいだと思った次の瞬間、なんか気持ち悪い猫の声が聞こえてきた。

これが養蚕守護か。

能力の一部を封印するだけで、特に害はないとわかっていても気持ち悪い声だな。

しかし、さっきと違って特に害はないみたいだし、これで――

アヤメが倒れた。

一瞬、意味がわからなかった。

何があった?

わからない。

彼女が前のめりに倒れたのだ。

何故?

なんで?

養蚕守護は能力の一部を封印するだけのスキルで、特に倒れるようなものじゃないって――

「アヤメ!」

真っ先に駆けだしたのはミルクだった。

彼女を仰向きにする。

凄い汗だ。

熱があるのか?

魔法でポーションを作って彼女にかける。

ポーションはアヤメの体に吸い込まれるように消えていくが、その体調に変化はない。

次の瞬間、何かが割れた音がした。

姫が猫人形を壊したのだ。

顔色が少しマシになった。

このまま体調が良くなるまでここで寝かせておくか、それとも地上に連れて戻るか。

「俺が背負っていく。一階層に戻ろう」

俺はそう判断を下す。

姫もミルクも頷いた。

一体、どうしたって言うんだよ、アヤメ。

俺たちはそのまま一階層の救護室に向かった。

救護室の職員に診てもらっていたが、その途中にアヤメが目を覚ましたらしい。

「アヤメ、大丈夫?」

「うん……大丈夫」

受け答えもしっかりできている。

ステータスを確認してもらったが、体力も魔力もともに万全で、呪いを受けている形跡のようなものもない。

「ごめんね、ミルクちゃん。なんかフラっとして。貧血かな」

「貧血って……そんなんじゃなかったよ」

「……本当に大丈夫だから」

アヤメはそう言って、姫を見る。

「押野さん、ちゃんと養蚕守護覚えられたみたいですよ」

「よかったわ」

「本当によかったよ」

「壱野さんにもご迷惑をお掛けしました」

とアヤメがベッドの上で頭を深く下げる。

「俺は何もできなかったよ」

正直、彼女が倒れたときに一番行動が遅かった俺にそこまで頭を下げられると居心地が悪い。

「そんなことないよ。泰良がここまでアヤメを運んでくれたんじゃない」

「そうね。私やミルクだけだったら大変だったわね。ということで、泰良は一度外に出てなさい」

「え?」

「汗を搔いてるアヤメの身体を拭いて着替えさせるのよ。それとも見ていきたい?」

「外で待ってます」

俺は回れ右して救護室の外に出た。

アヤメが無事で安心したが、一体彼女が倒れた原因ってなんなんだろう?

ただの貧血なわけないよな。