軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鍛冶師のリスク

「壱野くん、この人と知り合いなの?」

「えっと、俺が働いている会社の上司的な人?」

と明石さんの説明をするも、明石さんは首を横に振り、

「いいえ、立場でいえば壱野様が私の上司にあたります」

と訂正を入れてきた。

話をややこしくするな。

水野さんもそのご家族も頭の上に「???」が浮かんでいるのが丸見えだぞ。

事情を簡単に説明する。

「えっと、壱野くんが探索者として大金持ちのお嬢様に気に入られて、そのお嬢様が会社を作ったから壱野くんを理事としてスカウトして、その会社が私をスカウトしようとしている。ただの偶然なんだよ、ハハハハハ――ってことでいいのかな?」

「その通りだ」

最後の「ハハハハハ」は俺が笑って誤魔化そうとしたのを水野さんが的確に表現した結果だ。

でも、それ以上に説明のしようがない。

本当にただの偶然だ。

偶然の神様っているんだな。

「それで、壱野様は何故こちらに?」

「鍛冶師として話し合いをすると聞いたので、少しでもダンジョンのことを知っている俺に友だち兼アドバイザーとして同席してほしいって頼まれたんです」

「なるほど、そういう事情でしたか」

明石さんは淡々と話を続ける。

そんな中、水野のお母さん(水野にかなり似ている)がお茶を置く。

プリンのコップじゃなくて、ちゃんとした湯飲みだ。

そして、明石さんが改めて水野さんに名刺を渡す。

「私、EPO法人天下無双で事務及び採用担当をしております明石翔上と申します。この度は当社からのメッセージに返事を下さり、誠にありがとうございます」

「よろしくお願いします。私もメッセージをいただいて嬉しかったです」

「さて、当社ですが、押野リゾートグループの関連企業として――」

と明石さんがちゃんとしたパンフレットを用意して、水野さんに会社概要について説明を受ける。

本来は俺が説明しないといけない側なのだが、むしろ、俺が「へぇ、こんな会社だったのか」「福利厚生? え? 押野グループ系列の招待券とかもらえるの? 説明受けてないぞ。俺は無料で利用できるけど――」って感じだった。

大学進学のサポートとして、たとえば東京や地方などの大学に行く場合の宿泊用の部屋の無償提供、テストなど必要な時間に応じて休暇取得可能、押野グループ系列の家庭教師の無償利用などまさに至れり尽くせりって感じのサポート体制。

さらに、水野さんの勤務体系について。

週2回のてんしばダンジョンでのスライム退治によるレベル上げ。今後大学卒業まで最短六年間でレベル30を目指す感じらしい。

かなりゆっくりなペースだが、鍛冶師は守備値が非常に低く危険なステータスのため、この速度は致し方ない。

給料は週2回の出勤で基本給20万円。さらに夏休みや冬休み、春休みなどの長期休暇に出勤したらボーナス査定。

スキルが生えたら、それに応じて昇給検討。

注意するべき点としては、水野さんの都合で退社した場合三年間他の企業での鍛冶師としての仕事をしないこと。

こちら側の契約の不履行による退社の場合や理事が許可をした場合はその限りではない。

あくまで、こっちがレベルアップのサポートをしっかりしているのに、スキルが生えた途端、他の企業に引き抜かれたら困るってことだろう。

「以上になります。何か質問はございますでしょうか?」

「あの……ダンジョンってやっぱり危ないんでしょうか?」

明石さんの顔が真剣になる。

そして、彼女は語り始めた。

「……先に万博公園ダンジョンや石舞台ダンジョン等で起きた本来は現れないはずの魔物の異常発生による死亡事故を除くと、安全マージン制度のお陰で安全なダンジョン探索が行われています。しかし、それでも過去五年間で約400人の方が亡くなっていて、そのほとんどはニュースにもなりません。そして、魔物が原因で亡くなっているのはその半数の約200人」

魔物以外が原因は何か? と言われたら、その答えは人間同士の揉め事らしい。

魔物を倒して現れた時価数百万、数千万はするレアアイテムを巡って殺したり、ダンジョンの中では防犯カメラもないし、何かあったら魔物のせいにすればいいと思ってその中で犯罪行為をする探索者も少なくないそうだ。

もしかしたら、魔物が原因だと言われている200人も本当はもっと少ないのかもしれない

「そして、200人のうち、鍛冶師は4人です」

「4人だけですか」

「鍛冶師の数は非常に少ないのです。探索者全体と比べたら一万人に一人にも満たないでしょう。死ぬリスクだけで言えば、単純計算で鍛冶師の方は普通の探索者と比べて250倍死の危険と隣り合わせにあるということもあります。もちろん、安全対策は万全にサポートいたします」

「――っ!?」

明石さんは全てを正直に語った。

鍛冶師が危ないって言うのは聞いていたが、そこまで危なかったのか。

「俺は反対だ」

いままで黙って話を聞いていた水野さんの親父さんが言った。

「真衣、お前は優秀だし、手先も器用だ。なにも命を懸けて鍛冶師になることはない」

「そうよ、真衣。明石さんから聞いてずっと考えていたの。鍛冶師に覚醒した人もほとんどは鍛冶師にならずに普通に生きているって言うわ」

「でも――お金は必要でしょ?」

「お前はまだ子どもだ。お金の心配なんてする必要はない」

「私、もう十八歳だよ! 成人してるんだよ!」

「高校生のうちはまだ子どもだ。」

「だったら高校を辞める!」

と言ったとたん、水野さんの親父さんの手が振り上げ――そして自分自身の顔を殴りつけた。

本気で殴ったのだろう。

鼻から血が出ている。

そして、水野さんの親父さんは頭を下げた。

「明石さん、わざわざ来てくださって感謝します。ですが、今日のところはお帰り願えないでしょうか? 我々にはまだ心の整理がつきません」

それはとても深いお辞儀だった。

血が床に滴り落ちて、赤い円を生み出している。

「かしこまりました。何か質問等がございましたら、いつでもご連絡下さい。こちらは私個人のメールアドレスになります。急ぎの用事などがございましたら、こちらの方が早く連絡が付くと思います」

と明石さんは名刺の裏に自分のメールアドレスを書いて帰って行った。

水野さんのお母さんが親父さんに金融会社の広告の入っているポケットティッシュを渡して、鼻血を拭くように言う。

「すまないな、真衣。俺が不甲斐ないばかりにお前に迷惑をかけて」

「お父さん、私、迷惑だなんて思っていないよ。これからも絶対に思ったりなんてしない」

水野さんは涙を浮かべて言った。

だが、水野さんの親父さんは首を横に振る。

「これは俺のエゴだ。お前が鍛冶師になって万が一取り返しの付かないことになったら、俺は俺のことを一生許せなくなる」

「私も同じよ。真衣、あなたも本当は戦うのが怖いんでしょ? そうじゃなかったら、髪の毛が銀色になっちゃったとき、必死に隠そうなんてしないでしょ?」

「お母さん、私が鍛冶師に覚醒してたこと、前から知ってたの?」

「私はあなたのお母さんよ。当然知ってたわ。お父さんは最近まで知らなかったみたいだけど」

と言うと、水野さんの親父さんは恥ずかしそうにそっぽを向く。

「私はね、真衣が本当に鍛冶師になりたいって言うのなら、危ないってわかってても応援するつもりだったの。だって、このお父さんと結婚するときも周囲の反対を押し切って結婚したんだもん。でもね、あなたが私たちのために危険を顧みずに鍛冶師になりたいっていうのなら、絶対に反対するわよ」

「お父さん……お母さん……ごめん。私、本当は鍛冶師になりたくない」

水野さんは泣いた。

「魔物と戦うのが怖いの。前に魔物と戦ってる探索者の配信を見たんだけど、襲い掛かって来る魔物の殺気、見るだけで震えて三日三晩夢に見たくらい……」

「当然だ。命を狙われて笑っていられる方がどうかしてる」

水野さんの親父さんが言った。

水野さんのお母さんも微笑んで、水野さんの肩に手を置いた。

優しい家族だな。

「でも、鍛冶師として何かを作ったり整備したりするのは面白そうだなって思ってたんだけどね」

「そうだな。俺のスマホで毎日鍛冶師専門ちゃんねるを見ていたな」

本当にいい家族だよな。

俺だけ非常に場違い感がある。

このまま黙っていなくなって、家に帰って親孝行でもしたくなってきた。

「うん。戦わずにレベルが上がったらいいんだけど――そんな都合のいい話あるわけないよね」

「戦わずにレベルが上がる方法ならあるぞ」

「「「え?」」」

俺が口を挟むと、水野さん親子の声が同時にハモった。

感動的なシーンで俺が喋ってもいいものかって思ったが、ここで言っておかないとそのまま忘れられそうだった。

「いや、前から考えていたんだ。水野さんが戦わずに鍛冶師として一人前になる方法。身代わりの腕輪を使っても100%安全ってわけじゃないし、そしたらこれしかないかなって」

と俺は鞄から(取り出すフリをしてインベントリから)経験値薬を取り出した。

栄養ドリンクサイズの小瓶だ。

「これを一本飲めばスライム1000匹分の経験値が手に入る。7本飲んだらダンジョンに潜らなくてもレベル10になれる」

最近適正価格で全然売れなくて、家に山ほど在庫が残ってるんだよな。