軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

初めてのダンジョン配信

ダンジョンが出現したと報告を受けた。

テントから出ると、さっきまで何もなかった場所に地下に続く階段が出来ていた。

PDができるときもそうだったけれど、物音とかそういうのは一切なく、ひっそりと生まれるんだよな。

まぁ、ダンジョンができるたびに大地震でも起こったら大変だよな。

最初に剣を持った自衛隊の人たちが中に入っていった。

一階層の安全を確認した後、信玄さんが入る。

最後に入るのが俺たちだ。

それまで約十分。

「では、皆さん。配信クリスタルのテストをします。姫お嬢様、こちらをどうぞ」

明石さんがそう言って姫に紫色の水晶――配信クリスタルを手渡す。

彼女はそれを腰の鞄に入れた。

メインの配信クリスタルに何かあったときのために、予備の配信クリスタルを俺が預かり、インベントリの中に入れる。

そして、姫が配信クリスタルを起動した。

すると、パソコンのモニターに、俺たち四人の姿がアバター化して映った。

さっき見せてもらったアバターだが、こうして実際に動いている姿を見ると面白いな。

リアルタイムではなく少し遅れている。

だいたい3秒ほどだろうか?

「あ、あ、テステス」

『あ、あ、テステス』

声質も俺のものとはだいぶ違う。

「声が遅れて聞こ えるよ」(『声が遅) れて聞こえるよ』

腹話術士の真似をするが、実際のところアバターの口の動きにはぴったり合っているので全然遅れて見えない。

「泰良、なにやってるのよ」

『ベータ、なにやってるのよ』

ん?

姫、俺のことをベータて呼んだか?

いや、普通に喋っていたときは泰良って呼んでたよな。

ベータと言ったのはパソコンの中の姫か。

「個人情報保護を最大にしていますので、個人名も自動的にコードネームに切り替えられます。初期設定で、姫お嬢様がアルファ、壱野様がベータ、東様がガンマ、牧野様がデルタとなっております。コードネームはお嬢様の要望でそのまま行きます。また、住所や誕生日などの情報は自動的に音声を遮断、ただし年齢、性別は通常通り流れます」

「それは助かりますね。喋る時に気を使わなくてもいいんですから」

アヤメがそう言って、モニターからガンマが復唱する。

「また、視聴者からのコメントも規約違反のものや個人情報を探る目的と思えるもの、意味の無いと思えるものは全て削除し、必要なものだけをクリスタルに送ります」

と言う。

クリスタルが光り、空中に文字が現れた。

【接続数:1/1】

〔サポート:このように文字を送ります〕

〔サポート:テスト用文章〕

へぇ、配信クリスタルってこういう風になってるのか。

凄い画期的だな。

「これ、通常の配信にも使えそうだよな。10万円は高いけれど、機材とか整えたらそれ以上かかるだろうし」

俺はそう独り言をつぶやくも、明石さんは首を横に振る。

「それは難しいですね。配信クリスタルはダンジョンの外では魔石がないと動きません。だいたい5分で黒の魔石を1個消費します」

「黒の魔石が1個500円だから、1時間で6000円か……そりゃ難しいですね」

トップクラスの配信者なら元が取れるだろうけど、そんな人なら普通に高価な撮影機材を買うだろう。

そういえば、青木も販売所の店内撮影は普通のカメラを使ってたな。

と、五分経ったのか配信クリスタルの光が失われ、データが消えた。

パソコンの画面もオフラインに変わっている。

さらに、今回は政府からの依頼のため、投げ銭機能は無い等、細かい説明を受ける。

「オッケー、使い方はわかったわ」

「はい。ですが、配信はあくまでついでですので、普段通りダンジョン探索をしていただいて、時々、クリスタルに来ている文字を読んで、答えたい質問にだけ答えてくだされば構いません。今回は天下無双の名前が出るわけでもありませんし」

「そうさせてもらうわ。まぁ、最低限視聴者に見てもらえるようにはしてみるけどね」

と姫が言ったところで、俺たちの出発の時間になった。

ダンジョンに潜っていく。

普通のダンジョンの入り口とは変わりがない。

ただ、PDだとダンポンが、通常のダンジョンだと換金所のある場所には誰もいない。

できたてのダンジョンっていう感じがする。

早速、姫がクリスタルを起動した。

【接続数:124/124】

〔はじまった〕

〔わくおつ!〕

〔こんにちはー!〕

「お、いきなりメッセージが来てるな。124人ってそんなに見てるのか?」

「一応新しいダンジョンの調査だからね。ええと、これから大阪府の東部、天女ヶ池に新しくできたダンジョンの配信を始めます。政府から依頼を受けている調査ですので、ふざけたことはできませんし、面白いことはないと思いますが、日本国内のできたばかりのダンジョンの調査は黒のダンジョンを除いて八年ぶりになります。どうか時間の許す限りご視聴ください」

〔なんでアバターなの?〕

「これは政府が新開発したダンジョン配信ソフトのテストプレイを兼ねています。私たちの姿はアバター表示されています。ダンジョン配信の新しい形になるはずです。政府が今後無償で提供する準備をしています。詳しくはダンジョン局のホームページをチェックしてください。と、以上が政府から最初に伝えるように言われていたことよ」

姫はいつもの口調に戻り、

「本当に面白味の欠けるダンジョン調査になると思うけど。あぁ、自己紹介だけはしておくわ。私は押野姫」

「壱野泰良だ」

「東アヤネです」

「牧野ミルクだよ」

と自己紹介をすると、

〔なぜギリシャ文字?〕

反応があった。

うん、ちゃんと名前が自動変換されているようだ。

「私たちはちゃんと本名を名乗ってるんだけど、配信されるときに自動的に予め入力した名前に変換されるのよ。アルファとかベータっていうのは初期設定ね」

と姫が説明をした。

まぁ、説明はこのくらいでいいだろう。

〔なんでさっきから子どもが仕切ってるの?〕

……あぁ、慣れていたが当然の疑問が来た。

明石さんが送られてくるコメントを厳選しているはずなんだけどこれが流れてくるってことは、同じ質問が山ほど届いてるんだろうな。

「私は子どもじゃないわよ! ここにいる四人は全員18歳だけど、私が一番お姉さんなんだからね!」

「はいはい、姫、落ち着け。じゃあ、一階層に行くぞ。普通のダンジョンは換金所があるんだが、今日はできたばかりのダンジョンなので誰もいないから、扉を抜けてスライム狩りに行くからな」

と俺は怒る姫を宥め、ダンジョンの奥へと進んだ。

一階層では普通にスライム退治だけだ。

交代で倒していく。

俺は剣、姫はクナイ、ミルクとアヤメはそれぞれ魔法で。

〔スライムしか出ないね〕

〔どこでも一階層はスライムしかでない〕

〔※ダンプルダンジョンは除く〕

〔エジプトのカイロにあるダンジョンにはミイラスライムが出るらしい〕

〔ミイラスライム<それは都市伝説。軍が管理してるダンジョンだから変な噂が出てるだけ〕

〔アルファちゃん、ちっちゃいのに頑張ってて偉い〕

文字が浮かんでいく。

結構いろんな人が見てるんだな。

「あ、スライム酒が出たな」

俺がスライムからスライム酒を取る。

これで二本目だ。

〔スライム酒キタ―――(゜∀゜)―――― !!〕

〔これ二本目だな。なんでこんなにスライム酒が出るんだ?〕

〔新しいダンジョンに人を集めるための仕込みじゃない?〕

〔映像が加工されてるから信憑性に欠ける)

とやっぱりそうなるよな。

スライム酒の数の異常さに気付き、動画そのものを怪しみ始めている。

幸運値が高いのは今回の配信で視聴者に気付かれると思っていた。

壱野泰良としては幸運値の異常さを伝えるつもりはないが、ベータとしてなら話してもいいと思っている。

姫との出会い、EPO法人化、そして今回の政府からの依頼で、俺という立場は普通の高校生とちょっとだけズレ始めている。

この際、幸運値については暴露したほうが、政府からの仕事を受けるときにも便利だし、なにより俺が入手したアイテムを国やお偉い方に売る時の言い訳も考えなくていい。

こうすることは、さっきダンジョンの外で姫たちと話し合って決めていた。

「何かあったら、私が全力で守ってあげるわ。ドンと宣言しなさい」

「私もパパのコネに頼ることになると思うけど、絶対に泰良に変なことはさせないから」

「私は押野さんやミルクちゃんみたいにお金もコネもありませんけど、絶対に壱野さんを一人にさせません」

みんながそう言ってくれたから、俺は自信を持って言える。

「俺は幸運値の 尖端異常者(シャープアブノーマル) だから、スライム酒は集めやすいんだ」

これで、もう後戻りはできないぞ、壱野泰良。