軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エンペラートレント

若草山ダンジョンの四十五階層もまた森の中だった。

あちこちから魔物の気配がするし、妙な鳴き声も聞こえる。

エンペラートレントは鳴かないので、他の魔物の声だろう。

[森林浴にちょうど良さそうな森]

[ワイ、現場から帰ってきた。外極寒だよ。ダンジョンの中は暖かそう]

[森林浴が死隣浴になるくらい危険だよ]

[四十五階層とか滅多に人が来ないからな。素材の加工難易度が高すぎて逆に買い取り価格が低くなってDコインの換金でしか稼げないって聞くし]

[そもそも四十五階層まで行ける人間が少ないの巻]

うん、まぁ本当に見た目だけならいい森だよな。

木が密集しているわけでもないから、目印さえ残しておけば迷うこともなさそうだし。

「じゃあエンペラートレントを探すか。姫、分身はしないのか?」

「エンペラートレントはちょっとね」

姫が言葉を濁すように言った。

彼女の攻撃はアサシン系。

魔物の急所――首や目を刺してダメージを与える方法を得意としている。

エンペラートレントのようなわかりやすい急所がない敵は天敵と言ってもいい。

もちろん、致命傷を与えられなくても他のサポートはいろいろとできる。

何より彼女は最近、俺も持っている気配探知のスキルを取得した。

それがあれば、森の中に紛れているエルダートレントを探し出すのは容易となる。

木を隠すなら森の中――ただし気配探知を持っていない相手に限るってことだ。

「じゃあ、姫には分身を二体作ってもらって、それぞれ姫をサポート役に三手に別れるか。ミルク、火魔法を使うのはダメだぞ」

「もう、そんなのわかってるよ。土魔法もちゃんと鍛えてるから大丈夫だよ」

「アヤメ、悪いが姫とは別にゼンを使って空から周囲の偵察は任せたぞ。何か異変があったら逐一連絡してくれ」

「はい、わかりました」

と言っている間に、姫が二人の分身を作っていた。

一人が俺につく。

そして、三組バラバラに別れて討伐を開始した。

魔物の気配を頼りに向かうが、そこにいたのはヒヒの魔物だった。

だいたい四十階層のボスくらいの強さかな?

俺が手を出す前に、姫がミスリルのクナイで首を掻っ切っていた。

トレント相手に力を発揮できない腹いせだろうか? とても素早い行動だ。

だったら俺はエンペラートレント相手に集中しよう。

「どうせなら亜種を狙いたいな――」

「必要ないわよ」

「そうか。俺たちが狙ってるのは本体ではなく種だから、亜種でなくてもいいわけか」

「そういうことじゃなくて――」

と姫が言ったとき、早速魔物の気配を感じた。

そこにあったのはただの大木。

だが、その大木全体から敵の気配がビンビン伝わってくる。

間違いない、エンペラートレントだ。

ただし、なんか銅色なんだが。

これ、気配探知を使わなくても簡単に見つけられるレベルの木だぞ。

ゲームの8番出口だったら即座に引き返すべき異変だ。

「狙って探さなくても、どうせ泰良が探せば亜種が出てくるでしょ」

姫が呆れるように言った。

と思ったらエンペラートレントが早速枝で殴りかかってきた。

剣で受け止めようとするが、動きがピタリと止まる。

姫の投げたクナイがエンペラートレントの枝の影に刺さっていた。

影縛り――影に短剣を突き刺すことでその影の場所を動かなくするスキルだ。

姫の奴、去年よりクナイを投げる時のモーションが早くなってるな。

集中してる時の俺じゃなければ見逃していたぞ。

PDを使って自主練に励んだようだ。

「俺も負けてられないな」

俺は影獣化を使い全身に影を纏う。

さて、俺も正月の間遊んでいたわけじゃないってところを見せないとな。

影獣化の特徴は纏っている影をある程度自由に動かすことができる。

俺は手に影を集め、拳を二倍くらいに大きくすると、エンペラートレントを思いっきり殴った。

ゴォンと銅の音が響く。

もしかして、中に空洞があるのだろうか?

「硬いな」

「でも効いてるわよ! ラッキーパンチの効果が出ているわ」

俺に殴られた衝撃で、エンペラートレントの身体が姫が影縛りで動きを封じている枝を支点として回転する形で大きくぐらついた。

「だったらもう一撃!」

と俺が岩の上に着地して踏ん張ったとき、足下が爆ぜた。

その衝撃で俺の身体が宙を舞う。

逆さになりながら見ると、俺がいた地面からエンペラートレントの根が生えていた。

どうやら地面の下から攻撃されたらしい。

岩を砕くとか馬鹿力め。

俺は飛んできた岩の中から一番大きな岩を見つけ、それを足場に跳躍する。

「もう一発!」

俺が全力で殴った。

それがトドメとなり、エンペラートレントはようやく倒れた。

残ったのは、エンペラートレント木材とDコイン。

んー、残念、種は出なかった。

[岩の塊が空に浮かんでるけどどうなってるの?]

おっと、視聴者からの質問が。

さすがに説明しないとわからないか。

「俺は空を自由に動くスキルがないから、飛んできた岩を足場に移動したかったんだ。でもアニメと違って飛んでる岩って足場には向かないんだよ」

「だから、私が影縛りを使って空の岩の動きを封じたのよ。泰良がそれを足場に移動できるように」

細かいやり取りは念話で行った。

一瞬のことなので、【足下の岩縛って!】という頼みだったが、姫は直ぐに理解して行動してくれた。

[あの一瞬でそんな連携してたのか]

[お前らもう結婚しろよ]

視聴者さんが揶揄ってくる。

悪いな、俺等もう結婚してるんだ。