軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鹿神の角

久しぶりに四人揃っての動画配信だ。

やってきたのは若草山ダンジョン。

前にエルダートレントのいる階層まで潜ったので、転移陣で一気に移動。

さらに四十階層まで猛ダッシュだ。

「四十階層のボスは鹿神……ってヤバくないか? 奈良で鹿って――鹿は神の遣いだぞ」

「神の遣いどころか、神そのものみたいですけどね」

「私もジ〇リ好きだから、鹿の神様と戦うのはちょっと怖いな」

アヤメが指摘し、ミルクが躊躇うように言った。

「前にも言ったけど、ダンジョンボスの神っていうのは、あくまで人間ではない存在の呼称よ。付喪神とかそういう類。他の国の表記だと神様とかそういう意味の言葉は一切使われていないわ。そんなことしたら色々と問題になるもの」

確かに、一神教系の宗教関係者が文句を言いそうだな。

とはいえ、奈良で鹿か。

「もちろん、泰良たちみたいな意見もあるから、四十階層のボスの配信はしないわよ。『奈良で鹿を倒すなんて』ってクレーム入ったら困るもの」

「そんなクレームが入るの?」

「入るわよ、なんなら『魔物は人間並みの知能を持っている動物だから殺すのは間違ってる』ってクレームメールもたまに送られて来るわよ」

街中に出た野生の熊を銃殺したらクレームが入る時代だからな。

そういうことはあるか。

波風を立てないためにも、さっさと終わらせて配信開始時間までに四十一階層に入るとするか。

俺たちはボス部屋に入った。

ボス部屋の広さは甲子園球場のグラウンドくらいある。

若草山ダンジョンは木々が生い茂る緑のダンジョン。

ボス部屋も例外ではなく、植物だらけだ。

死角も多く、アヤメの式神による視界の確保と念話による伝達が攻略の鍵となる。

『……見つけました。たぶん鹿神です』

アヤメが早速ボスを見つけたようだ。

動いておらず、ただじっとしているらしい。

ただ、何か歯切れが悪いな。

俺たちはアヤメの式神が見つけた鹿神のいる場所に。

そこにいたのは――

「ミノタウロスの亜種か?」

「鹿神よ」

「リアルせ〇とくん?」

「鹿神よ」

全長三メートルの巨体、ミノタウロスの上半身を鹿にしたような化け物がいた。

鹿の角が生えているが、あれを鹿と呼びたくはない。

なんで首を落としていないのに既に巨人になっているんだよ。

デイダ〇ボッチよりは遥かに小さいが。

さっきまで鹿を殺すことを躊躇っていたミルクが複数の銃を取り出し、周囲に展開させた。

その時だった。

鹿神が走り出した。

二足歩行で。

「速っ!?」

見た目の巨体とは裏腹にその速度はかなりのものだ。

ミルクの銃から放たれた石の銃弾を死角を利用し次々に避けていく。

だが――

「チェック!」

ミルクが言った。

鹿神の逃げた先にミルクの銃が一丁待ち構えていたのだ。

近距離からの銃による攻撃、さすがに避けられない。

と思ったとき、まるで金属と金属がぶつかるような音が聞こえた。

金属ではなく、ミルクの放った石の銃弾と、鹿神の角が当たった音だった。

鹿神は銃弾を避けられないと悟ると、即座に角で受け止める道を選んだようだ。

「硬いなぁ、もう」

ミルクの魔法の銃弾は炎石魔法の熟練度によりかなりの硬度になっている。その硬さは鉄よりも遥かに硬い。

だが、鹿神の角はさらに上をいったのか。

「代わろうか?」

「ううん、悔しいから泰良は解体包丁の準備をして待ってて」

縦横無尽に舞うライフル銃。

既に俺の目には何も映らず、アヤメの形代から送られてくる念話による情報と銃声だけが戦局を物語る。

というかアヤメから送られてくる距離と方角だけでよく銃の狙いを定められるな。

そして、アヤメもよくそんな正確に伝えられるな。

と考えていたら、鹿神がミルクの銃に追い詰められてこっちに向かって走ってくる。

そしてミルクはそれを待っていた。

先ほど仕留め損ねたライフル銃がまた先回りしていたのだ。

放たれる銃弾。

鹿神もまた角で受け止めようとするが、放たれた銃弾は角を砕いた。

「ミスリル弾を装填したの」

ミルクが説明した。

貴重な金属であるミスリルを銃弾に使うなんて――って思われるが、うちのパーティに限って言えばミスリルは使い放題だからな、

角を砕いたミスリル弾は鹿神の側頭部に命中。

よろよろと倒れる。

もう虫の息って感じだ。

俺は急いで解体包丁を使い、無事な方の角を切り落とした。

それがラストダメージとなり、鹿神は光の粒子となって消える。

「お疲れ様」

姫がそう言って、落ちてる肉を拾う。

【神鹿肉:最高級の鹿肉の中の鹿肉。臭みはなく、旨味が凝縮されている】

ジビエ肉か。

美味しいんだろうが、あのミノタウロスもどきの姿を見ると食欲はそそられないな。

ちなみに、さっき斬り落とした角。

魔物解体用包丁の効果で消えずに残っている。

そう言えば、ミルクは最初から角を切り落とさせるつもりでいたが、どういう効果なんだ?

【鹿神の角:超万能薬の素材の一つ。これ単体でも粉末にして飲むと強力な精力剤の効果がある】

精力剤って。

そもそも、どうやって粉末にするんだよ。

「いずれ必要になるし、保存しておいてね」

ミルクが言う。

姫とアヤメも頷いた。

必要になるって……万能薬の素材としてだよな?

そう思いながら、配信していなくてよかったと安心した。

こんなところ全世界に配信されていたらクレーム電話が鳴りやまないぞ。