軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

会議とテイム

別にアメリカのパンダが汚いとかではなく、単純に見やすさの違いらしい。

アメリカのワシントンでは大行列で見るのも大変だったそうだが、ア〇ベンチャーワールドでは行列もなければ長蛇の列もない。

一番前で見ることができる。

時間制限で入れ替えられることもない。

うん、確かにそこは平日のア〇ベンチャーワールドならではだよな。上野動物園でもこうはいかない。

たぶん、アメリカでは人垣の後ろで姫がジャンプしながら見ようと頑張って、でも背が低いから全然見ることができなかったという苦い思い出があったのだろう。

人垣の後ろでツインテールを揺らしながらぴょんぴょんジャンプする姫の姿が脳裏に浮かぶ。

「じゃあ会議を始めるわよ。アヤメ、そこにある飲み物を回していって」

姫はパンダのニット帽をかぶったまま、パンダのぬいぐるみを脇に置き、「飲むみかん」と書かれている瓶入りのジュースを全員に配る。

会議でみかんジュースは聞いたことがないが、喉が渇いていたのでありがたい。

さっそく飲んでみると、その濃厚な味に、本当にみかんをそのまま飲んでいるかのような錯覚さえ覚える。

安かったら買って帰ろう。

「まず、一昨日、府から連絡が来て、私と泰良、アヤメの探索可能範囲が拡張されたわ。通常より三階層深い部分まで探索が可能よ。私とアヤメなら八階層、泰良なら十階層ね」

それは朗報だ。

十階層か。

そこまで行ってPDに反映できるようなら、レベル上げも今よりさらに捗るな。

「ミルクがいま五階層まで探索できる奴と同じだな。ミルクは先週の段階で五階層まで行けてたけど、俺たちはそれより遅かったんだな」

「うちのEPO法人は認可されるのが遅かったのと、ベテランの探索者がいないことが原因ね。なにしろ高校生二人に大学生一人だもの。事故があったときにマスコミに叩かれるのを避けたかったんでしょう。でも、そこは なんとか(・・・・) したわ」

なんとかって、何をしたんだ?

いや、知らぬが仏だな。

「それで、明日だけど、ミルクは四階層、アヤメと私は七階層、泰良は八階層を探索して様子見ってことでいいかしら?」

「五階層まで入れるよ」

ミルクが手を上げて言うが、姫が首を横に振る。

「ダメよ。レベル11で単独の五階層は危険だわ。今回はレベルを上げるのを目標にするのじゃなくて、魔法の熟練度を上げるのを目標にして」

姫がそう言うも、ミルクはどこか納得できないようだ。

「あの、それだが、サポートを付けるのはどうだ?」

「泰良がサポートに回るの? 泰良はうちのエースよ。できれば泰良は独自でレベル上げを頑張って、四人で揃って深い階層に行くときに先導してほしかったんだけど」

「いや、俺じゃなくて、クロに任せようと思うんだが」

「クロ? 新しいメンバー?」

姫が首を傾げて尋ねる。

「クロちゃんは壱野さんの飼っている黒いワンちゃんです」

アヤメの話を聞いて、ミルクがげんなりした口調で言う。

「あのね、泰良。動物はダンジョンの中に連れて入る事はできてもレベルは上がらないの。スライムや歩きキノコは倒せてもゴブリンを倒すこともできない」

「いや、クロは見た目は犬だが、実は魔物なんだよ」

「「「えっ!?」」」

「缶ガチャから卵が出るだろ? その卵から孵ったのがクロなんだ」

D缶からドラゴンの卵が出たと言う話があったのを思い出して、そう言う設定にした。

狼は哺乳類だから卵から孵らないって思うかもしれないが、D缶の卵からケット・シーという猫の魔物やスタンプボアというイノシシの魔物が孵った事例がある。

だから、クロも卵から孵ったという設定にすることにした。

「見た目は可愛いが、頭もいいし、かなり強いぞ。脚の速さは俺以上、力は姫以上、何より嗅覚が優れてるから魔物を探しやすい。臭いを覚えたら特定の魔物だけを狙って狩ることも可能だ」

「明日、クロって犬がどれだけ戦えるか確認して、問題ないようならミルクとクロのコンビで五階層探索していいわよ」

その後、各階層に現れる魔物や攻略パターンを姫が解説。

なんか学校の授業みたいな感じだった。

メモを取るためのノートとシャーペンが用意されているから猶更だ。

勉強慣れしているのか、ミルクとアヤメはこの状況に特に不満はない様子で真面目にメモを取っている。

「以上よ。これで会議は終わるわ。夕食は19時30分から二階のレストランで食べましょ。それまでお風呂に入るなり部屋で寛ぐなり好きにして」

やっと終わった。

って、もう19時じゃん。

風呂は普段カラスの行水の俺でも、温泉くらいはゆっくり入りたい。

風呂は夕食のあとでゆっくり入るか。

とりあえず部屋に戻ってゆっくりと休もう。

その前に、この飲むみかん、ホテルの中にあるコンビニに売ってないかな?

「泰良だけ残ってね」

……居残り命令が下った。

ミルクとアヤメが部屋に行き、俺だけは残った。

「それで、泰良。クロって魔物。どこで手に入れたの?」

「さっき言っただろ? D缶で――」

「確かにD缶から魔物の卵は手に入るわ。でも、魔物の孵化には専用の孵化器が必要なの。日本国内にある孵化器は十二。関西では大阪と神戸に一個ずつ。どちらも押野グループが管理しているわ。ちなみに、魔物の卵が出るのは稀で、うちのグループの孵化器が使われたのは三年くらい前かしら? 一度でも使われたら社内が騒ぎになるはずなんだけど、泰良はどこでクロを孵化させたのかしら?」

「…………あぁ、えっと……」

「私にくらい正直に言っていいんじゃない? 静岡のこともダディにも黙っていてあげてるのに」

詰めが甘い――というより、姫の情報管理能力が凄い。

押野グループの情報管理が杜撰とは思わない。単純に、彼女がその情報を見る立場にあり、その立場を最大限に利用しているだけだ。

また姫に秘密の共有が増えるのか。

「これは俺から聞いたって言うなよ。黒の迷宮で生まれた魔物は、他のダンジョン内で倒せばテイムできる可能性がある」

「それが条件?」

「黒の迷宮で生まれた魔物は倒せば黒の迷宮に還るそうなんだが、ダンポンの管理する迷宮の中で倒せば黒の迷宮に還ることができず、その力が残る。それが魔物として生まれ変わり、テイムできる条件になるらしい。あの時、静岡でダークネスウルフに襲われたのは見てただろ? そのダークネスウルフを拘束し、全部終わってからダンジョンに連れて行って殺したら仲間になったんだ」

「どこか嘘っぽいんだけど。地面に潜るスキルについては聞かない約束だものね。一応納得してあげるわ」

PD生成のことを話さずに終わるとこんな感じか。

もう、ここまで話したら姫にだけはPD生成について話してもいいんじゃないかと思えてくるが、PD生成は悪事に利用しようと思ったらいくらでも利用できる。

教える情報と教えない情報の線引きはしっかりしないと。

「この話、検証して公表してもいいかしら?」

「黒の魔物を生け捕りにするのか?」

「逆よ。通常のダンジョンのレベルの低い魔物をダンジョン外に連れ出して、黒の迷宮内で倒すの。GDCグループの検証チームなら可能よ。泰良の名前は伏せて調査、そして公表させてほしいの」

「公表するのか?」

「ええ。ダンジョンの魔物がテイムできるとなったら、いろいろと使い道があるわ。それに、調査が進めばもしかしたら――」

「もしかしたら?」

「気にしないで。仮説段階だから」

「じゃあ気にしない。まぁ、公表とかは好きにしていいよ。魔物がテイムできることが一般的になれば、クロを普通の犬だって偽らなくても済むかもしれないし」

「魔物をテイムするのが普通になっても、ダークネスウルフをテイムするのは普通じゃないわよ」

やっぱり犬だって偽り続ける必要はありそうだな。