軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

研修前の儀式

ダンジョン局に辿り着いた。

この隣にあった雑居ビルが工事中になってる。

何が建つんだろう?

この辺りって飲食店がないから、飯が食べられる場所があればいいな。

一応、社員食堂があって一般人の利用もできるんだけど、なんか学食みたいな感じで普段高校の学食に行くこともある俺としては新鮮味がないんだよな。

「この雑居ビルの土地はダンジョン局が買い取ったぞ。本館と別館の二つで運営するそうだ」

「別館が建つんですか」

「新しく本館ができて、いまの本館が別館になるらしい。新しくできる本館にはダンジョン産の食品を使ったレストランもできるそうだが、主な理由は職員が増えたから部屋が狭くなったらしい。なんでもかなりの人数の職員を中途採用したらしいからな」

「景気のいい話ですね」

アヤメが言う。

本当にな。

天下無双にも採用希望の履歴書が送られてきて、中途採用の事務職員は増えたもんな。

探索者の方は妃さんとホワイトキーパーのメンバーを雇用した後はその後、全然採用していないけれど。

「月見里研究所は月見里先生以外はいらっしゃらないんですか?」

「他の研究員も参加するが、本部に行っているはずだ。私たちの研究所は関東にあるからな」

閑さんはトゥーナ(と俺)のことを観察するために一人出向という形でうちの高校に来ているからな。

ロビーに行くと、姫が代わりに受付を済ませてくれていた。

「お待たせ」

「待ってないわよ。はい、お茶と資料」

「サンキュー」

と姫から緑茶のペットボトルと研修の資料を受け取る。

ってあれ? 前はサ〇ガリアのおいしい茶(個人の感想ではなく商品名)だったが、今日はコ〇・コーラの綾〇になってる?

「ダンジョン局ってやっぱり予算が増えてるんだな」

「どこを見て判断してるのよ」

「いやいや、俺みたいな庶民は新しいビルの建設より、こういうお茶の変化の方がわかりやすいんだぞ。特に俺は綾〇が好きだから嬉しい。なぁ、ミルクもアヤメもわかるだろ?」

「そうだね。私は生〇の方が好きだけど」

「わかります。私はおー〇お茶が好きです。押野さんはどの緑茶が好きですか?」

「……伊〇衛門よ」

「「「やっぱり」」」

なんかそんな気がした。

姫が好きそうな名前だもんな。

そう思っていたら、ミルクが何か思いついたように俺の横に立ち、上目遣いで念話を送ってくる。

『ねぇ、泰良。今度、梅田の伊〇衛門カフェに行ってみない? 前からちょっと行ってみたかったんだ』

『そうだな。みんなで行くか』

俺がそう伝えると、ミルクが俺にだけ見えるように少し不機嫌そうな顔をする。

もしかして、二人で行きたかったのか?

『二人なら例のパンケーキの店に行こうな』

『……!? うん、ありがとう』

よし、セーフ。

「ちの太くん、待たせたな。どうする? 並びで座るか?」

姫を見ると頷いたので、閑さんの提案を受け入れ、研修室の三人掛けの長テーブルに前後分かれて別に座る。

俺の右は閑さん、左が姫、後ろにミルクとアヤメって感じだ。

さて、あとは研修を待つだけだなと思ったら――

「泰良、寛いでる暇はないわよ。名刺を出しておきなさい」

「え?」

姫がそう言って名刺入れを出すように言う。

確かに山ほど作った名刺が国民栄誉賞以降ほとんど手つかずの状態で手元にある。

俺たちが荷物を置くと同時に、なんか大勢がこっちに来た。

「押野姫さん、初めまして。自分、集談館の佐々木と申します。国民栄誉賞のニュース拝見しました」

「はじめまして。集談館さんが発行している週刊ダンジョンは私も愛読しています。お会いできて光栄です」

「迷宮食堂の沼山です。先日の配信拝見しました。京都ダンジョンで手に入れた寿司折についてお話できればと思いまして――」

「ありがとうございます。寿司折については現在多数の問い合わせをいただいておりまして、当社ホームページの方で――」

「洞窟探検の新たな供、ダンジョン靴メーカーの金城です。先日メールで問い合わせた試作品を今日お渡しできればと思い――」

なんか凄いことになっていた。

全部聞いたことのあるEPO法人ばかりが、姫に挨拶にやってくる。

と思ったら、その余波は俺たちのところまできて、次々に名刺交換が始まった。

主な仕事の内容は姫の方に行き、俺のところへ来るのは雑談のような感じで話してくる人がほとんどだ。

しかし、その名刺の数は段々と増えていく。

えっと、あの人が佐々木さんで、こっちが大山さん、あの人は岩塚さん……だっけ?

全然覚えられない。

前回の研修ではこんなことにはならなかったのに。

これも顔出しでニュースに出た影響か。

閑さんに助けを求めようかと思ったが、彼女は既に席を立ち、別の人と仕事の話をしていた。

研修会って、研修が始まる前はこういう社交の時間なのか。

名刺交換から解放されたのは研修開始の三分前だった。

一生分名刺を貰った気がする。

「三人とも、受け取った名刺は後日オフィスに持ってきてね。全部クラウドに保存しておくから」

「全然覚えられなかったんだが」

「私もだよ……社交には慣れてると思ったんだけど、ここまでいろんな人と話すのは初めてかな」

「私は全員の顔と名前は覚えましたが、話の内容が混乱しそうです」

「覚えておかないといけない人の名前と写真だけあとで送ってあげるわよ」

おぉ、姫が優しく言ってくれた。

それでもかなりの数がいそうだが。

「今日は完全に受け身だったけど、今度はこちらから挨拶に行けるようにならないとね」

そうなると、やっぱり顔を覚えないといけないな。

そう思っていたら、顔を覚えている人が入ってきた。

トヨハツ探索の本城さんだ。

本城さんも俺たちに気付いたようだが、彼が荷物を置いた直後、別の社の人に挨拶に向かわれていた。

この前のお礼を言いたかったのだが。

「トヨハツが大阪に来ることは稀だからな。ここぞとばかりに繋がりを持ちたい企業も多いのだろう。彼とは研修が終わった後に会うことになっている。話はその時でいいだろう」

いつの間にか席に戻っていた閑さんが言った。

そこにダンジョン局の局長さんと職員数名が入ってきた。

研修が始まるようだ。