軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

花蓮とキサイチくん(その1)

それを見た瞬間、あたし――胡桃里花蓮の顔から血の気が引いたのを感じる。

もしも鏡で自分の顔を見たら、あたしの顔はガ〇バ大阪のマスコット、ガ〇バボーイくんの髪のように真っ青になっているところが見えたはず。

「な、なんっすか? この木の人形は。箒とチリトリを使って掃除してるっすけど、新しいAIロボット掃除機っすか? だとしたら最先端なのかアナログなのかわからないっすよ。あははは」

あたしは空元気で笑って言うけれど、これが本当にロボット掃除機であることを願わずにはいられない。

しかし、箒とチリトリを使って掃除をするロボットというのは、技術的には非常に難しい。

しかもこの木の人形は正確にゴミとそうでないものを区別しているし、本にしても読んでそのままにしていた本は本棚に戻し、今使っている本はそのままにしている。

最近のAIは進化しているとしても、ここまで人間と同じような思考ができるとは思わない。それに、こういうAIってインターネットに同期して運用されている。

機密情報満載のこの部屋だ。

機密情報の漏洩を考えると、そういう最新AIを用いたロボットを配置するとは思えない。

だとすると、これはやっぱり水野先輩が作ったロボットだろう。

このロボットの需要は計り知れない。

特に一般企業が求めるという点で。

某ファミリーレストランで導入されている猫型の料理提供ロボットよりも使い勝手がいい。

当然、そのロボット作りはあたしも手伝うことになる。

ただでさえ今の仕事でも手一杯なのに、これ以上仕事を増やすなんて。

「違うよ、花蓮ちゃん。これは私が作ったパペットくんなの」

「はぁ、パペットっすか」

水野先輩が作ったもので確定してしまった。

そしてきっと私も――

「これはスキルで動いていて量産できないからね。私たちのお手伝い専用パペットだよ」

「え?」

事情を聴く。

水野先輩はパペット作成というスキルを入手し、そのスキルによりパペットを作ることができる力を手に入れた。

操れる数は現在五体のみ。

そのうち一体はチーム 救世主(メシア) のベータさんが、水野先輩のレベル上げのために連れ出しているので、この家には四体のパペットがいるそうだ。

「考えてみると、日本でも現在最も有名と言えるベータさんが直々に水野先輩のレベル上げを手伝ってくださるって、凄い贅沢な話ですよね」

「あはは、そうだね。でも、私にとってベータくんは雲の上の人じゃなくてクラスメートの一人って印象の方が強いから、友だちに宿題を手伝ってもらっているみたいな印象かな? そうだ、パペットくんたちを紹介するね」

水野さんがそう言うと、別の三体のパペットが降りてきた。

全部種類が違う。

「まず、この子。掃除とか家事とかいろいろとしてくれる通常のエルダートレントで作られたプロトタイプのパペットのクニジマくん」

「クニジマくんっすか?」

通常のエルダートレントって、21階層の魔物のはず。

それがプロトタイプってことは、他のはエルダートレントの亜種ということだ。

その木材は非常に貴重なはずなのに、惜しげもなく使われている。

さすがは天下無双の力――いや、恐らくはベータ様の幸運の力。

そのパペットともなると、いったいどれだけの価値があるのか――

「それで、この子が栗の木のパペットのキサイチくん。家庭菜園のお世話をしてもらってるの」

そして、そのパペットに家庭菜園のお手伝いをさせる水野先輩も凄い。

「この子は岩の木のパペットのハナテンくん。一番レアな木っぽいんだ。これがとっても力持ちな子で。荷物の運搬とか得意なんだ」

さっきから大阪の難読駅が入ってくる。

じゃあ、最後の一人はなんだろう? ナカモズくん? スミノドウくん? カタノシくん?

「それで、最後にこの子は松の木のパペットのキレウリワリくんだよ。松茸の養殖をしてもらってるの」

「キレウリワリを名前にするのはどうかと思うっすよっ!? って、松茸の養殖っすか!?」

松茸の人工栽培は非常に難しく、成功例がないと聞く。

それをパペットの力を使っているとはいえ成功させているなんて。

「うん。この子に何が得意かって聞いたら、松茸の養殖ができるって教えてくれてね。もう何十本も作ってくれてるんだ。花蓮ちゃんも何本か持って帰ってよ」

「あ……ありがとうございます」

「うん。ベータくんが持ってきてくれたダンジョン産の松茸に比べたら味は落ちるけど、それでもいい香りだからみんなで食べてよ」

ダンジョン産の松茸ってダンジョン松茸……一本の値段は……もう考えるのはやめよう。

「じゃあ、今日の分の仕事をしようか」

「納期は待ってくれないっすからね」

「頼んだら待ってくれるけどね」

「それは考えたら負けっす。一度許されたら、それが普通になってしまいかねないっすからね」

今日の仕事が始まり、そして定時になった。

「これ、いいっすね。一人連れて帰りたいっす」

クニジマくんを見てあたしは率直に言った。

クニジマくん、とっても痒い所に手が届く。

あの機材が欲しいなと思ったとき、何も言わないでも持ってきてくれるし、ちょっと休憩しようと思ったら飲み物を淹れてくれる。

「クニジマくんはあげられないかな。弟と妹も気に入って一緒に遊んだりお風呂に入ったりしてるから」

「お風呂にっ!? え? それって平気なんっすか?」

「機械じゃないからね。あと、檜風呂にも使われている特殊防水加工を施しているから水の中でも平気だよ」

「さすが町工場のお嬢様っすね。こだわりが半端ないっす」

そういうこだわりは本城のお嬢様も持っている。

もっとも、あっちは金にものをいわせたこだわりだけれど。

あたしは規格通りの物を作るのが得意なので、そういうオプションマシマシみたいな仕様は苦手だ。

もしかしたら、あたしが最初に模造スキルを覚えたのはそういう考えが影響したのかもしれない。

「だから、連れていくならキサイチくんにしてくれない?」

「え? いいっすか? キサイチくんを?」

「うん。一応戦闘もできるよ。キサイチくんが戦った経験値は私に入るから任せっきりにはできないけど、補助にはなるでしょ」

確かに生産科は人数が少なく、探索科の四人とはレベルの上がりが違うから、何か手伝ってもらう時以外は一緒に戦えない。

そのため、ダンジョンではソロか本城のお嬢様と一緒に戦うかの二択しかない。

キサイチくんの補助が入るのは助かる。

「いいんっすか? 壊れるかもしれないっすが」

「大丈夫だよ。ベータくんみたいに連続何百時間戦闘とかしないのならね」

「え゛!?」

チーム 救世主(メシア) の皆さんって、連続何百時間も戦ってる?

それが強さの秘密。

そうか、水野先輩が長時間集中して仕事ができる理由は、チーム 救世主(メシア) の一員だからかもしれない。