軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

壱野の秋のD缶祭り(後編)

俺はPDの一階層を走り回っていた。

スライムを集めるためだ。

殴って殺してしまわないように猫の手を使って、一カ所に集めていく。

さすがは魔物出現率十倍。

ちょっと走り回っただけで百匹くらいのスライムを中央に集めることができた。

これだけ集めれば十分だろ。

改めて開封条件を見る。

【開封条件:対象の体力の百倍以上のダメージを与えて、三十匹の魔物を倒す】

【開封条件:一度に魔力を500消費する】

【開封条件:飲用アイテムを一度に5個ドロップさせる】

集めたスライムは三十匹を遥かに上回っている。

問題はスライム酒だな。

今の幸運値ならスライム五体を倒せば一本はスライム酒がドロップする。

十分一度に五本手に入れられる確率だ。

さて、あとはこいつらを最大火力で纏めて倒すだけ。

D缶を一度収納し、影獣化を使用。

そして――

「解放: 地獄の業火(ヘルファイア) 」

闇を纏った強大な炎が一カ所に集められたスライムを呑み込んだ。

塵芥すら残さず燃やし尽くし、Dコインとスライム酒を残して消え失せた。

おっ、スライム酒がちゃんと五本出ているな。

「ふぅ、疲れた。やっぱり獄炎魔法は疲れるな」

なにしろ魔力を全て消費する最強魔法だ。

まぁ、そのお陰で今回はD缶を開けることができたのだが。

影獣化により威力は上昇。

本当は琴瑟相和を使いたかったが、まぁこれでも十分だろう。

収納していたD缶を三つ確認する。

よし、しっかり開いてるな。

まず、一個目。

【開封条件:対象の体力の百倍以上のダメージを与えて、三十匹の魔物を倒す】

のD缶の中身を見る。

「おっ! スキル玉だっ!」

いきなり当たりのようだ。

詳細鑑定Ⅱを使ってスキル玉で覚えられるスキルを確認する。

【獅子搏兎の恩寵:オーバーキル達成時に※各種ボーナスが与えられる】

各種ボーナスについて調べてみる。

経験値、Dコイン、アイテムのドロップ率に影響があるらしい。

【開封条件:一度に魔力を500消費する】

さて、これの中身は?

魔法系だとは思うが……スキル玉じゃないな。

薬か。

【大魔力ポーション:飲むと一瞬で魔力が完全に回復する】

あぁ、うん。

通常の魔力ポーションは飲んでも即座に魔力が回復したりしない。

使い捨てだが、切り札として使える。

使い時を見誤らないようにしないと。

そして三つ目。

【開封条件:飲用アイテムを一度に5個ドロップさせる】

の中身を見る。

さて、何が出るかな? 何が出るかな?

「おぉ、魔法の水筒か」

魔法の水筒もいろいろな種類が集まってきたが、D缶の魔法の水筒は面白いものが多い。

さて、今回は――

【魔法の水筒(MIX):魔石を入れるとミックスジュースが出るようになる。魔石(黒)で約3リットルのミックスジュースが出る】

大阪色が強い魔法の水筒が出たな。

大阪といえばミックスジュースだもんな。

あとでみんなで飲んでみよう。

きっと喜ぶだろう。

特にミックスジュースはカレーとの相性もいい。

全てが片付いて、彼女がエルフの世界に戻る日が訪れたその時には、魔法の水筒(カレー)と一緒にプレゼントしてもいいな。

ロビーに戻ると、何かが爆発した。

「アヤメ、大丈夫かっ!? ってなんだこれ?」

あたりに飛び散ってるのは……ダチョウの卵か?

この前、メカダチョウを倒したとき、卵もいくつか手に入れた。

その卵が割れて飛び散っている。

「だ、大丈夫です。ちょっと魔法の制御に失敗してしまって」

「魔法の制御?」

「はい。雷魔法と火魔法を融合させて、ちょうどいい具合に卵を温められないか試していたんですが」

爆発卵になってしまったと。

電子レンジで卵を温めたら爆発する原理と一緒か。

「あれ? でもアヤメって火魔法使えないよね?」

「微魔法の中に『 火花(スパーク) 』という火花を散らせる魔法があるんです」

「とりあえず一度着替えてきたら?」

「大丈夫です。大魔術師のローブは汚れに強いので」

とアヤメの言う通り、パンパンと服を伸ばすと、服についていた卵が染みにもならずに床に落ちていく。

むしろ、顔を洗う必要の方がありそうだ。

「じゃあ……解放: 水球(ウォーターボール) 。これで顔を洗ってよ」

「ありがとうございます」

顔と髪についた卵液を洗って取る。

タオルはロビーに何枚も置いているので(生駒山上遊園地で自衛隊の人から貰った物資)、それを使ってもらう。

「ありがとうございます」

「いや、このくらいしかできなくてごめんね。ドライヤーは――」

「大丈夫です。解放:《 暖かい風(ドライヤー) 》」

魔法でドライヤー?

これはわかる。

暖気の服(ウォームウェア) と風魔法を融合させたんだな。

「オリジナル魔法?」

「はい、十個目のオリジナル魔法です」

「十個目ってことは、D缶の開封に成功したんだ」

「はい。スキル玉が出ました」

スキル玉か。

アヤメたちは詳細鑑定がないから正確にはわからないが、これまでの経験則でD缶から一個だけ出たダンジョンドロップはスキル玉だというのが俺たちの共通認識になっている。

鑑定させてもらう。

【魔札作成:魔法を封じた札を作成することができる】

魔札作成?

魔法を封じた札?

聞いたことのないスキルだが。

「魔札作成ですか。珍しいスキルですね」

「アヤメは知ってるの?」

「はい。押野さんに教えてもらった会員制サイトで見ました。魔法を封じた札を作ることができるスキルで、その魔札を破ることで魔法を発動させることができます」

「すごっ!? え? じゃあ俺もその魔札を使えばアヤメの魔法も使えるってことか。『ゴッドサンダートルネードぉぉぉっ!』とかできるのか?」

実はアヤメが得意とする、雷を帯びた竜巻の魔法はカッコイイと思っていた。

「魔札に封じられるのは熟練度に応じて変わってくるようですけど、 雷神(ゴッドサンダー) 竜巻(トルネード) のような強力な魔法は簡単には封じられません。たぶんですが、壱野さんが前にしたようなスキルのランクアップが必要になると思います。それと、威力はオリジナルに比べてだいぶ落ちるみたいですよ。ダンジョンの外では使えないのも普通の魔法と同じです」

そうか。

さすがにうまくはいかないな。

「ふふふ、私の勝ちよ、クロ」

「わふ」

「くやしいの? 違う? あぁ、お互いの健闘をたたえているのね。ごめんね、泰良みたいにちゃんとわかってあげられなくて」

姫とクロが帰ってきた。

相変わらず早いな。

「どうだった?」

「私のD缶からはゴブリンソードが出たわ。ゴブリン族に対して攻撃値アップの普通の武器。まぁ、ハズレよ。クロのD缶はスキル玉が出たわ」

おぉ、スキル玉三つ目!

今日は豊作だな。

中を見せてもらう。

【肉体再生:魔力を消費して自分の体力を回復させることができる。肉体欠損も再生可能】

むっ、これは凄いスキルだ。

だが、凄すぎてこれは逆に保留だな。

考えたくはないが、例えば俺がこのスキルを取得した後、仲間の誰かが大怪我を負って片腕を失ったとき、このスキルがあったら腕を治すことができたのに……なんて事態になったら困る。

英雄の霊薬は二本予備があるけれど、いつ使うことになるかわからない。

姫とアヤメにスキルのことを話したら二人も同じ意見だった。

PDから出る。

そろそろミルクが帰ってくる時間だ。

「ミルクちゃんはお百度参りですよね? ミルクちゃんの運の悪さが少しマシになるスキルかアイテムだったらいいんですが」

「無理でしょ。あれは運が悪いんじゃなくて、笑いの神の祝福だと思うわよ」

俺も姫に同意だ。

本当にミルクが常識を覆すレベルの運の悪さを持っているのだとしたら、とっくに死んでいるか、死ぬより辛い目に遭っている。

ミルクの運の悪さはそういうものはない。

むしろ、本当に危ない時に、持ち前の運の悪さは決して発揮されることはない。

運の悪さが空気を読んでいるのだ。

だからこそ気になる。

こういう日常のD缶開封。

一体、彼女のD缶の中には何が入っているのか?

「泰良ぁぁぁぁ」

ミルクが泣きそうな声で帰ってきた。

「ミルク、お帰り。まぁ、D缶もハズレは多いから気に病むな」

「D缶が開いたところで、中身を確認する前にカラスの群れに襲われて盗まれちゃった。カラス狂暴過ぎるよ」

「……あぁ、そうか。それは大変だったな。ミックスジュースが出る魔法の水筒が手に入ったから、一緒にミックスジュース飲もうな」

「……うん……ありがとう」

全員でミックスジュースを飲んだ。

バナナと桃とミカンと牛乳のミックスジュースで、非常に美味しかった。