作品タイトル不明
壱野の秋のD缶祭り(前編)
レベル上げと同時に行うのが、D缶の開封作業だ。
俺の部屋に集まり、みんなでクラウドに保存していたD缶の開封条件が書かれた資料をダウンロードして、自分のスマホで確認する。
ダンジョン局に入ってきたダンジョンドロップをもう一度確認させてもらったのだが、スキル玉はほとんどなかったし、あったスキル玉のスキルもショボいものだった。
スキル玉の存在が世間に広がった結果、D缶だったり珍しい宝箱から出てきたダンジョンドロップは自分で使うようになったのだろう。
高レベルの人は小銭欲しさに深階層の宝箱の中に入っているダンジョンドロップを売ることはないだろうし、これ見よがしにD缶の中に一粒だけ入っているダンジョンドロップも同様だ。
結果、ダンジョン局に売られるダンジョンドロップは浅い階層の宝箱の中に入っているものばかりになる。
それでもスキル玉は混ざっているのだが、確率は千個のうち一個くらいで、そのスキルも強力なものではない。
「泰良、このお百度参りとかいいんじゃない?」
開封条件一覧を見て、ミルクが提案をしてくる。
「お百度参りって、百日間毎日神社に行く必要があるんだろ?」
全然簡単ではない。
何より時間がかかる。
「一日百回でもいいんだよ。石切神社はその一日百回する方のお百度参りで有名な神社なんだって」
「へぇ……一日百回でもいいのか。それでも面倒そうだな」
動画を見せてもらった。
本殿の前でお参りをして、戻ってお百度石という折り返し地点のような場所に戻ってもう一度本殿に行ってまたお参りをしている。
所要時間はだいたい一時間くらいかかるらしい。
「だったら私が行くよ。厄払いの効果もありそうだし」
ミルクが手を挙げて提案する。
「じゃあ、頼めるか?」
「うん、任せてよ」
開封条件をもう一度確認し、ミルクに渡す。
さて、俺は――
「私はこれね! 一日で十万歩走る。私向けのスキルが手に入りそう」
姫が提案した。
「おいおい、さすがに無理だろ。一日十万歩って」
走る歩幅が一メートルの人がフルマラソンの距離を走っても4万2千歩。
姫は背が低いから歩幅も小さいかもしれないが、それでもフルマラソン2回分はあるぞ?
「あら? 別に走る場所はどこでもいいんでしょ? ダンジョンの中を走れば私のいまのステータスだと2時間もかからないわ」
「その手があったか」
これまで走る系のスキルは姫に任せてきた。
今回も任せるとしよう。
さて、俺は何を――
「壱野さん。私はこの有用なオリジナル魔法三個作成っていうものを試してみます」
「オリジナル魔法? え? そんなのできるの?」
「自分で魔法を作るのではなく、魔法融合スキルを使ってみるんです。魔法融合はとても珍しいスキルですし、私は他の人より修得している魔法のスキルも多いですから、きっと誰も使ったことのない魔法が使えます」
なるほど。
アヤメはその髪の色に相応しく、風魔法。そして雷魔法、即死魔法(粘)、大魔術、時間魔法、微魔法と六種類もの魔法を使える。一種類持っているだけでも珍しいと言われる魔法を六種類も使える。
特に大魔術と時間魔法は伝説級の魔法だ。
彼女ならばオリジナルの魔法も作れるようになりそうだ。
「よし、任せる」
「はい! 任せてください」
よし、次だ。
さて、俺は何を開けようか……ん?
影の中からクロが出て来た。
「え? クロもD缶を開けたいのか?」
「わふ」
クロが頷く。
そうだな、クロも仲間だもんな。
「じゃあ、クロにはこのレッドリザードマン500匹狩りを頼む! ちょうどいまのPDの15階層にレッドリザードマンがいるはずだ」
「わふっ!」
クロが返事をした。
クロにベルトを巻き。D缶を縛り付ける。
「泰良、戻ったわよ!」
ちょうど姫が戻ってきた――って早っ!?
「あ、そうか。PDの中だから時間めっちゃ速いのか」
PDの中の1時間はこっちでは36秒だ。
「中身はなんだったんだ?」
「万歩計の魔道具だったわ」
「なんだ、ハズレか」
「そうでもないわ。一万歩カウントされるごとにプレゼントが手に入るみたい。プレゼントはいつでも受け取れるんだって」
「それは面白い仕組みだな」
そういえば母さんのスマホアプリにも万歩計とポイントサービスが一緒になっているアプリがあった気がする。
万歩計とプレゼントが一緒になってるのは最近のトレンドなのだろうか?
「泰良は何をするの?」
「俺はこのレッドキャップ狩りをしようかなって思ってるんだ。クロにはレッドリザードマン狩りを任せたから一緒にやろうかなって」
クロはPDの中に入ることができるが、しかし俺か、もしくは俺の妻三人のうち誰かがダンジョンに入っていないとPDの機能が停まってしまい、クロがダンジョンの中に閉じ込められてしまう。
そのため、クロの単独行動はできない。
「へぇ、レッドキャップ……いいわね! それは私がやってあげるわ!」
「え? おい。それは俺が――」
「だって、レッドキャップ5000匹って泰良がやったら時間かかり過ぎるでしょ? 私なら分身を作れば一人500匹で済むから、クロとも時間の調整をしやすいわよ」
「むっ、そう言われてみればそうか。クロ、姫と一緒に行ってくれるか?」
「わふっ!」
クロが頷いて姫と一緒にダンジョンに潜った。
さて、俺のものを選び直さないと。
急がないと姫たちが戻って来る。
よし、これに決めた!
俺は姫たちに邪魔されないうちに急いでPDに向かう。
さて、早速――
「壱野さん! 開けるD缶が決まったんですか?」
「うん。アヤメは順調?」
「はい! まだ開きませんが、いろんな魔法を覚えましたよ」
「へぇ、例えば?」
「 暖気の服(ウォームウェア) と 冷気の服(クールウェア) を融合させて、 適温の服(ナイスウェア) という魔法です。これを使うとどんな場所でもちょうどいい温度でいられます。でも、これはどっちも微魔法ですから、もしかしたら他にも既に開発している人がいるかもしれませんが」
それは便利な魔法だ。
「魔法ってダンジョンの中しか使えないけど、補助効果ってダンジョンの外に出ても続くんだっけ? だったらアヤメに補助魔法をかけてもらってからベッドに戻ればエアコン要らずで眠れるのか」
「寝ている間に効果が切れちゃいますけどね……魔法の熟練度を上げれば持続時間は増やせますが」
「それはいいことを聞いた。熟練度上げ頑張ってくれ! 夏の睡眠時間はアヤメにかかってる!」
「はい。熟練度を上げる薬を飲んで頑張ります」
頼りになるな。
さて、俺もD缶を開けるために頑張らないとな。