軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ミスリルゴーレム

30階層のボス部屋に到着した。

岩山は本当に歩くのが面倒だった。

膨大な体力のお陰で肉体的な疲労は少ないが、足場が不安定なのは厄介だ。これだったら砂漠の方がまだ歩きやすい。

ここまでも何度か謎の探索者――ダンジョン原人の痕跡を見つけていた。

30階層のボス部屋を突破している可能性も考えた方がいいかもしれない。

この先にいるのはミスリルゴーレムか。

「ミスリルゴーレムってことは、全身ミスリルでできているんだよな。売ればどれくらいになるんだろ?」

「ミスリルはまだまだ研究途中の金属だけど、電気製品に使われる様々なレアメタルの代替品として使われるから高値で取引されるわ。ダンジョン局の依頼に出されているわね」

「特にトヨハツが欲しているそうだって、スミレから聞いたことがあります。ダンジョン学園の授業で学んだみたい」

「ミスリルは軽くて頑丈だから最高品質の車を作るのに必須なんだって」

姫とアヤメ、ミルクが言う。

つまり、ミスリルはいくらあってもいいってことだ。

神造猿神もミスリルの塊を落とした。だいたい一キロの塊だったか。

何度も倒したので百個以上のミスリルの塊があるが、それでも200キロにも満たない。

ミスリルゴーレムを丸々手に入れることができれば一気にミスリルが集められる。

〔わかる。俺もアイアンゴーレムを丸々持って帰れたら高性能の鉄として販売できると思ったことある〕

〔実際、アイアンゴーレムを倒しても鉄のインゴット5キロを落とすだけだもんな〕

そうなんだよな。

敵がミスリルの塊でもその死体がそのまま使えるわけではない。

……いや、待てよ?

あれを使えばもしかして――

「一応作戦会議だけど、トゥーナは戦いに参加するの?」

「……ん、見てるだけにする」

トゥーナは一緒に戦わない。

吸血鬼のヴァレンと戦ったときも、彼女は自らに降りかかる火の粉を振り払うために魔法を使いはしたが、攻撃する気配はなかった。

「だったら、まずは――」

「待ってくれ。試してみたいことがある。最初は俺一人で戦っていいか?」

姫の作戦立案を遮り、俺は言った。

「試してみたいことって?」

「新しい武器を使ってみたいんだ」

と俺は姫の耳元で囁くように言う。

姫は大きくため息をつき、「またバカなことを考えたわね」と褒めてくれた。

そして、姫は配信クリスタルを使って、明石さんに何か指示を出す。

「ただ、攻撃力が落ちるし剣術スキルも使えなくなるから琴瑟相和を使って欲しい」

琴瑟相和を四人で使えば、基礎ステータスが三分間限定で二倍に跳ね上がる。

「いいけど、三分で倒せなかったらみんなで攻撃していい?」

ミルクが言った。

そうだな。

俺が試してみたいことはまず初手でわかる。

だったら、三分経過したらみんなで倒す――でもいいや。

俺は頷いた。

その後、俺の作戦が終わった後の行動を確認し、ボス部屋に入った。

「これがミスリルゴーレムか……イメージしていたのと全然違うな」

「ゴーレムの形はダンジョンによって変わるから」

「とはいえあれは……正直気持ち悪いです」

「うん、私も苦手」

てっきり巨大な人形だと思ったが、まるで蜘蛛のような八本足の金属ロボットだった。

もっとも、大きさは普通の蜘蛛の比ではない。

ダンプカーくらい大きい。

〔なんて素敵な形。製作者はわかってるな〕

〔蜘蛛型のゴーレムは何回か配信で見たことがあるが、天井を這うこともあるから気を付けて〕

〔脚の一本、二本削っても死なないから厄介〕

リスナーはそう言うけれど、俺にとってはむしろ僥倖だ。

脚を斬っても死なないのならむしろ好都合。

俺は武器を取り出した。

武器は短剣――いや、包丁だ。

行くぞ――

「「「「琴瑟相和」」」」

身体に力が漲る。

俺は単独で蜘蛛に向かった。

ミスリルゴーレムがこちらに向かってくる。

動き方が気持ち悪い上に、方向転換も自由自在ってか。

だが――

「遅いっ!」

琴瑟相和がなくても同じ30階層の神造猿神に圧勝できる俺たちの敵ではない。

俺は包丁を使い、ミスリルゴーレムの脚を一本切り落とす。

次――さらにもう一本切り落とす。

残り六本。

「なっ!」

魔力付与しているのに、包丁が僅かに欠けた。

やっぱり武器としては使いにくいか。

あとでダンポンに修理を頼むとして俺は包丁を逆手に持ち、包丁の柄でさらにもう一本の脚を叩き潰す。

包丁の使い方としては最悪だ。

短剣術を使える姫ならもっと上手に戦えるだろうが、全身ミスリルのミスリルゴーレムは通常の攻撃では効果が薄い。

俺は簡単に脚を斬り落としているように見えるけど、ラッキーパンチの効果だろう。

と――

ミスリルゴーレムが網状の糸を放ってきた。

本当に蜘蛛のゴーレムだったのか!?

この糸もミスリルでできているようだ。

からめとられたら力づくでの脱出は不可能だろう。

俺は包丁でその糸を切り裂き――

「解放: 水刃(ウォーターカッター) 」

魔法を放つが、弾かれた。

生半可な魔法攻撃は無効化すると言っていたな。

俺の魔法では獄炎魔法以外では効果がないだろう。

「解放: 短距離転移(ショートワープ) 」

ミスリルゴーレムの背後に転移すると、無事な側の脚を斬るが――また包丁が大きく欠ける。

これは包丁としてはもう使い物にはならない。

と思ったら残りの脚で俺に向かってくる。

あぁ、これはダメージを受けるかな? と思ったが――

「解放: 土壁(アースウォール) 」

ミルクが土壁を生み出して俺を守ってくれた。

「俺の我儘はもういいぞ。みんなで片付けよう」

俺はそう言って、包丁ではなく刀を抜く。

それはある意味、ミスリルゴーレムにとっての死刑宣告であった。

いや、俺たちがこの部屋に入った時点で、こいつにとっては死刑執行の準備段階だったか。

ミスリルゴーレムもステータス二倍になった俺たちの敵ではなかった。

〔またつまらぬものを斬ってしまったbyベータ〕

〔何度か音声規制かかったけどな――何のスキルだったんだろ〕

〔転移魔法使えるのは想定の範囲内〕

〔魔法に強い耐性のあるはずのミスリルゴーレムが風魔法でズタズタになるのは爽快だった〕

〔ボス退治お疲れ様。今日もいいもの見れた〕

リスナーの評判も好評。

そして――

「はい、今日は配信終了です。次回の配信は未定です。決定次第、ダンジョン局のホームページ及び天下無双の公式SNSにてお知らせいたします」

「……この配信は、ハ〇ス食品の一社で提供いたしました」

トゥーナが最後にスポンサー名を読み上げて頭を下げた。

そして――

〔サポーター:配信、終了しました〕

明石さんからのメッセージが届く。

「明石、例の物は見られていないわね」

姫が確認する。

まぁ、不特定多数に見られたら困るよな。

だけど、これが可能であることを示唆する動画は配信したかった。

俺たちは振り返る。

そこには、いくつもの魔物の残骸があった。

ドロップアイテムではなく、残骸。

【魔物用解体包丁:魔物の素材を剥ぎ取ることができる】

俺が使った解体包丁により、ミスリルゴーレムの素材がいっぱい手に入るのではないかという検証だった。

「これで、ミスリルの大量獲得が可能になったな」

「でも、量産体制を整えるにはいまの解体包丁の強度だとかなり心許ないわよ? 真衣に強化してもらわないと」

水野さんに初めて鍛冶師らしい仕事を任せることになりそうだ。

ミスリルを素材に使ったら、ミスリルゴーレムに負けない包丁になるだろうか?

さて、これについては誰に相談しよう?

上松大臣は流石に専門外だろうから、ダンジョン局の支部長さんかな?

支部長さんたちなら、きっとミスリルを大量に入手する方法を伝えたら、適切に処理してくれるだろう。