軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

無粋で野暮な管理人

シルバーゴブリンの死体が積み上がっては消えていくのを俺はただただ見守っていた。

姫が分身と一緒に倒しているのだ。

梅田から帰ってきて、PDに入ってからこの調子だ。

少し身体を動かしたいから付き合ってと言われて一緒にいるが、休憩をはさんでかれこれ八時間くらいこうして戦っている。ちょっと身体を動かすとはなんだったのか?

ミルクとアヤメも途中までは付き合っていたが、流石に限界を迎えていまは一階層で寝ている。

俺もいまは戦闘には参加せず、ドロップアイテム回収装置と化していた。

「姫――」

「なに?」

「そろそろ休まないか?」

「まだ外では五分くらいしか経ってないでしょ。大丈夫よ」

そう言ってクナイで攻撃をするとシルバーゴブリンの腕に弾かれた。

俺が話しかけたせいというわけではない。

明らかに集中力が欠如している。

シルバーゴブリンが反撃するも、姫はそれを躱し、避けながら攻撃を仕掛けていた。

ハズレ神の効果で俊敏値が増し、巧遅拙速のお陰でさらに攻撃力が増していた。

圧倒的な俊敏値のお陰でいまのところ一太刀も浴びてはいないが、時間の問題な気がする。

「解放: 地獄の業火(ヘルファイア) 」

姫と分身ズを巻き込まない位置に魔法をぶち込み、シルバーゴブリンの群れを大きく削ると姫本体の頭にチョップを食らわせる。

「痛いわね、何するのよ」

「手加減はしてる」

「体力少し減ってるわ。これって家庭内暴力じゃないの?」

「家庭内じゃなくてダンジョン内だろ」

「どっちにしてもDVね」

一瞬意味がわからなかったが、Domestic violenceではなく、Dungeon violenceって言いたいのか。

レベル1で体力が15とかのときに体力が1減ると大怪我の部類に入るが、今の俺たちだと体力の10や20減っても大した怪我にはならない。

「ほら、帰るぞ。無茶はしない。PDに入った時の約束を忘れるな」

「でも……」

「ていうか俺も疲れてるんだよ」

俺は姫の忍び装束の袖口を掴み、引っ張る。

「ちょ、待って、脱げる、脱げるから!」

「そんな簡単に脱げないだろ―― 迷宮転移(ダンジョンワープ) 」

と転移魔法を使い、31階層の入り口に戻り、そこから転移魔法陣を使って一階層に戻る。

「泰良、離してよ」

「無茶するなよ。子どもじゃない――もう十八歳なんだから」

「ちょっと、なんで言い直すのよ」

俺は目を逸らす。

理由を言ったら藪蛇になるのがわかっているので黙ってる。

代わりに、姫が荒れている原因を言う。

「キングさんの件で焦ってるのか?」

「……うん」

「最初から直ぐに追いつけるとは思っていないだろ。何年も、何十年もかけて追いつくって決めたじゃないか」

「うん……でも、時間がないかもしれないでしょ? ダディがいつまでもこの世界にいるとは限らないんだから」

キングの目的は異世界に行くこと。

そして、彼は異世界の勇者である可能性が出てきた。

彼が異世界出身の人間で、その世界に未練があるのならば異世界に行ったらもう戻ってこないかもしれない。

時間がないというのはそういうことなのだろう。

だけど――

「大丈夫じゃないか? キングさんが異世界にどんな未練があるかはしらないけど、戻ってこないってことはないだろ」

「なんでそんなこと言い切れるのよ」

「だって、一緒にいなくても姫のことを大切に思っているってわかったじゃないか」

あの時、姫やキングの子どもたちがダンプルに命を狙われたのもダンプルが勝手にやったことだとわかった。

それがダンプルの目的、そしてキングの目的にとっては効率が良かったことなのだが、それでもキングは反対していたという。それってつまり、彼は目的より自分の子どもが大事ってことじゃないか。

「あと、悩んでいるなら俺にちゃんと言え……その、頼りないかもしれないが、俺はお前の旦那だろ」

と俺は少し照れて言う。

「……泰良……ふふっ、ありがとう」

姫は笑った。

「泰良って、本当に弱ってる女性に優しくするのが得意よね」

「人をジゴロみたいに言うなよ」

「嬉しかったのは本当よ? お礼に何かしてあげようか?」

お礼って言われても、欲しいものはだいたい手に入るし、してほしいことって言うと特には――

「思いつかない?」

「あぁ……」

「だったら、これならどう にゃん(・・・) ?」

姫が上目遣いでそう言った。

にゃんだと!?

「お前、昨日はイヤだって言ってただろ?」

「……あれは配信でするのはイヤって言ったの。泰良と二人きりならこのくらいはいいにゃんよ」

と姫が猫のように俺に擦り寄ってくる。

か、可愛すぎる。

正直、猫語としては未完成だ。

どこかぎこちないし、どこか恥ずかしそうにしている部分もある。

だが、それがいい。

それがカワイイ。

俺の嫁が最高過ぎる。

少し興奮してきた。

いま、寝室はミルクとアヤメが寝ているので、それならここで――

「人間は変な言葉を使うのですね」

突然、無粋で野暮な声が聞こえてきた。

いや、元々この部屋の管理人だからこいつがここにいるのは当然なのか。

「ダンポン、どこに行ってたんだ?」

「さっきまで奥の部屋で仲間と話していたのです。石切ダンジョンの管理人なのですが、なんか三十三階層付近の様子が見れなくなっているようなのです」

「それって大丈夫なのか?」

「できて半年以内のダンジョンにはよくあることなのですよ。廃世界の記憶を見る分には問題ないのです」

そうか、それならよかった。

と思ったら、姫が部屋の奥に向かう。

「姫?」

「お風呂に入って少し寝るわ。あんまり無茶をしたらダメよね」

「あ……あぁ……」

さっきの続きは……あ、うん。もう終わりだよね。

今度から楽しむ場所はしっかりと選んで行おう――そう思ったのだった。