軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【閑話】花蓮のアルバイト-1

あたし、 胡桃里花蓮(くるみざとかれん) は探索者向けバイト情報が載っているフリーペーパーを読んでいたが、いいバイト先が見つからず頬を机の上に押し付けて、フリーペーパーを頭の上に載せた。

「花蓮ちゃん、大丈夫? お腹痛いの? 陀羅尼助いる?」

隣のクラスの桃っち―― 山本桃華(やまもととうか) が、謎の黒い錠剤が大量に入ったボトルを差し出して言う。

「ううん、お腹は大丈夫。いいバイト先が見つからないだけっすよ」

「バイト先かぁ……一緒に新聞配達する?」

「いやぁ、せっかくだし、あたしのスキルを活かした仕事がないかって思ってね。せっかくこの学校に入ったっすから」

この学校は日本国内でも数少ない、ダンジョンが併設されたダンジョン学園の大阪校だ。

本来ならば十八歳にならないとダンジョンに潜れないのに、この学園に入学したら、十五歳からダンジョンの中に入れる。

あたしは初期測定の結果、このダンジョン学園の生産科に入学することができた。

学費、寮での生活費は国からの補助と企業からの寄付のお陰で全て無料なのはいいのだが、それ以外ではお金が必要になってくる。実家からの支援が期待できないあたしにとって、バイトは必須。

ダンジョンに入ったら魔石などのドロップアイテムを手に入れることができるが、その販売代金は在学の間換金することができず、ポイントとして学生カードに記録され、ダンジョン探索用のアイテムの購入のみに使用が認められる。

つまり、学校の外で友だちとタピオカを飲みにいったり、オシャレな服を買ったりするためには使えないってことだ。

ダンジョン内のアイテムを勝手に販売所に持って行って換金すれば、最悪退学もあり得る。

「探索科の他の三人はバイトとかしてるっすか?」

「えっとね――ゆかりんは日曜日に農協の朝市の手伝いに行ってるよ。鏡さんは実家からの仕送りで、スミレちゃんはお姉ちゃんからお小遣いを貰ってるって言ってた」

「スミレちゃんのお姉ちゃんって社会人っすか?」

「ううん、私たちと同じ高校生だけど、探索者をやってるみたい」

ということは、スミレちゃんのお姉さんが高校浪人や留年をしていない限り、十八歳のダンジョン学園所属ではない探索者ということになる。

妹にお小遣いを渡せるくらい稼げているのだろうか?

普通の探索者の場合、最初の数カ月は入場料だけで赤字になるって聞いたことがある。

「本城さんはバイトしてるのかな?」

「あのお嬢様がバイトなんてしてるはずないっす。天下のトヨハツ探索の社長令嬢っすよ」

「確かに……あ、でもトヨハツ探索はEPO法人だから社長じゃなくて理事長令嬢だよ?」

桃っちが納得するように頷いた後、どうでもいいことを訂正する。

トヨハツ探索はトヨハツ自動車系列のEPO法人で、理事長はトヨハツ自動車の社長の弟らしいから、社長令嬢ではなく社長の姪にあたる。

社長令嬢という表現はおかしいとしても、お金持ちであることには変わりない。

そういえば、あたしが憧れるチーム救世主のアルファ様はEPO法人天下無双の理事長で、押野リゾートの社長令嬢でもあることを思い出す。やっぱり探索者として大成するにはお金が必要なのかもしれない。

仕事をしないといけない。

でも、仕事が見つからない。

探索者のバイト情報誌を見ると、だいたいレベルやスキルが条件にあるのだが、それに加え、高校生不可と書いていることが多い。理由はよくわからないけれど、高校生の探索者は低レベルなのに加え、普段は学校があるせいでレベルを上げられないからだろう。

バイト情報誌は新設されたばかりのダンジョン学園に対応していない。

「そうだ! 学園長に相談すればどうかな?」

「その手があったっすね!」

学園長はダンプルと呼ばれる謎生物だ。

元々は黒のダンジョンと呼ばれる人間に害をなす存在だと言われていたけれど、今は日本政府と協力して次世代で活躍する探索者の育成を行っている。

様々な組織にコネがある学園長なら、いいバイト先も見つかるかもしれない。

幸い、この学園は現在生徒が六人しかいないので、こういう細かいお願いも聞いてくれる。

試しに相談してみたところ、あたしのスキルを必要としている職場が見つかった。

一カ月間は仮採用で、その後本採用。

仕事の内容はダンジョン探索者用の魔道具の作成補助。あたしのスキルでも可能らしい。

土日祝限定の一日八時間の勤務で時給は仮採用中は時給3000円、本採用になると最低保証が時給3000円プラス歩合給になるらしい。

仮に土日八時間フルで働けば、二日で48000円、祝日がなくても一か月で約20万円稼げる。

学生バイトとしては破格過ぎる。

本当にこんな条件で働かせてもらえるのだろうか?

そう思ってバイト先に向かった。

「ここ……かな?」

ダンジョン学園から電車で十五分、そこから歩いて二十分。

地図にあったその場所は、どこにでもあるような町工場だった。

工場の中から機械が動く音が聞こえてくる。

呼び鈴が見当たらないので、引き戸をノックする。

返事はない。

考えてみれば、こんな大きな機械音が響いている中でノック音が聞こえるはずがない。

今日、ここに来ることは伝えている。

あたしは工場の戸を開いた。

「あの、すみません」

エアコンがあまり利いていないのか、扉を開けても冷気は漏れてこない。それどころか、逆に中の方が暑いのではないかと思えてくる。

そして、その奥で機械を操作するイケおじがいた。

この人が雇い主の人か。

あたしの声に気付いていないらしい。

今度は大きな声でもう一度言った。

「はじめまして! ダンジョン学園のダンプル学園長の紹介で来ました胡桃里花蓮と申します!」

丁寧な言葉ではっきりと言ったら、

「ちょっと待ってくれ。機械を止めると動かすのが面倒なんだ」

イケおじはそう言って作業を続ける。

私は周囲を見た。

造っているのは何かの部品だろうか?

ほとんど機械で作っているみたいで、あたしのスキルが役立つとは思えない。

暫く待つと機械が止まった。

「悪かったな、嬢ちゃん。で、なんだって?」

「はじめまして! ダンジョン学園のダンプル学園長の紹介で来ました胡桃里花蓮と申します!」

「ダンジョン学園のダンプル? なんだそりゃ」

「え? 今日は採用面接で来たのですが――」

「採用面接? 人材募集なんて出してないぞ」

え?

でも、地図は確かにこの工場だった。

もしかして、ダンプル学園長が間違えた?

条件が破格過ぎると思ったが。

「ちょっと待て――」

とイケおじはガラケーを取り出し、誰かに電話をする。

何を喋っているかは聞き取れないが――

「あぁ、なるほどな。嬢ちゃんを雇いたいのは娘の方だ。いまこっちに向かって――あぁ、もう来たな」

「ごめんね! 地図がわかりにくかったみたいで」

と後ろから声が聞こえた。

振り返ってみると、そこには絹のような白い髪の眼鏡をかけたお姉さんが微笑んでいた。

「はじめまして、水野真衣です」