軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18億円プレイヤー

キューブ狩り対決は俺の圧勝で終わったあと、三人で狩りをする。

俺の基礎剣術の戦い方も見てもらった。

褒められはしたけれど、彼女が本当に興味を持っているのはイビルオーガを倒した俺の隠し玉の一つ―― 地獄の業火(ヘルファイア) だったのだろう。

ダンジョンから外に出る。

俺の服はそのままだが、東さんはウニクロファッションに、そして押野さんは大学生らしいカジュアルな服装になっていた。

忍者の服だったらどうしようかと思ったけれど、ちゃんと着替えてくれてよかった。

てんしば公園の屋台イベントは既に撤去が始まっている。

気付けば朝から潜って八時間経過し、外はもう夕方になっていたのだ。

ダンジョンの中は時間の感覚がおかしくなる。

配信クリスタルの使い方が発見されるまでは外部とのリアルタイムの連絡手段もなく、時計も持ち込めなかったためダンジョンの中と外では時間の流れが異なると大真面目に語る学者までいたほどだ。

リアルタイムのダンジョン配信が行われるようになってからはそれが間違いだとわかっている。

この後、東さんと押野さんと三人で今後の方針について話し合いをする。

家に帰るのが遅くなりそうなので、俺と東さんはそれぞれ自宅に遅くなる旨を電話で伝える。

そして、三人で近くのホテルに移動。

押野リゾート天王寺――押野グループの高級ホテルの一室に案内される。

途中、話題は懐中時計のことになった。

「本当にこの懐中時計、貰ってよかったのか? 結構高いだろ」

「問題ないわ。うちにいくつもあるものだから」

「じゃあ遠慮なくもらっておくよ」

時計はスマホで確認しているので腕時計すら持っていなかった俺だが、こういう懐中時計には少し憧れがあった。

ダンジョン産なのでインベントリに入れて保存できるのは便利だ。

しかもこれ、魔道具なので時間を自動的に調整する機能までついている。

インベントリの中は時間が停まっているが、外に出したとたん自動的に現在の時刻に調整してくれるらしい。

そしてエレベーターは最上階の一つ下の階に停まった。

レストランではなく普通の客室のように見えるが、押野さんはその客室の一つを開ける。

ここもスイートルームなのか、ベッドだけでなくテーブルや椅子もある。

それと荷物も置いてある。

「いまはここに住んでるの。一応片付けてるつもりだけど寝室は覗かないでね」

と言って、彼女は俺たちをゲストルームに案内する。

本当にあるんだ、ゲストルーム。

「レストランで食事するんじゃないの?」

「他の人に聞かれたくないでしょ? ルームサービスで好きなのを頼んでいいわよ。メニューは一応そこにあるけど、うちのシェフに頼めばだいたいのものは作れるから」

「じゃあ、ラーメンで」

「なんでラーメン? 好きなの?」

「いや、こういう高級ホテルのラーメンってどんな味なのか気になって」

あと、ホテルの高級料理って美味しいのは美味しいのだが、自分の記憶の料理と比較が難しい。

食べ慣れているラーメンだったら、味の比較も可能だと思ったのだ。

「いいですね! では私もそれで――」

「オーケー。ご飯と餃子はどうする?」

「餃子だけで。お昼のおにぎりがまだ残ってるから」

「私は……(餃子をニンニク抜きで頼めますか?)」

東さんが小声で言うと、押野さんはニッコリ頷いて、電話でフロントに「ラーメン三つと餃子三人前、どっちもニンニク抜きでお願い。それとご飯を一つ頼むわ」と注文する。

「しかし、東もなかなかの実力者ね。あそこまでの魔法使いはそうはいないわ。これは最高の掘り出し物よ」

「いえ、全部壱野さんのお陰です」

「そう、それよ。壱野、あなたの強さの秘密、少し理解できたわ。あなた、とても幸運値が高いでしょ?」

「どういうことですか?」

「キューブのトレジャーボックスを手に入れた数よ。あの数は異常だわ。きっと、キューブがトレジャーボックスを落とす最低幸運値を満たしているのよ。キューブの最低幸運値は30と低いほうだけど、それでもレベル27で幸運値30っていうのはとても稀よ」

キューブの最低幸運値が30っていうのは知っていた。

30以上あれば、キューブがトレジャーボックスを落とす確率は100%になる。

「まぁね。具体的な数字は正式にパーティを組んだら教えるよ」

「十分よ。それで、仮のパーティってことで、期間は一年間。お互い学生なわけだし、付き合いもあるでしょうから時給制にしましょう。時給100ドルでいいかしら? もちろん、ドロップアイテムやDコインを換金した報酬は公平に分配するつもりよ」

「時給100ドルっ!? えっと、日本円だと……そんなに貰っていいんですか!?」

「当然よ。レベルが上がれば正式な契約時にはさらに金額の上乗せも検討するわ」

さっきの1000万ドルに比べればランクが落ちるが、それでもかなりの額だ。

今日のように八時間いればそれだけで800ドルだからな。

でも――

「報酬の分配については異存はないが、契約金を受け取るつもりはないよ。押野さんに雇われるわけじゃないからね」

ここで上下関係を作るのは得策とは思えない。

あくまで対等にいた方が、いざというときの契約破棄も容易いと思った。

「代わりに押野さんにはいろいろと売り捌いて欲しいものがあるんだ。もちろん、報酬は三人で山分けってことでいいから。個人で売るにはちょっと目立つものでね」

「へぇ、いったいなにかしら?」

「これだ」

「薬? 何の薬かしら?」

「経験値薬。とりあえず10本ある」

経験キノコから作った経験値薬をインベントリから取り出す。

ダンジョン産でなくても簡易調合で作ったものはインベントリに保存できる。

「一本飲めばスライム1000匹分の経験値になる」

「便利なものもあるんですね」

東さんが経験値薬の入った瓶を手にとり呟く。

「日本だと500万円くらいで売ってるらしいよ」

「500万っ!? え? 10本で5000万円ってことですか!?」

「買値はね。売値はもっと安いかもだけど。これを売るには鑑定所で鑑定してもらう必要があるけれど、これだけの量を鑑定所に持ち込んだらさすがに悪目立ちするし、金持ちに売る伝手もない。押野さんならそういうの可能でしょ?」

「面倒な仕事を押し付けるわね。それで――いったいどれだけの量を用意できるのかしら?」

東さんが不思議そうな顔をした。

何故なら、俺は「10本ある」と宣言したばかりだからだ。

だが、押野さんは俺が言おうとしていることを理解していたのだろう。

「毎週同じ量を用意する。あと、スライム酒の赤い奴も。これが本当に扱いに困ってる。家に50本はあるんだが」

「……っ!? 想像以上ね。あなたの幸運値を聞くのが怖くなってきたわ」

東さんはわかっていないって顔をする。

「東、聞いて。赤いスライム酒は一本200万円が相場よ? それが50本あるの。壱野がダンジョンに潜れるようになってまだ一ヶ月にも満たないその間に、赤いスライム酒と経験値薬だけで彼は1億5000万円を稼いでいるのよ。一年だと18億円よ」

「――っ!?」

「壱野はそれだけ幸運値が高いってわけ。それこそ公になったら誰に身柄を狙われるかもわからない。一応、私たちを信用してくれたってことでいいかしら?」

「完全じゃないけど、ある程度は信用しているさ。それに、一緒にパーティを組んだらドロップ率の異常さはバレることだからな」

「光栄ね」

そして、押野さんは東さんの方を見てさらに続ける。

「ダンジョンのアイテムっていうのはね? 一部例外はあるけど深く潜れば潜るほど高値で売れるものが手に入るの。その時、彼がいたらいったいどれだけの収入がもたらされるか? それこそさっき私が言った時給100ドルなんて誤差の範囲でしかなくなるわよ。そして、その報酬の三分の一は東のものになる」

「――っ!? そんな、壱野さんのお世話になりっぱなしってわけには――」

「強くなればいいのよ。そして、隣で壱野を支えるの。あなたには才能がある。もちろん、私もね」

少し東さんと押野さんが仲良くなってきたな。

同じパーティを組むわけだし、その方がいいだろう。

といったところで、ルームサービスのラーメンが到着し……なんだとっ!?

俺はラーメンをじっくりと観察する。

高級な漆塗りの器に入ったとんこつラーメンは量は決して多くなく、シンプルでいてそれで美しい。

しかし、それだけなら俺は驚かなかっただろう。

驚いたのは一緒に運ばれてきた箱だ。

その箱の中には十種類以上のトッピングがさながらお節のように小分けにして入っている。

さながら、自分で好きな味のラーメンを作ってみせろと挑戦状をたたきつけられたような気分だ。

そうか、俺はホテルのラーメンの前では 挑戦者(チャレンジャー) だったってわけか。

そのトッピングボックスの上には、野菜メインの点心があって、見ただけで身体にいいとわかるその料理のお陰で、たとえ夜中に注文したとしてもその罪悪感を打ち消してくれる。

食べる前から俺は完敗した。

「壱野さん、これ。いまルームサービスのメニューを見たんですけど、この値段」

「値段? まぁ、ホテルのラーメンだし、高いとは思うけど……一杯8000円!?」

なんだとっ!?

俺は驚愕した。

8000円あったら何杯ラーメンを食べられるか。

「1億5000万円も稼いでるのにそこを気にするの」

18億円プレイヤーだと言われても、心が庶民なのは変わらないんだよ。